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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第3章~キャリオ(2)パルピン近郊~

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(53)オレは取引をする

 オレはすっかり動揺していた。

 目の前にいる敵、今まで追いかけて来た相手の事を一瞬忘れてしまう程。

 

 我に返った後も尾を引く疑念と自己嫌悪。

 

 尚も鳴り続けている南門の鐘の音が頭の中へ警告として響いて来てようやく目が覚めた。

 

 クソッ! 何をやってるんだオレは!

 

 ユミロフの乗ったバシャは今正に視界から消えようとしている所だった。

 

 超足!

 

 バシャはキリール街道へ入り、やはり北門へ向かっていた。

 

 ホークは客車の下にまだいるんだろうな。 

 オレが見てない間にバックレてない事を祈る。

 

 それにしてもカンカンうるさい。

 一体あの鐘は何を知らせているのだろう。


 特に南方面から人が逃げて来る様子もないので魔物が出たとかいう類ではないだろうし、火の手も見えない。

 

 町中がプチパニックになっているおかげで、バシャは飛ばせないし外を多少怪しく動き回っていても誰にも見咎められないのはありがたい。

 

 超足中に人にぶつかりそうになるのは厄介だが、建物の上を屋根伝いに移動すれば全く問題なかった。

 

 何にしろ色々とラッキーだった。

 この何デシベルか計測不能そうな程の騒音被害を除けば。


 少し先回りして北門近辺で一番高い建物の上からユミロフのバシャをウォッチ。

 

 いつの間にかバシャは北門のすぐ近くまで移動している。

 

 鐘が打ち鳴らされているような非常事態でもすんなり門を通してくれるものなのだろうか。 

 普通は一時出入り禁止になりそうなものだが。

 

 一抹の不安を覚える。

 

 ああ、やはり門番に止められたぞ。

 さっきの門番だ。

 

 ん!?

 

 北門の外側から入って来る人影が――畜生!!

 

 超足!

 

 間に合え! 間に合ってくれ!

 調子に乗って高見の見物なんかしてたからだ。くそ!

 

 建物から下りて北門へ急ぐ。

 バシャはもう門の外で出てしまったらしく、見当たらない。

 

 ――――遅かったか。

 

 門番が門のすぐ近くにうつ伏せに倒れていた。

 大量の流血と微動だにしない背中で、もう息がないのがすぐにわかった。

 

 すまない、門番のオッサン。

 

 北門の外から入ってきたのは、例の暗殺部隊の恰好をした連中だった。

 ヤツらのスピードじゃなかったら、間に合っていたかもしれない……。

 

 ホークはまだ客車の下にいるのか?

 この状況でじっと我慢していられたなら上出来だが、どこか見えない所に転がってたりしないよな。

 

 とにかく追うしかない。

 

 バシャは見えないものの、音は聞こえる。

 それほど離れていない。

 

 しかし、無灯で進むつもりなのか?

 よくもパカラが進んでくれるものだ。

 そんなに居場所を知られたくないという事なのだろうか。

 

 気をつけろ、集中だ。

 4人いた。

 

 あれで全部かはわからないから最低4人だ。

 

 ヤツらが護衛役だったのだ。

 予め門の外に待機していて外から来る敵を見張りつつ、中からユミロフが出てきたら護衛に付くという手筈だったのだろう。

 

 だとすると南門にも当然別の部隊が待機していたはずだ。

 オレは街道を迂回して直接柵から侵入したから気付かなかったのか。

 

 あの鐘の音――。

 もしかするとヤツらとジュリアたちが交戦した事に南の門番が気付いたからなのかもしれないな。

 

 ったく、待ってろって言ったのになぁ。

 結果オーライだけど。


 とりあえず誰か闇の中で見えるようになる魔法をくれッ!

 

 超足は使わず、ゆっくりと静かにバシャの音のする方を追う。

 街道から距離を取って、連中に出来るだけ悟られないように。

 

 今現在は街道の左側を移動している。

 

 連中が左右に分かれて護衛しているとすれば、こちら側のヤツを先に仕留める必要がある。

 

 ホークが痺れを切らして先に行動してしまわないうちに仕掛けるんだ。 

 今日は魔鉱石の指輪をちゃんとして来てるから、町からある程度離れたら遠慮なく行くぞ。

 

 うん、もういい頃合いだ。

 

 炎の壁(ファイヤーウォール)!

 

 バシャのある位置より前方へ孤を描くように10mほど展開。

 これで足止め完了。

 

 ホーク、お前はまだそこに潜ってろよ。

 

 炎の灯りでヤツらの姿が浮かび上がる。

 丸見えだ。

 

 超足!

 

 一番近くの敵を背中から袈裟がけに斬り下ろす。

 え、卑怯?

 なにそれおいしいの?

 

 炎が立ち上る音で仲間が倒された事にも気付かないらしい。

 

 そのまま2人目の右脇腹を真一文字に斬り裂く。

 うへぇ、内臓ドバドバ。

 

 さっきもそうだが、やはり人を斬るのはイヤな手応えだ。


 ちょっと前まではあれほど人殺しは云々悩んでいたにも関わらず、一度手にかけてしまえばこんなものなのだろうか。

 慣れなのか麻痺なのかは知らないけど、人間ってやっぱ恐ろしいのかもなぁ。

 

 あ……。

 

 バシャの中からキョロキョロと忙しなく周囲を見回していたユミロフと目が合う。

 

 絶対逃がさん。

 

 不敵に笑ったつもりだが、うまくいっただろうか。

 

 ユミロフの顔が恐怖に引き攣るのは確認した。

 

 すると、そのユミロフのいる客車の上を護衛2人が飛び越えて来た。

 

 ふぅん、意外に早く見つかっちゃったなぁ。 

 じゃあもう黙っている必要もないか。


「ホーク! ちょっとは手伝え!」


 オレの声を聞いて護衛2人が怯んだ。

 仲間がいるとは考えていなかったのだろうか。

 

 まぁ確かに客車の下にいるとは思わないだろうが。

 

「全く、人使いの荒い嬢ちゃんだぜ」


 ホークの声にギョッとしたように振り返る護衛2人。

 

 馬鹿か。

 

 超足!

 

 3人目は左胸を背中からひと突き。

 念のため剣をグリグリしてから背中に左足を当てて剣を引っこ抜く。

 

 4人目はホークの方に狙いを定めて瞬足で突っ込むが、残念ながらホークは見切りの技を持っているので軽くかわされる。

 

 ヤツが突っ込んだのと全く同じコースを超足で追い掛けていってヤツが向き直ったところを袈裟がけに斬り下ろす。

 

 ハイ終了。

 

 各個撃破さえ出来れば人間相手なら楽勝楽勝。

 

 うまく行って何より。

 

「相変わらず人間離れしてるねぇ、嬢ちゃん」

「お褒めに与り光栄だね」


 とりあえず炎の壁をだいぶ小規模に縮小してキャンプファイヤーレベルにする。

 灯りがないと見えないのでね。

 

「おおっ、なかなか器用だな。こいつはいいや」


 ホークは腰の巾着から葉巻のようなものを出すと、炎で火をつけて吸い出した。


「ひと仕事終えた後の一服は格別だね」


 なにやり遂げた感出してんだコノヤロー。


「まだ終わってないだろ」

「オレの仕事は終わったよ」

「いいから最後まで付き合えって」

「見てるだけでいいなら」


 ほんとにこれ以上何もする気がなさそうなので、放っておく事にして客車の方へ向かう。

 

 ユミロフ、と4人の従者が乗っていた。

 従者たちはどうしようかねぇ。

 

「おとなしく投降しろ。そうすれば命だけは助けてやらない事もない」


 助けてやるとは明言しない。絶対に。

 

 ユミロフは躊躇していたが、従者4人はそそくさと客車を下りて前に並んだ。

 なかなか素直ないい子じゃないか。

 

「そこに座れ」


 さっと正座する4人。

 

 え、正座なの?

 そういう文化あるんだ、こっちでも。

 よくわからんなホント。


「ユミロフ司教様はまだお悩み中ですか」


 一応丁寧な言葉遣いで言ってみる。


「私をどうするつもりなのだ? 私はこれからすぐジンムへ行かねばならぬのだ。時間がないのだよ」


 この後に及んで何を白々しい。

 っていうかジンムってキリール街道の北端じゃなかったか? 遠いだろ。


「時間より命の方が大事なんじゃないの?」


 ビクリと体を震わせて恐怖の表情でオレを見るユミロフ。

 とてもじゃないが強者という感じではない。

 武術はもとより、魔法も使えないのではないか?

 

「早く下りて来るんだ」


 剣先をユミロフに向ける。


「わかった。わかったから何もするな。今から下りて行く」


 両手を上げるポーズをしながら、客車から下りると先に正座している4人の後ろに立つ。

 

 ん? なぜその位置なんだ?


 オレも少し油断していたのかもしれないが、ユミロフが今までとは見違えるような素早い動きで祭服の中から短い剣を2本取りだすと、前に座っている従者4人の首筋を一瞬のうちに斬り付けてしまった。


「何をするッ!」


 だがもう全ては遅かった。

 

 ピューーっと音がして4本の真っ赤な筋が飛ぶ。

 首筋を押さえ口をぱくぱくさせながら絶命する従者たち。

 

「ユミロフ、貴様ッ!」


 怒りに任せて斬り殺しそうになるのを我慢しながら、睨みつける。

 

「油断大敵だな、アスカ君」


 なに!?

 

 まさか、今までの態度は全部フェイクだったのか?


 ユミロフがゆっくりと両手を宙に翳すと、従者たちの死体が急速に腐敗してグズグズになっていく。

 そのまま地面に吸収されたように見えた次の瞬間、地面から何かが這い出て来た。

 

 死霊召喚!?

 

 地面からぬっと出て来たのは手だ……手なのだが……。

 こいつは――デカい! デカすぎるッ!

 

 ゆっくりと全身を露わしたそれの見た目は死骨に近いが、大きさが巨神兵並みだ。

 いや、ウソだごめん。

 そこまでは大きくないが、10m近くはあるかもしれない。

 ちょっとしたビルと一緒のサイズ感。

 

 体のバランスも歪だ。

 上半身が異常に発達していて太く長い腕が地面に付くほどだ。

 それに比較すると下半身は小さいが、バネを感じさせる強靭さが見てとれる。

 ゴリラ体型と言えば少しは伝わるだろうか。

 

 よしお前は骨ゴリラと名付ける。

 

「なんだ? なんなんだよコイツは一体! おい嬢ちゃん! 説明しろッ!」


 ホークがプチパニックに陥っているようだが、こっちだってそんな余裕はないんだよ。


「知らん! 死ぬな!」


 以上。

 

「だからシャイア教には関わりたくないって言ったんだ畜生……」


 ホークの悪態が続くが、声は遠ざかっている。

 逃げるのか?

 そういやヤツの逃げ足は一級品だったなw


 あ、ユミロフ!

 

 骨ゴリラに気を取られてユミロフから注意を逸らしてしまっていた。

 

 姿が見えない!

 

 よく見るとバシャに繋がれていたはずのパカラがいない。

 まさかパカラにそのまま乗って逃げたのか?

 

 くそっ!

 

「マリュウさん!」


 骨ゴリラのパンチを避けながら、ありったけの声で叫ぶ。


 南門の方で起きたのが想像通りだとすれば、みんなもう町の近くまで来ているはずだ。


「マリュウさん! 聞こえるか! 今北門の外だ。ユミロフに逃げられた。応援を頼む! 尚、骨ゴリラに注意せよ!」


 今ので聞こえてくれていればいいんだが……。

 あの鐘の音じゃ、聞こえない可能性もあるな。


 超足!

 

 何も律儀に骨ゴリラの相手をする必要などない。 

 とにかくユミロフを探すんだ。

 

 骨ゴリラが超足について来られるはずもなく、あっという間に置き去りにする。

 

 で、ユミロフは?

 

 まさか馬鹿正直に街道を走っているとは思えないが、あまり道を外れるとパカラが走れるような場所じゃなくなる。

 とりあえず街道を先へ進むか――。

 

 ほどなくユミロフの乗ったパカラを見つけた。

 

 普通に街道を走ってたよ。

 さすがに全力疾走は出来ないらしく、俗に言うトロット(速歩)で進んでいた。


 ユミロフに姿を見られないよう、街道から外れて斜め後ろを追走する。

 

 よく考えたらあんなデカブツを召喚して置いて行くなんて、間抜けだろ。


 ズズーーーン!!

 

 轟音と共に地面が大きく揺れた。

 

 なんだ? 地震か!?

 

 ブォンと音がして反射的に超足で加速したら、すぐ頭の後ろを何かが通り抜けていった気配がした。

 

 慌てて振り返るとそこには骨ゴリラがいた!!

 

 マジか!?

 

 さっき置いてきたはずだろ?

 なんでいきなりここにいるんだ?

 

 考えている暇はない。

 再び骨ゴリラがぶんぶん丸よろしく両腕を振りまわしてきたからだ。

 

 しかし、こいつの相手をしている間にユミロフにまた逃げられるわけにはいかない。

 

 しゃーないな。 

 超足!

 

 からのキーーック! ドンッ。

 

 ユミロフをパカラから蹴り落とす。


 凍結(フリーズ)!

 

 ユミロフの体を凍らせる。

 こけた体勢のまま固まっているのでみっともない事この上ない。

 

「おい、あの化け物は一体なんなんだ?」

「…………」


 沈黙のユミロフ。


「殺すぞ」


 剣を喉元に突き付ける。


「化け物ではない。ゴルムだ」


 ゴルム?


「ゴルムって何?」


 ゴルムと呼ばれた骨ゴリラがオレに向かって拳をぶつけてくるので回避する。 

 ユミロフがこの至近距離にいてもオレだけ狙ってくるのかコイツ。

 

「私が作った人形だよ、知らぬのか」


 知るかボケ。

 

 とりあえずあれか、名前も似てるしおそらくゴーレムだな。

 作ったって事はユミロフのオリジナルなのか。


「ユミロフ、お前ナウシカ見た事あんの?」

「ナウ……なんだと?」


 すまん、なんでもない。

 しかしあの造形のベースはどう見ても巨神兵だろ。 

 ナウシカ見てないのによくもまぁあんだけ似せられたものだ。

 あるいはラピュタのロボット兵かもしれんな。

 いやどっちもねーから!

 

 うおっと! また来た危ねぇ。

 

「どうでもいいからコイツ早く消して。出来るんだろ」

「フン、断る」

「じゃあ全身凍らせるけど、いい?」

「…………」

「あのさ、オレはマグがもったいないだけでこんなの別にすぐ倒せるんだけど」

「やってみればいいだろう」

「あっそ」


 骨ゴリラに向き直って剣を抜き、構える。


「待て! わかった。わかったからやめてくれ。ゴルムをここまで育てるのに何年かかったと思っている。頼むからやめてくれ」


 今のは本気っぽかったぞ。

 

 だが育てるって言ったな。

 ゴルムを育てる? どういう事だ?


「もういいゴルム。攻撃はやめだ」


 ユミロフがゴルムに声を掛けると、ゴルムがおとなしくなった。

 人間の言葉を理解出来るのか?

 すげぇなコレ。

 

 両手を地面に付けたゴリラポーズのまま停止。


「早く消せよ」

「いや、それは……」

「なんだよ、何か問題でも?」

「ゴルムは一度召喚すると次召喚するまで最低一日は休息が必要なのだ」


 なんだそれ。


「消してから一日なのか、それとも召喚から?」

「消してからだ」


 なるほど。

 今消してしまうと丸一日は召喚出来なくなるから心配だってか。

 どーでもいいわ!

 

「いいから消せ」

「しかし……」

「消せ!」


 ぐぬぬと呻いてユミロフがひと言『戻れ』と言うと、ゴルムが消滅した。


 すげぇ!

 なんかオレも欲しいかも。


「よし。それじゃ早速処刑を始めるか」

「なに? 約束が違うではないか!」


 狼狽したユミロフが詰問口調で異議を唱える。

 

「は? 約束って何?」

「ゴルムを消せば解放するという約束だ」


 こいつ……意味わからん。

 そんな事でオレを丸め込めると本気で思ってるのか?


「してねぇよ」

「ではしてくれ」


 更に意味不明。

 

「断る」

「では何のためにゴルムを消させたのだ!」

「邪魔だったからに決まってるだろハゲ」


 予期せぬ罵倒にユミロフが唖然とした顔でオレを見る。


 実際ユミロフはややハゲ散らかしていた。

 普段はきちんと整髪しているのだろうが、今は緊急時だし決死の逃亡中だったからな。

 だいぶ乱れてしまっている。

 

 強いて言うなら温水洋一のような感じだ。

 ぬくちゃんと呼んだ方がオレ的にはしっくりくるかもしれない。

 

「私は何をされても口は割らんぞ」


 今更威厳のある所を見せようとしたって無駄だぞ。


「殺されてもか」

「そ、そうだ……」


 ウソつけ。もう震えてるじゃねぇか。

 ゴルムを召喚する時のあの勝ち誇ったような性格はどこへ行った?

 

「知ってるか。凍ってるものは壊れやすいんだ。お前の体、思い切り殴ったらどうなるかな」

 

 オレがまだしゃべってる途中からユミロフの目がこれでもかという程全開になり、口もわなわなしている。

 どんだけビビリなんだよ。

 

 やっぱ権力者には臆病者が多いってのは本当なんだな。


「死にたくないか」

「当然だ……」

「ならおとなしく質問に答えるんだ。正直にな」

「…………」


 今ユミロフの頭の中ではもの凄い速度で色んな計算が行われているに違いない。

 だが、結局は自分の命が一番惜しいに決まっている。

 なんせ権力者だからな。

 

 そして権力者は取引が好きだ。


「答えるか」

「答えたら解放してくれるのか」

「ああ。約束しよう」

「本当か」

「本当だ。証明は出来ないが」

「…………わかった」


 ハイ落ちた。


「言っておくが嘘を吐いたり誤魔化したりしたら即殺す」

「そんな事はせん。正直に話す」


 だいぶ神妙な顔付きになってきたなユミロフ――いや、ぬくちゃんよ。

 

 それじゃ尋問タイムだ。

 一番重要なとこから行くぜ。


「お前の協力者は誰なんだ」

「なに? 協力者だと?」

「いるだろ、動物を使って監視してたヤツが」

「…………知っていたのか」


 やはりビンゴ!

 危うくとぼけそうになったが、ついさっき言われたばかりの事を忘れる程愚かではなかったらしい。

 

「誰だ」

「それを言ったら解放してくれるのか」

「馬鹿か? まだ尋問は始まったばっかだろうが」

「しかし……」

「お前がどうこう言える立場じゃないんだよ。とっとと言えハゲ」


 ぬくちゃんがとても傷付いた可哀相な目をしてオレを見た。

 なんだよ、そんなに髪の毛の事を気にしてるのか?


「ラヴィ……」

「え?」

「協力者の名だ。ラヴィと言う」

「ラヴィだけじゃないだろ、ちゃんと答えろ」

「いや、それだけだ。ヤツは自分でラヴィとだけ名乗ったのだ。それ以上はわからぬ! 本当だ!」


 言外にだから殺さないでと訴えかけるぬくちゃん。

 なんだか本当に憐れになってきたなぁ。


「で、そのラヴィってヤツは何者なんだ?」

「森の民だ」


 やはりか――。

 

「森の民がどうしてシャイア教に協力するんだ?」

「知らぬ。ただ、ヤツは我々に協力したいと自ら申し出たのだ」

「どういう経緯でお前とラヴィは知り合ったんだ」

「……あれは半年ほど前だ。パルピンの教会へ直接訪ねて来たのだ。私に会いたいと」


 パルピンの教会だと?

 あの場所――ロビィを見かけたところか。

 

 半年前?

 半年前のロビィが何をしていたかなど知る由もない。

 まだ出会ってもいないのだ。


「おい、そのラヴィってヤツは男だよな?」

「もちろんだ。いや、確かめた事はないが、どこからどう見ても男だった」


 ホッ。

 そうか、男か。

 それじゃ少なくともロビィって線は消えたよな。

 良かった……。

 

 それならあのロビィは別口でラヴィの事を調べに来ていたのだろうか。

 充分あり得る。

 情報収集能力の高さは森の民の面目躍如たる所だ。

 

「で、会ってどうしたんだ」

「シャイア教の計画に共感している者だと。計画が実現するよう協力したいと言うのだ。私も森の民の協力があれば色々と役に立つ事もあるだろうと思ったので手を組む事にしたのだ」


 今の所特に気になる矛盾点や怪しい口述はないように思える。


「それから?」

「時々私に帯同してもらうようになった。特に計画が具体的に動く時など……」

「その計画ってのは何だ?」

「それは……極秘事項なのだ。頼む、それだけは勘弁してくれ」

「ダメだね。言え」


 おそらく自分が情報を漏らした事がバレた時の事を考えているのだろう。

 必死に抵抗したいのだが、命が惜しくて出来ないジレンマがひしひしと感じられる。

 

「お前がしゃべったって事は絶対に言わない」

「本当か?」

「本当だ。この約束は必ず守る」

「その言い方だと守らない約束もあるという風に聞こえるが」

「考え過ぎだ」


 危ない危ない。

 まだ迷っているぬくちゃん。


「もうすぐオレの仲間が来る。オレひとりのうちに白状した方が安全だぞ」

「なに!? …………」


 だんだんと諦めの表情が濃くなって来た。

 後少しだ。

 

 ただ、今ジュリアたちが来てしまうとマズイ。

 どうか、マリュウが出来るだけ遠くからこの会話を聞いていて忖度してくれますように!


「……わかった。だが絶対に私が言った事は他に漏らさないでくれ」

「ああ」

「計画というのは……ダムバ計画だ」

「ダムバ計画? なんだそれは」

「計画の全容は私も知らされておらぬ。私が任されていたのは計画の一部に過ぎない」

「いいから、どんな内容なんだ」

「ダムバ計画キャリオ地区……」

「は?」

「わからぬのか。地区毎に計画が定められているのだ。だから私が把握しているのはキャリオ内で行われる事のみだ」


 地区毎にって、全体はどれくらいの規模なんだよ。


「具体的にはなんだ?」

「カカ山での実験とマムルの森での実験の2つだ」


 マムルの森? 聞いた事ないぞ。

 でもキャリオ領の中なんだな。

 後でピンピンにでも聞いてみよう。


「カカ山の実験というのは、死霊召喚と亜人の調教の事か」

「そうだ。ヤルタから聞いたのだろう」

「質問するのはオレだ。余計な口をきくな」

「…………」


 ぬくちゃんの顔は不満で出来ている。


「ヤルタの役目はその実験を成功させる事だったのか?」

「そうだ」

「で、成功したのか?」

「だいたいは」

「だいたいとはどういう意味だ」

「お前たちの邪魔が入ったせいだ。最終的にはラシークを死霊と亜人の共同部隊で襲わせる予定だった」


 なんだと!?

 ミト村だけじゃ飽き足らず、ラシークまで標的に考えていたのかコノ野郎!

 まさに鬼畜の所業。

 

 やっぱ約束ナシにしようかな。

 

 オレが黙っていると調子に乗ってぬくちゃんがしゃべり続けた。


「お前たち冒険者を媒体としてより強力な死霊を作り出す予定だったのだ。そのために亜人を使って罠まで用意したというのに……。ヤルタがもう少し慎重な男だったらあんな事にはならなかったものを。自分の力を過信しおって……」

「お前はヤルタと親しくしていたらしいな」

「……数少ない友人だったのだ」


 どうやらそれについては双方の共通認識だったらしい。

 ヤルタの一方的な思い込みかと思ってたがそうじゃなかったのな。意外だ。


「ヤルタが突然おかしくなったのはラヴィってヤツのせいなのか」

「おそらくは。私も具体的に何をしたのかまではわからないのだ。ただあのままではヤルタが色々と話してしまう恐れがあったので仕方なく……仕方なかった、のだ」

「それも動物、バニーニを使ってやったのか」

「そうだ。おそらく予め相手に何かしらの暗示をかけておいてそれを発現させたのだと思う」


 なるほど。

 事前にヤルタに発狂スイッチを組みこんでおいて、バニーニを使ってスイッチを入れた訳か。

 

「お前にも暗示がかかってたりして」

「な、なにッ!? そんな……まさか……」


 ぬくちゃんが慌てて周囲を見回す。

 バニーニを探しているのか。

 

 おいおい、止めてくれよ。

 ザリオがいない分まだマシだが、突然うわああなアレは心臓に悪いからな。


「それで、マムルの森の方はどうなってるんだ?」

「それは……ラヴィが進めていたので私は詳しい事までは把握しておらぬ」


 なんだよそれ。

 本部の計画を部外者であるラヴィに任せるなんてアリか?


「お前それ本部にバレたらマズイんじゃないの」

「そ、それは……」


 ハイ正解。


「お前が知ってる範囲でいい。そっちの計画の内容は?」

「マムルの森には様々な種族が棲息している。それらを手懐ける計画……だったと思う」

「思うってお前責任者だろーが」

「……正直、カカ山の計画と比較すると面白みに欠けるために軽視してしまったのだ」


 あーあ、自己判断で仕事の優先順位付けちゃうの、一番ダメなヤツじゃん。

 ぬくちゃん、サラリーマンにも向いてないわ。


「話を戻すが、計画っていうのはどのくらいの規模なんだ? グルド全土か、それ以上なのか」

「わからぬ……この計画に関する報告は統括責任者へ直接する事になっていて、地区責任者同士の情報交換は禁じられているのだ」


 それはまた随分徹底した情報統制が敷かれているんだな。


「統括責任者って言ったな。それは誰だ」

「……ラーズ様だ」

「ラーズ? 誰だそれ」

「シャイア教国の指導者たるゴルバドフ教皇陛下の忠臣にして宰相の地位にあらせられる御方だ。この計画がなければ私などお目通りする事も叶わぬ程の高みにおられる御方なのだ」


 へぇー、また新しい情報ゲットだぜ。

 宰相ラーズか。

 ダムバ計画の統括責任者でもある、と。

 

 まだ全然わからん事だらけなのに固有名詞だけが増えてくなぁ。

 暗記科目苦手なんだけど。


「そうだ。ゴルテリアの担当は誰なんだ?」

「ゴルテリア?」

「ダムバ計画のゴルテリア領担当だよ。まさかお前が兼務してるのか」

「違う! 私ではない! ゴルテリアは……そうだ、確かボルト司教とかいう名前だった」

「ボルト司教……そいつはどこにいる?」

「知らぬ。そこまではさすがに……」

「よく行く所でもいいぞ」

「それならおそらくサッカールだ」


 サッカール――サッカリアの本拠地。

 まだ訪れた事もないのに懐かしい響きがする町。

 

 ベスにボス、ミーナやクェスはどうしてるんだろう。 

 もし行く機会があったらイーノの墓参りだけは絶対に忘れないようにしよう。

 

「もう質問は終わりか」

「いや、まだだ」

「もう知っている事は答えたはずだ。解放してくれ」


 だんだん焦って来ているな、ぬくちゃんのヤツ。

 だが、まだ聞くべき事が残っている。


「ラヴィは今どこにいる?」

「知らぬ。パルピンを出る時にはもう姿が見えなかった。先に脱出したのではないか」

「脱出ってどこへ」

「わからぬが、マムルの森の計画がある。まだあれは続けているはずだ」

「マムルの森ってどこにあるんだ」

「キャリオの北東だ。パルピンの南東にある村が一番近いはずだ」

「村の名前は?」

「パピコ村だ」

「はい?」


 2つに割ってちゅーちゅーのパピコか!?

 なんだそのネーミング。

 気になるからいつか由来調べたろ。


「もういいか? 仲間がすぐに来るんだろう?」

「あとひとつだ。オレたちの情報をどうやって調べた?」

「なんの事だ」

「ヤルタがやたらとオレたちについて詳しかった。誰がいつどうやって調べたんだ?」

「……それは私が従者に命じて冒険者組合の知人から情報を入手した」

「知人ってダモネフか?」

「そうだ。だが、直接情報を受け取ったのはリーベルトとかいう男からだった」


 やはりあの2人、シャイア教とズブズブじゃねぇか。

 ま、ダモネフの方は有名な司祭様とお近づきになれてウハウハぐらいな軽い気持ちなのかもしれんが……。

 

「もう終わりだな? 全部正直に答えたぞ。早く魔法を解け」

「ま・だ・だ」


 そう言った時のぬくちゃんの絶望の表情――。

 オレは自分がSだとこの時はっきりと悟ったね。


「大事な事を忘れていた。これで本当に最後だ」

「なんだ、早く言え」

「オレたちの事を上に報告したか」

「……いや、まだしていない。これから報告に行くところなのだ。だから早く解放してくれ」

「あれ? そう言われると解放したくなくなっちゃうんだけど」

「…………報告しなければ良いのか」

「カカ山の件はヤルタの実験が失敗した事にするんだ。オレたちの事には一切触れるな」

「なに? しかしそれでは色々と問題が……」

「いいかユミロフ。問題なのはお前が失敗したと言う事だ。失敗したヤツには処罰が下る。だろ?」

「…………」

「だったらお前の落ち度が少しでも軽くなるよう報告した方がいいに決まってる。違うか」


 ま、社会人としては最低最悪だけどな。

 リスクマネジメント上も悪手でしかない。


「ヤルタに全ての責任を被せろというのか」

「まぁそんな感じだ。死んでも役に立ってくれるなんて、さすが友人だな」


 我ながらちょっと言い過ぎたと思いつつ、ぬくちゃんが考えに考えている間待ってやる。

 

「……わかった。言う通りにしよう」

「物分かりがよくて助かる。なら、オレたちはもうこの後どこかで会っても他人だよな?」

「そういう事になるだろうな」

「また追手とか、監視とかは勘弁してくれよ」

「……わかった」

「ラヴィとか言うヤツが何か言って来ても?」

「話はついたと説明しよう」


 よっしゃ終了。

 ま、どこまで本気でやってくれるかはわからんが、全部やってくれたら儲け、ぐらいなもんだ。

 

 ここでユミロフを処分しても、更に上から追手がかかるだけなのだ。

 ラヴィの動きも気になるし。

 

 何とかしてオレたちに対する追及を諦めさせ、その上でオレたちが追及する側に回りたい。

 

 そのためにはここでユミロフを利用するしかない。

 それがオレの出した結論だった。

 

 そのためにはオレがひとりでユミロフと話す必要があったのだ。

 メンバー全員の意思統一なんてしてる時間はなかったし、絶対反対されるだろう面子がひとりふたりいるからなぁ。

 

 とにかくこれで一応やるべき事はやった。

 あとはちょっとしたお楽しみタイムだ。


「では早く解放しろ。もう充分だろう」


 凍結の魔法を解除してやる。

 恥ずかしいポーズから解放されてほっとするぬくちゃん。


 だがまだ安心するのは早いんだなw


「脱げ」

「なに?」

「全部脱いで置いて行け」

「どういう事だ? 何の関係がある?」

「いいからとっとと脱げ!」


 別に今更ぬくちゃんの裸が見たいとかそういう理由じゃないぞ。

 

 目の前で繰り広げられるぬくちゃんストリップを出来るだ直視しないようにしつつも、不正を働かないようちゃんと監視しないといけないというこの理不尽な役割。くぅーっ!

 

「全部だ。全部脱いで置いていけ。装飾品も全部だぞ」

「待て! この指輪、これだけは頼む!」

「ダメだ」

「だが、お前が持っていた所でどうしようもないのだぞ?」

「ほぉ、じゃあお前が持ってたらどういう使い道があるんだ?」

「こんなもの、ただの指輪だ! 別に使い道などないッ!」


 なるほど、それだったか。

 当たりみーっけ!


「いいから置いていけ!」


 その指輪を外す時のぬくちゃんの顔と来たら……。

 半べそかきそうな勢いの顔だったのに、こっちを向くなり親の仇のように睨まれましたよ、ええ。

 

 こうして全裸ぬくちゃんの出来上がり!

 

「行っていいぞ」

「この恰好でか?」

「文句あるか。約束通り解放してやるんだぞ」

「くっ……この屈辱、忘れんぞ」


 捨て台詞は定番の覚えてろよ、じゃないのね。

 ちょっとガッカリ。


「いや忘れろよ。オレたちもう会わない方がいいだろ。さよなら~」


 フリチンダーッシュ! GO!

 

 腰に左手を当て、右手を振ってぬくちゃん、もといユミロフを見送る。


 見送りのために飛行機の滑走路のように地面に小さな火を直線で300m程先まで置いてやる。

 

 そして背中が見えなくなったところで、一息ついてユミロフの残したものを確認する。

 

 ちょっと汗臭い肌着なんかはそのままポイっとして、装飾品関係とこの祭服は頂いておこう。

 変装とかにも使えるかもしれないし。

 

「師匠~ッ!」

「アスカ~ッ!」


 遠くからピンピンとジュリアの声がした。

 来たか――。

 

 うん、この距離感ならマリュウには全部聞こえてたな、よし。

 説明する手間が省けた。

読んでいただき、ありがとうございます。

またまた色んなネタを突っ込んで盛り沢山な回になってしまいました。

このやり方で良かったのかどうか後でひとりで反省会をします。

引き続き、応援よろしくお願いします

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