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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第3章~キャリオ(2)パルピン近郊~

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(52)オレは単騎で乗り込む

 パルピンまであと20km程という所で真っ暗になってしまったため、已む無く夜営する事になった(という設定)。

 

 正直歩いて行こうと思えば全然歩ける距離でもある。

 パカラも並み足で進めれば、歩くより早く到着出来るはずだ。

 

 だがやらない。

 

「明日の作戦を立てよう」


 わざと大きな声で言って、火の周りにみんなを集める。

 

 バシャのハーネスから解放されて手綱を木に繋がれたパカラの耳がピクンと動いたような気がする。

 

 その耳の動いた1頭は、オレたちが近付くと目を閉じて休んでいるフリをしていた。

 白目を見られたくないのだろう。

 

 だがしかし、実はオレとシンとで協力してパカラを繋ぐ時に既に確認済みなのだ。

 白目の馬はそれはそれは気持ち悪かった。

 

 ただ、こいつはその気になればもう1頭のパカラと入れ替わる事が出来る上、その辺にいる別の動物も変更対象になるから油断出来ない。

 

 頼むからずっとそのままパカラにいてくれよ。



 火の周りにみんなが集まったのを確認して、話を始める。


「明日パルピンへ行ってからの作戦について、何か提案のある人はいる?」


 みんなこの作戦会議は茶番だと理解しているので、適当な事をそれぞれ言い合ってなんとなく話し合ってる風な感じにする予定だったのだが、意外とみんな演技達者なので思わず熱が入って予定より長引いてしまった。

 

「それじゃ、そんな感じで。パルピンはもうすぐそこだし明日はそんなに早起きしなくてもいいから」


 ははは、とみんなが笑って解散。

 

「シン、ちょといいか」

「はい。何でしょう、アスカさん」

「パカラの世話、ちゃんと頼むよ」

「もちろんです。任せてください」


 これも事前に示し合わせていたのだが、出来るだけパカラの近くにいて様子を見ていてもらう事になっていた。

 特に、白目でなくなったりなどパカラ自体に変化があればすぐ知らせるようにと。

 

「まだ早いけど今日は疲れたから先に休むわ。おやすみアスカ」

「私ももう寝ます。おやすみなさい師匠」


 ジュリアとピンピンが客車へ向かう。

 リズとマリュウはさっき解散した直後にそそくさと客車へ移動済みだ。

 

「ニナは今日はどこで寝るの?」

「私は今夜は火の番ですので、ここで寝ます」

「寝ないで起きてるってこと?」

「いいえ、火が消えたのを確認したら寝ます」

「そっか。じゃあ頼むよ」

「はい。おやすみなさい、アスカ」


 正直事情を話してないのはこのニナだけなので、若干の不安要素ではあるのだが最終的にはシンに任せるしかない。

 頼むからヘンな事はしないでくれよ。


 火の前に腰掛けながらシンと話しているニナをもう一度確認してから客車へ向かう。

 

 客車の中はすでに臨戦態勢w

 

 窓から見えないよう、みな床にうつ伏せになった状態でオレが戻るのを待っていた。

 

「お帰りアスカ。さ、早く作戦決めよう」


 ジュリアが待ちきれないといった感じで急かす。


「さっきはえらく白熱してたじゃん。あの作戦でいいんじゃない?」

「やめて頂戴。あれはお芝居でしょ」


 照れ隠しなのだろう、不機嫌そうにリズが言った。

 いやいや、大した役者ぶりだったよ。


「それより本当にここでの話は聞こえてないんでしょうか師匠」

「まぁ聞こえちゃってたらどうしようもないけど、一応火も派手に燃やしてもらってるし、シンには出来るだけニナと大声で話を続けるように頼んでおいたから」

「なかなか用意周到ですね、アスカさん」


 まぁね。

 ついでに言うと、この客車とパカラの間を遮る様に火を焚いてもらっている。

 

 監視がパカラを使っているうちはたぶん大丈夫のはずだ。

 だからこそ、シンには細心の注意を払って逆監視を頼んでいるのだ。

 

 万が一にもその辺にバニーニとか出て来てしまったら最悪な事になる。

 

「それで作戦はどうするのアスカ」


 ジュリア同様、待ちきれない様子のリズ。


「うーん、それなんだけど今から話し合って決めるのはちょっと無理があると思う」

「どういうこと?」

「話し合うのはやめる」

「えっ?」

「師匠?」

「頼むから静かにしてくれよ。絶対大声出さないように。いいな?」


 みんなに予め念を押してから話し始める。

 そうじゃないと絶対に大騒ぎになるからだ。

 

「まずオレがひとりで町へ行く」


 さすがに大声こそ出さないものの、マリュウ以外の全員が色めき立って中腰になりかけた。

 シーッのポーズからのどうどうジェスチャーで抑える。


「言いたい事はわかるけど黙ってて。説明するから」


 ジュリアもピンピンもリズもものすごい顔で睨んでくる。

 こえー、超こえーよー。


「オレは超足で行くからみんな付いて来られない。だからオレひとりで行く」


 ジュリアが何か言おうとしたが即座に制する。


「作戦を立てている時間がない。だからオレが今考えている事を多少臨機応変に対応しながらやる」


 今度はリズが異議申し立てをしようとするが、やはりこれも制する。


「マリュウさん、ひとつ質問があるんだけど」

「なんでしょうか」

「オレが大声を出したと仮定して、どれくらいの距離までなら聞こえるのかな」

「この辺でという意味なら3kmぐらいだと思いますが、町の中になると騒音もあるので半分くらいになってしまうかもしれません」

「なるほど。じゃあ声じゃなくてもっと大きな音なら?」

「例えばどんな音ですか」

「確か、ほとんどの町に緊急時の鐘があったよね? あれとか」

「ああ、あれなら相当響きますから最低でも10km、状況次第では20kmぐらいまでは聞こえると思います」


 うおお、なんかすげぇな。

 花火とかなら50kmぐらい先でも音聞こえそう。

 

「じゃあここにも聞こえる可能性はあるね」

「確実にというわけにはいきませんが、おそらくは」

「まさか師匠……」

「うん、想像通り。何かあれば町の鐘を鳴らす事にする。そしたら全員すぐに町へ来てほしい」

「走っていくの? バシャで行くの?」


 ジュリアの質問への答えはなかなか難しい。


「その時の状況次第だな。多少明るくなっていればバシャを飛ばした方がいいかもしれないけど、暗いうちなら走った方が早いんじゃない?」


 納得したようなしてないような顔のジュリア。


「まさか合図があるまでここでずっと待てって言うの?」

「シーッ。頼むから静かにリズ」

「ごめんなさい。でもそんなの認められないわ」

「私も反対です、師匠」

「ごめん。悪いけど意見は聞いてない。ただ、ルールだからマスターのジュリアに承認だけしてもらいたい」


 そう言ってジュリアの方を見る。

 みんなも自然にジュリアへ視線を移動する。


 ジュリアはただオレの目を見ている。

 ちゃんと考えてくれてるのか? いや、考えてなさそうだ。


「もうひとつ。もしかするとまたここに追手が来る可能性がある。その時はよろしく頼む」

「よろしく頼むって言われてもそんな……」


 オレの方を見て言いかけたリズが、またジュリアの方へ視線を向けて言葉の続きを呑み込む。


 ジュリアはまだ口を開かない。

 じっとオレを見ている。

 

 にらめっこかよ!

 

 頼む、ジュリア。あまり時間がない。

 

「いいわ」

「えっ!?」


 オレだけじゃなく、リズとピンピンも意表をつかれて声を出してしまった。

 

 笑みを浮かべながらシーッのポーズをするジュリア。

 

 許可してくれるのか?

 マジで!?

 

「アスカが今夜単独でパルピンへ行くのを認めるわ。但し、残った私たちがどうするかは私たちで決める。それでいい?」

「いや、まさかすぐ全員で追い掛けて来るとかは止めて欲しいんだけど」

「さぁ、どうかしら」


 おいおいおい……。


「頼むから無茶はしないでくれ。監視に悟られたら意味がないんだ」

「そんなのわかってるわよ。私たちだって馬鹿じゃないんだから」

「それなら……」

「置いてきぼりを食らった私たちには時間はまだまだあるんだから、勝手に作戦考えるわよ。それくらいいいでしょ」


 ぐむむ。

 元々オレの方が勝手を言い出している以上、勝手するなとは言えない。

 だが、心配ではある。

 

「私たちの事も少しは信用してください、師匠」


 あれ、ピンピンもジュリアに賛同するんだ?

 まぁ、引き止められないだけ有難いんだけど……。

 

「ジュリアがそう決めたなら仕方ないわ」


 え、リズもそれで納得するの?

 っていうかそういう所はちゃんとギルマスの決定に従うんだ?

 自分でルール作ろうって言った手前、率先してそれを反故にする訳にはいかないとか?

 

 なんにしろ律儀で助かった。


「私はアスカさんからの合図を待てばいいんですよね」

「うん。だから悪いけどずっと起きててもらう事になると思う」

「私の方は構いません。アスカさんの方こそ、どうか気を付けてください」

「ありがとうマリュウさん。それと、町へ入った後の案内も頼めるかな」

「もちろんです。すぐに合流します」


 マリュウはすぐに理解してくれた。

 町へ来た後の事も、オレの声を頼りに合流するという意図を。


「それじゃ、もう行くよ」


 客車の後方の出入り口はパカラを繋いでいる方からは死角になっている。

 監視者がよほど夜目が効かない限りは闇に紛れて身を隠すのは容易いはずだ。

 

 まぁその可能性がゼロではない以上、ある程度の運はこちら側に必要になってくるのだが。

 今更心配しても始まらない。

 

「ピンピン、囮を頼んでもいいかな」

「はい。どうか気を付けて師匠」

「うん、ピンピンも」


 先にピンピンが客車から出てシンの方へ歩き出す。

 監視者が見ていたら、ピンピンの方に注意が向くはずだ。

 

 ジュリア、リズ、マリュウと目を合わせてから客車を出ると、ピンピンとは反対側へ進む。

 

 もうここからはオレひとりだ――。



*****



 20kmあると言われたパルピンへの距離だが、超足を使えば30分とかからなかった。

 

 街道を大きく迂回して来たせいか、道中人影は全くなかった。

 念のため動物の姿にも注意していたが、こちらもほとんど見かけなかった。

 

 追手の件は心配し過ぎだったかと安心する。

 

 そしてパルピンだが、チャンプー同様に周囲を柵で囲っていた。

 

 普通に門から入ってもいいのだが、門には別な監視役がいる可能性もあるので敢えて柵を越えるつもりだった。 

 これだけ広い町を柵で囲っていれば、どこかに侵入しやすい場所がひとつやふたつはあるはず。

 

 そして、実際ほどなくそのポイントは見つかった。 

 ちょうど柵の下を深く掘ってくぐり抜けられるようになっている場所が。

 

 やっぱりどこにでもあるもんだなぁ、こういう抜け道が。

 この穴を作った先人に感謝。

 

 こうしてオレは易々とパルピンの町へ入る事が出来た。

 時間はおそらく21時を過ぎた頃。

 

 いいぞ、まだまだ余裕だ。

 


 今日は久しぶりにマントを着ていた。

 髪型も含め、ほぼあずみファッションだ。

 

 戦闘の時は動きにくいし、また汚れたり破れたりしたら困るからいつもは仕舞ってあるのだが、今日は町中を目立たないように捜索する必要があったので、暗闇の中で黒マントはいい保護色になるかと思ったのだ。

 

 明るい場所では却って目立ってしまうかという心配もあったが、実際町に出て見るとそうでもなかった。

 

 うん、これはなかなかいいぞ。


 写真などがまだない世界だから顔が割れているのは直接見た事のある相手だけ、というのもありがたい。

 

 おそらくユミロフと例の協力者=監視者ぐらいで、あとはカカ山やペピンの施設で会った事がある教徒がもしいればそいつらも対象だろうが、あまりその辺は気にしなくてもいいんじゃないだろうか。ダメ?

 

 門など必ず通るような場所で『こういう感じのヤツが来たらどうこう』などの指示は出せても、いざ町の中に入ってしまえば相手を特定するのはほぼ至難の業だ。

 

 そんな訳で、ある程度は自由に動き回っても大丈夫と判断。

 

 まずは町の出入り口の確認だ。

 

 オレたちがあのままバシャでやって来れば、パルピンの南門から町へ入る事になっていた。 

 キリール街道がそのまま町の中を通っている形だから、最低もうひとつは門があるはず。

 

 普通に考えれば南北縦断で北門だろうなと考え、まっすぐ北へ向かうとありましたよ北門が。

 

 早速門番の所へ行って聞き込みだ。


「こんばんは。お勤め御苦労さまです」

「ん? ああ、こんばんは。どうした? まさかこんな遅くに町の外へ出るつもりじゃないだろうな」


 おそらくオレの恰好を見てそう思ったのだろう。

 あまり不審がられないようにしないと。


「いえ。ちょっとお聞きしたい事があるのですが、今お忙しいですか」

「見ての通り暇だよ。で、なんだい?」

「実は今日この町に来たばかりなんですが、ここと南門の他に町の出入りが出来る所ってあるんでしょうか」

「いや、門は北と南の二箇所だけだ。非常用の出入り口が東西にも1つずつあるが、鍵はここと南門にあるから、勝手には通れないようになってるんだ。で、どうしてそんな事を聞くんだい?」

「新しい町に来たらまず全ての出入り口を確かめるように父から教わっていたので。そういうのは門番さんが一番詳しいだろうと思って」

「そうか。そいつは殊勝な心がけだ。しっかりした親父さんだな。ちゃんと親孝行しなよ」

「あ、はい。それともうひとついいですか?」

「なんだい姉ちゃん」

「今この町にシャイア教のすごく偉い人が滞在しているって聞いたんですけど、どこに行ったら会えますか」

「なんだい、姉ちゃんシャイア教の信者なのかい?」

「いえ。でも母の兄が入信していたので少し興味があって。偉い人の話が聞けたらいいなぁと思って」

「オレはあまり宗教は詳しくないが、ユミロフ司教様っていうすごい人がいるって話は聞いたなぁ。教会に行けば会えると思うんだがな」

「そうですか。それで教会の場所はどの辺になりますか」

「ああ、それなら町の中心から少し東側に建物が見えるからすぐわかるよ」

「ありがとうございます! それで本当にユミロフ司教様はまだ町にいらっしゃるんですよね」

「うーん、約束は出来ないがおそらくいると思うよ。でももし違ってても恨まないでくれよ」

「もちろんです。色々と教えていただき、ありがとうございます。お勤め頑張ってください」

「おう。姉ちゃんも気を付けてな」


 よし、だいたいの情報は得られた。

 ユミロフが教会にいるかどうかはわからないが、そこでまた情報を集めればいい。

 

 ただ、もしユミロフが町を出るとしたらこの北門からだろうな。

 わざわざオレたちが来る南門から出る意味がない。

 

 ここにひとり見張りを置いておければ……。

 ユミロフを探している間にここから逃亡されるのが一番マズイからなぁ。

 

 やはり誰かひとり連れてきた方が良かったか。


 北門の周辺は繁華街になっているらしく、結構な賑わいを見せている。

 

 おかげでオレみたいなのがひとり歩いていてもあまり見咎められる心配はないのだった。

 

 その時、背後に人の気配を感じて振り返るとそこに思いがけない人物が立っていた――。


「よぉ、嬢ちゃん。こんなところで何やってんだ」

「ホーク!!」

「なんだよ、そんなにオレに会えて嬉しいのかい。参ったねこりゃ」


 確かに喜んでしまった。

 思わず手を取って両手で握り返してしまったぐらい。

 

 なんせ探していたものがこうも簡単に見つかったからな。

 まさにカモネギ!


「ホーク、実は頼みがある」

「出会い頭になんだよ。物騒な話なら御免被るぜ」


 なんかあからさまに引いたな、今。


「いや、実に簡単な話だ。ちょっとあそこの北門を見張ってて欲しいんだ」

「見張りだと? 一体何のために?」


 事情が呑み込めず、訝しげな表情をするホーク。


「今、このパルピンにユミロフ司教っていう偉い人がいるらしいんだが、その人が町から出ないようにして欲しい」

「おい、ちょっと待て! 見張りって言ってなかったか?」


 ホークが血相を変えて抗議する。

 あ、もうバレた?


「そうだよ。見張りだけど、なんで?」

「町から出ないようにするのは見張りじゃないだろう。どうやって止めるんだよ」

「それは任せる」

「詐欺だ!」

「人聞きの悪い事言うなよ。オレとホークの仲じゃないか」

「まだ何の仲にもなってないぞ。それともアレか、今すぐどっかの宿にしけこむか!?」


 うへぇ~、そういう言葉を面と向かって言われるとマジ気持ち悪い。

 思わず握ってた手をさっと放してしまったじゃないか。

 

 女子が気のない男に強引に口説かれた時ってこんな感じなの?

 なんか軽く死にたくなるな、これ。


 そんなオレの心を見透かしたわけでもあるまいが、ホークも若干冷静になったようだ。


「だいたいシャイア教の連中には関わりたくねぇんだ。誰か別のヤツを探してくれ」

「待ってくれ! お前にしか頼めないんだホーク! 頼む!」


 立ち去ろうとするホークの手を再びとって(もちろん両手で)頭を下げる。


「いくら嬢ちゃんの頼みでも、タダじゃ引き受けられねェな」


 あれ? なんかちょっと態度が軟化した?

 頭を上げて見ると、ちょっと斜め上を向いて恥ずかしそうにしてる。

 

 ホーク、もしかしてお前……。


「もちろんだ。ちゃんと報酬は払う。但し体で、とかは勘弁してくれよ」

「誰もそんな事ぁ言ってねぇだろうが!」

「さっき似たような事を口走ったのはどこのどいつ様だったかしら?」


 敢えて女性らしい語尾で尋ねると、ホークの野郎、顔を赤くしやがった。


「あ、あれは言葉のアヤってヤツだ。本気にするヤツがあるか」

「それじゃ、引き受けてくれるな」

「見張りだけなら。引き止める方はナシだ」

「うーん、じゃあそれでもいいや。頼むぞホーク」


 そのまま駆けて行こうとしたところを呼びとめられる。


「おい! 人に頼み事を押しつけといてとっととずらかろうとしてんじゃねぇよ」

「ごめん。でも急いでるんだ」

「もしそのユミロフってのが来たら、どうすりゃいいんだ?」


 そういやそうだった。

 っていうかそもそもユミロフをどうやって見分けるのか。

 

 あれ、でもホークがそれについて確認しないのは何故だ?


「もしかしてユミロフ、知ってるのか?」

「一応、それなりにここに滞在してたからな。見た事はある」

「そいつはいい! じゃ、もし見かけたら門の所にある鐘を思いっきり鳴らしてくれ」

「はぁ? あれは火事とか魔物が出たとかそういう非常時に鳴らすモンだろうが」

「いいんだ。非常時なんだから」

「全く……後でちゃんと事情を聞かせろ。それに鳴らした後の事までは責任取れねぇぞ」

「大丈夫。それでいい。ホーク、本当に助かる。ありがとう」

「バカやろう。礼は終わってからにしやがれ。それからさっきの報酬の話だがな」

「なんだ? 接吻もダメだぞ」


 キスで通じるかどうか微妙だったので接吻と表現してみた。


「バカかてめぇは! 人を何だと思ってやがる……。まぁアレだ、一杯奢れ」

「はい?」


 いきなり何の話に切り替わったのか、思考が追い付かない。


「だから報酬だよ。一杯奢れや」

「もちろんだ。一杯と言わず腹一杯奢ってやる」

「よし、それで手を打つ」


 ニヤリと笑ったホークは踵を返して北門へ歩いて行った。

 ウルズスラで一緒の依頼をやってた時はいけすかないヤツだと正直嫌ってたが、今この瞬間は救いの神様に見えるよ。

 

 頼んだぞ、ホーク。



*****



 それからちょうど1分後、オレはパルピンのシャイア教会前にいた(ちょっと迷ったのは内緒だ)。

 

 確かにこんな目立つ建物は他にない。

 元の世界の教会とは若干趣が違うというか、神聖というよりも威圧的な雰囲気だ。

 

 ゴツゴツした外観に加え、あちこちに竜を模(かたど)ったデザインが禍々しさを醸し出しているからかもしれない。

 

 まだ入り口は開いているらしく、自由に人の出入りがある。

 時間が時間だけにそれほど多くはないが。

 

「さてと――」


 思わず口に出してしまったが、こっから先は行き当たりバッタリだ。

 

 オレ自身が教会の中に入って行くのはさすがにどうかと思うわけで。

 

 隠密行動というか、建物侵入等に慣れていればもうちょっとどうにかなるんだろうか。

 今度そういう訓練もしておいた方がいいのかなぁ。


 一応中の様子は見ておきたい。

 でも中に入るわけにはいかない。

 ではどうする?

 

 当然、屋根に上るの一択だ。

 

 教会の横の暗がりに入ってそこからジャンプして壁蹴り、更に隣の建物の壁も蹴って教会の屋根の下の方に上がる。

 

 教会と言うぐらいだからステンドグラスっぽいのがあるだろうと思ったら案の定。

 天井に幾つもあったよ。

 これ、うっかり踏んだら割れて落ちるかな。

 

 で、比較的色の薄い透明な部分を探して、そこから下を覗き見る――。


 別に何て事ない、普通の教会の中にしか見えない。


 しばらく覗いていたが、特に怪しい動きもなく、ユミロフらしき人物も現れず、協力者らしき人物に至ってはやはり何の情報もないのでまったく見当もつかない状況。

 

 下を覗き込む姿勢に疲れて、ふぅと体を起して溜息を吐く。

 

 まだパルピンに入って30分程度だ。


 時間は充分にあるはず……と思いたい。


 ふと、さっき上がって来る時に足蹴にした建物の方を見た時、自分の愚かさを呪った。

 

 シャイア教徒だらけじゃん!

 

 その建物が何なのかは知らないが、教会に隣接していてシャイア教と思しき連中がどの部屋にもいる……。

 

 教団関係者の寄宿舎のようなものではないのか。

 

 だとするとユミロフもこの建物にいる可能性がある!

 

 一番上の階――は5階だ。

 

 さっと横に視線を移動させながら部屋の間取りを見る。 

 キリール街道の方に近い一角が広いようだ。 

 窓も締め切っていて中が見えないようカーテン状のものがかかっている。

 

 これは怪しい。

 

 待て! もっと怪しいのは地上の方だった。

 バシャが用意してある。

 紫の全身ローブを着用した教徒たちが数人で客車の方に荷物を運んでいる。


 まさか、もう出発する準備をしている!?

 

 少なくともバシャがここにある間はユミロフもここにいる可能性が高い。

 

 だがこのままだとまた逃げられてしまう! 

 そしてオレにはユミロフがどいつなのかわからん!

 クソッ!!

 

 ――あ、ホーク!!

 

 ホークを連れて来よう!

 呑気に門なんか見張らせてる場合じゃなかった。

 

 超足!

 

 あっという間に北門。

 門番のいる場所の裏手にホークが立っていた。

 

「ホーク!」

「なんだ、もう仕事が終わったのか」

「いや、これからだ。ちょっと一緒に来てくれ」


 手を引いて走り出す。

 まさかこの状態で超足を使うわけはいかない。


「おい、嬢ちゃん……」

「ホークって神足使えないの?」

「簡単に言うな。そんな便利なもん使えたらもっと出世してるぜ」

「じゃ、とにかく全速力で走って!」


 ホークの手が引きちぎれそうになってもお構いなしに走る。

 ただ走ってるだけなんだから頑張って付いて来い!

 

 それでも教会に着くまで3分近くかかってしまった。

 

 バシャは?

 

 ――まだある! 良かった。

 

「一体何なんだよ。手が千切れるかと思ったぜ」

「シッ。ここにユミロフがいるかどうか見て欲しいんだ」


 静かにするよう促しながら、建物を指してユミロフを見つけるよう頼む。

 

 ここからは出来るだけ小声で会話。

 

「あのバシャに乗ってユミロフが逃亡する可能性が高いと思う。その前に見つけて捕まえたい」

「捕まえるったって……ユミロフだっておとなしく捕まる訳ないだろう」

「その時はその時だ」

「オレはシャイア教との揉め事は御免だ。もし嬢ちゃんが突っ込んで行っても手は貸せないぜ」

「ホーク、シャイア教と何があった?」

「……それは今は言えねぇ。一杯やる時ならしゃべる……かもしれねぇ」


 かも、なのかよ。

 でもまぁ何か事情がありそうだ。

 ここで急かして聞くより、酒でも飲みながらじっくり聞いてやった方がいいかな。


「じゃその時でいいよ。とにかく今はユミロフだ」

「とりあえずそこら辺に出て来てる奴らは違う。まず着てるモンが全然話にならねぇ」

「なに、ユミロフってそんな目立つ恰好してんの?」

「まぁ見るからに偉そうな、高そうな恰好だよ。嬢ちゃんも見りゃわかる」

「でも、逃げる時までそんな恰好してるかな」

「今から逃げますってな服装で逃げるもんなのかね、あんな偉そうにしてる野郎が」


 ふむ、それもなくはないか。

 教徒にはあくまでも緊急の移動とだけ伝えてる、とか。

 あまり無様な恰好は出来ないだろうな。

 

 あ、でももちろんいざ本当にやばくなって逃げる時は逆にぼろぼろの衣装着てそうだけど。

 司教様って思われないように。


「あとはこの最上階が怪しいと思うんだが、窓の中が見えないんだよなぁ」

「相当警戒してるって様子だな。だが、単に早く寝てるだけって可能性もあるぜ」


 その時、完全に想定外の事態が発生した!


 カンカンカンカンカンカン………。

 

 鐘の音が大音量で町中に鳴り響いたのだ。

 

「えっ!?」


 思わずホークの方を見てしまう。


「オ、オレじゃねぇぞ」


 そんなのわかってるよ。

 ホークも動揺してるらしい。

 

 音の方向からして南門の方だ。

 一体何があったんだ?

 

 すると、眼下の教徒たちの様子に激しい変化が起こっていた。

 

 もう右往左往どころではない程の大混乱を来している。


「司教様! 急いでください!」


 キタコレ!

 司教が2人も3人もいない限りはビンゴだ。

 

 そして間もなくバシャに向かって建物から出て来た偉そうな恰好をした人物とそれを取り囲む4人の紫ローブ。

 

 ホークが抑えた声ではっきり告げた。


「アレだ! ユミロフだ!」

「よしッ!」


 正直こんな事態になるならホークじゃなくても見分けがついたな、と思いながらも口には出さずにバシャの近くの物陰に隠れる。

 

 ユミロフが側近と思しき4人と一緒にバシャに乗り込んだ所までは見届けた。

 

 だが、協力者=監視者らしき人物をまだ見かけていない。

 

 まさか側近の中にいたとか?

 最悪それならそれでいいが、ここで見逃してしまったら取り返しがつかない気がする。

 

 慎重に、ちゃんと見極めないと……。

 

 だが、やがてバシャが動き出してしまった。

 

 くそ、どうする?

 どうするんだ!?

 

 いつの間にかホークがすぐ横に来ていた。


「で、どうするんだ、嬢ちゃん」

「バシャを追う」

「追ってどうする」

「出来るだけ人気のない所で止める」

「ふぅん。止める、ねぇ……」

「手を貸してくれるか」

「しゃあねぇなぁ」


 ホークがふいっと歩きだしたかと思うと、移動し始めたバシャの方へ向かう。

 

 そしてすれ違い様に客車の下に潜り込んだ。 

 バシャが通り過ぎた後も、ホークの姿はない。

 

 なるほど、客車の下に取りついたってわけか。

 なかなかやるな、ホークめ。

 

 オレは超足でそのまま尾行を開始――した直後、ちょうど教会の前を通り過ぎる時に入り口に入って行くある人物の姿が見えた。

 

 ……え!?


 信じられない。

 

 どうしてここに?

 よりによってシャイア教の教会の中に?

 

 ――今のは間違いなくロビィだった。

 

 神々しく輝くストレートロングの銀髪。

 雪のように白い肌。

 そして森の民に共通するあの耳の形。

 

 後ろ姿だったが間違いようがない。

 

 何故だ、ロビィ。

読んでいただき、ありがとうございます。

色々な出来事が次々に起こりました。

どれからどうやって収束していくんでしょうね、ははは(乾いた笑い)。

引き続き、応援よろしくお願いします

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