(55)オレはバックレられる
パルピンからパピコ村へはチャンプーまでとほぼ同じ距離らしい。
キリール街道を南下して途中の分岐から東へ行くのだが、そこからの道がやや問題だった。
キリール街道が結構整備された綺麗な道だったせいもあるが、急に田舎道に入ったかのような変わり様。
そもそも道が平らになっていない。
でこぼこのせいで、振動緩和があっても結構悲惨な乗り心地のバシャ。
シンに出来るだけゆっくり、道の平らなところを選んで進むようお願いしたのもあってか、パピコ村が見える頃にはすっかり日も暮れてしまっていた。
キャリオ山脈の切れ目のような谷を通って抜けたところに村があった。
パ・ピ・コ!!wwww
早々に灯りが点っている村の様子が、少し高台になっている現在位置からよく見えたのだが完全にパピコだった。
具体的に言うと、長屋のように繋がった建物が縦に2棟、というか2本並んでいるのだ。
おそらくは長屋の出入り口や窓から漏れる明かりが、建物の周囲を取り囲むように光り、結果建物のシルエットをはっきりくっきりと見せてくれているという状態。
奥の方が細くなっているからますますパピコ。
さすがに飲み口をちぎるための取っ手こそないものの、この村の建物の配置を考えたヤツか村の名前を決めたヤツのどちらかあるいは両方は絶対にあっちの世界の人間に違いないとオレは勝手に結論付けた。
オレ以外にあっちの世界からこっちへ来た人間がいても何ら不思議ではないのだ。
「もうすぐ到着です。みなさんお疲れ様でした」
「ううん、私たちはただ乗ってただけだから。むしろシンの方が大変だったでしょ」
「そんなジュリアさん。全然平気です。ボク、バシャを走らせるのが意外と好きみたいなんですよ」
「へぇ、それならジュリアス付きの御者にでもなる?」
「えっ!? ボクもジュリアスの仲間にしてもらえるんですかッ!?」
「あ、ごめん。ちょっとした冗談。本気にしないでね」
「そんなぁ~」
上げて落とすジュリアであった。
そんなジュリアを生温かい目で見守るオレたち。
するとここで思いがけない人物が口を開いた。
「あの~すみません。ちょっといいでしょうか?」
ニナが御者席の方から客車を振り返ってこちらの反応を伺っている。
シンもびっくりしてニナの方を見ている。
おい、ちゃんと前見ろ! もう暗いんだし危ないだろ。
「どうしたの、ニナ」
ピンピンが最初にニナに声をかける。
しかし何故かニナはちょいちょいオレの反応を伺うように視線を寄こしている。
いや、オレは何も言わないからな。
「シン、ちょっと止めて」
「えっ! あ、うん」
隣のニナにいきなり言われて驚いてバシャを止めてしまったシン。
おいおい、何してくれちゃってんの。
村のすぐ手前まで来といてそれはないだろ。
「どういう事? 説明して」
リズが冷ややかな口調でニナを問い質す。
「あのですね、大変申し訳ないのですが……」
といいつつ、またもやチラチラと視線を寄こすニナ。
「どうしたの! 早く説明して」
リズが急かす。
ピンピンもジュリアも心配というよりは訝しげな表情でニナを見ている。
「突然ですが私、記憶が戻っちゃいました!」
あー、はいはい。そういう風にするわけね。
見え透いたウソをまぁ……。
「ホント!? 良かったわねニナ」
まんまと騙されて喜ぶジュリア。
「というのは冗談で、本当は記憶がないなんて嘘だったんです。今までごめんなさい」
え? あれ?
それ言っちゃうんだ……。
さすがにこれにはオレもびっくりした。
ここまで明け透けに言われてしまうと表立って責めるわけにもいかなくなる。
なかなか策士だな。
「え~っと、どういう事?」
ジュリアは混乱している。
「今までのはお芝居だったってことなの、ニナ?」
ピンピンの口調もさすがに非難がましくなっているが仕方あるまい。
「はい、そうなんです」
だからお前はどうしてそんなに明るく笑顔で答えられるんだよ。
おかしいだろ。
「私たちを騙して何を企んでいたの!?」
ほうら、リズが本題に斬り込んできたぞ。
どうする?
「企んでいたっていうかぁ~、面白そうだなぁと思っただけなんですよ~」
はい?
なんだそれ。
呆れて二の句が継げないオレたちを尻目に、あの日の事を語り出したニナ。
あの日、ペピンからチャンプーへ移動中に日が暮れてしまって夜営する事になったオレたちは夜中に魔物の群れと遭遇した。
翌日の早朝に出発してすぐに街道横の林の手前で倒れているニナを見つけたのだった。
ニナが言うには、家出をしてペピン方面に歩いて行く途中に魔物(実際にはフー)の群れがいたので、死んだふりをしてやり過ごしたのだそうだ。
あまりの恐さにそのまま動けなくなり、気が付いたら眠ってしまっていたと。
それで目が覚めたらオレの顔があったらしい。
なんだか余りにも安易な偶然だ。
だいたいそれが本当ならどうして記憶喪失を装う必要があったのかが説明出来ていない。
「だって、ああいう場合ってついそう言ってみたくなっちゃうじゃないですか~」
いやいや、ないから。
こっちの世界でどうしてそういう思考になるのかも理解不能。
記憶喪失ものの創作話でもあるのだろうか。
リズが髪に手を突っ込んでわしゃわしゃしている。
そしてなんだか面倒臭そうにニナに尋ねる。
「で、それでどうして今になって急に本当の事を話す気になったの?」
「あ、はい。パピコ村へは私、行きません」
なるほど、それでか。
だがリズは納得してくれない。
「どうして?」
「どうしてもです」
「答えになっていないわ」
「答えたくないんです」
リズがまたわしゃわしゃやりだした。
そんなリズの肩にマリュウがそっと手を置く。
麗しきご主人様愛だなぁ。
「ニナ。そんな言い方、失礼じゃないか」
シンがニナを叱責するように声を掛ける。
ニナはそれには答えず、笑顔で首を傾げて見せるだけ。
なんだかニナが鉄の心臓を持った策士に見えて来た。
いやいや、ないない。気のせいだ。
「えっと、あの村には会いたくない人がいるので私はここで失礼します。みなさんが村へ行くのは止めません。ただ、村の人たちには充分注意してくださいね。決して油断しないで」
「ちょっと待って。それどういう事?」
さすがに今の話を聞き流すわけにはいかなかったので問い質す。
「言った通りです。アスカは私がウソついてるって知ってましたよね。黙っててくれてありがとうございます」
「そうなのアスカ?」
「本当なんですか師匠?」
「ちょっとどういう事!?」
3人が同時にオレを責める。
やめて!
ってかどうして今それをみんなの前で言うかな、ニナ。
絶対わざとだろ?
前言撤回。やっぱりこいつ策士だ。
「それよりさっきの話。村の人に注意しろってどういう事?」
「忠告しましたからね。それじゃ、みなさんさようなら」
ニナはそれだけ言うとさっと身軽に御者席から飛び降りると、その場で一礼してからくるりと背を向けて走り去って行った。
まさに一瞬の出来事だった。
「ちょっとニナ!?」
ジュリアが客車から飛び降りるとピンピンもそれに続く。
が、ニナの姿は闇の中に消えてしまって跡形もない。
こういう時は――。
「マリュウさん!」
「はい。ものすごい速度で私たちから離れて行ってます。追い付くのは難しいかと」
「本当なの? マリュウ」
「はい。アスカさんなら追い付けるかもしれませんが」
「いや、この暗さじゃたぶん無理だと思う」
幾らオレでも真っ暗な林の中を超足で移動するのはさすがに……。
「あの子、一体何者なの?」
「私にも判りません」
オレだって結局何だったんだろう、としか言い様がない。
突然現れて突然消えた青髪のフリフリ美少女。
果たして彼女に再び会う事はあるのだろうか……。
ところで、一連のニナの言動に誰よりもダメージを食らっていたのはシンだった。
半べそ状態ですっかり落ち込んでしまっている。
「シン、大丈夫?」
「…………」
ピンピンが声をかけても反応がない。
「落ち込むのは村に着いてからにしてくれ」
「ちょっとアスカ! なんて事言うのよ!」
「そうですよ師匠。シンの気持ちも少しは考えてあげてください」
そんなに人でなしかな、オレ。
目的地直前で足踏みしてる方がよほど問題だと思うけど。
「アスカ、どう思う?」
リズが体を寄せて聞いて来る。
おっと、近いよ。
オレに腹立ててるんじゃなかったっけ?
「ニナの言ってた事?」
「ええ。村の人に気をつけろって……」
「よくわからないなぁ。普通の人間じゃない、とか?」
「パルピンでは特にそういう噂は耳にしませんでしたが……」
なるほど、マリュウがそう言うなら信憑性は高い。
「これは単なる私の勘なんだけど、今回の依頼の胡散臭さにも通じてる気がするわ」
リズの心配している事が少し判るような気がした。
「でもこっちはシンも入れたら6人いるんだし、ちゃんと警戒してれば大丈夫じゃないかな」
「シンがあの様子でも?」
「え!?」
ああ、確かにシンの現状を考慮していなかった。
魂の抜け殻状態のシンが役に立つかどうかと言われれば否。
「ニナさんが言ってた会いたくない人とは誰なのでしょうか? もしかするとそれが手掛かりになるかもしれません」
さすがマリュウ! それだ!
「じゃあ村についたらニナの事を聞いてみよう。誰かは知ってるんだろ、あの様子だと」
「そうね、そうしましょう」
リズが頷いて見せたところへ、ジュリアがやって来た。
「ちょっと、私たちに内緒で何話してるのよ」
ああ、また揉めるのか……。
オレが怯んでいる間にマリュウが経緯を説明してくれた。
「村に着いたらニナさんの事を聞こうという話をしていたのです」
「うん! いいじゃない」
あれ? ジュリアが素直に同意したぞ。
「シン! 聞いて! 村に行ってニナの事を知ってる人がいないか聞いてみよ!」
早速話を理解したピンピンがシンに声をかけると、シンも反応してゆっくり立ちあがった。
「ニナはボクが守ってあげないと……」
怖い、怖いよシン。
まだ目の焦点が定まってないぞ。
こうしてニナを欠いたオレたちだが、村へ行く目的がひとつ追加されて何故か団結心が芽生えたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
スピード優先でここまでで一話にします。
本当は次のトピックと合わせて55話の予定だったのですが…。
引き続き、応援よろしくお願いします




