(56)オレは亜人講座を受講する
パピコ村が近付くにつれ、異様な気配に嫌でも気付かざるを得なかった。
「なに? お祭り?」
ジュリアが言う通り、祭りの日のような喧騒が村の外まで聞こえて来るのだった。
村は例によって周囲を木の柵で囲われていて、道の終着点がパピコ村の入り口になっている形だった。
その村の入り口付近、入ってすぐの所で大きな火が焚かれ、沢山の人々がその周りを囲んで騒いでいる。
「どうしましょう? このまま中に入りますか?」
正気に戻ってバシャを操っていたシンが不安そうにこちらを振り返る。
「一旦、手前で止めて少し様子を見ましょう」
ジュリアがシンに指示を出す。
が、そろそろバシャを止めようかという段になって村の中から数人がこちらへやって来るのが見えた。
最初は子供かと思ったが、近づいて来る連中の顔や動作を見るとどうやらそうではないらしい。
それにしても普通よりだいぶ背丈が低い。
まさかホビットとかいう小人族じゃないだろうな。
「さぁさぁどうぞどうぞ。よくいらっしゃいました。道が悪くてさぞお疲れになったでしょう」
一番先頭で近付いてきた小柄で太った男が慇懃な態度で話しかけて来た。
まるでオレたちが村へ来る事を知っていたかのような話しぶりだった。
「おお、これはこれは! いずれ劣らぬ美女揃いですなぁ。いやはやこんな綺麗所が村へ来るなんて何十年ぶりだろう」
続いてやってきたヒゲ男(やはり背が低い)は最初の男よりやや横柄な感じながらも、ニコニコの笑顔で迎える。
「なるほどなるほど。紫札に青札に赤札。ふむふむ。これはかなりの腕前の冒険者ですな」
三人目の目の細い痩せた男はすっとシンのいる御者席の隣に飛び乗ると、極めて落ち着いた様子でオレたちの階位札を観察して興味深そうに呟くとまたひらりと飛び降りた。
やはりこの男も紛れもなくチビだった。
「お前たち! お客様に失礼するんじゃないよ、全く……。みなさん、ようこそパピコ村へ。お待ちしてました。どうぞそのまま中へお入りになってください。門を入ってすぐ左に馬止めもありますから」
最後に声を掛けてきたのはやはり小さなおばさ――ん? なんかどっかで見た事あるような……。
ああ! スプーンおばさん!!
まさにスプーン・ビヨルンをちょっと太らせた感じの中年おばさんだ。
しかし似てる。くりそつだ!
そしてこのスプーンおばさんは最初の男三人よりヒエラルキー的に上位にあるのか、おばさんが出て来てから男たちは少し離れた所でおとなしくしている。
「じゃあそのまま行って、シン」
「わかりました」
シンがジュリアの指示でバシャのまま村へ入って行くと、スプーンおばさんの言う通り左に馬止めがあった。
何はともあれ到着だ。
「アスカ、ちょっと外見て」
ジュリアが客車の窓から外を見るよう合図を寄こす。
見ると外の様子が一変していた。
さっきまで大騒ぎしていた人々がみな静まり返ってこっちを注目している。
「え、なんで?」
「知らないわよ」
「もしかしてここにもあの貼紙が届いてるとか?」
ピンピンがピント外れな事を言ってるのはとりあえずスルーして、マリュウの方を見る。
「いえ、特におかしな様子は感じられません」
地獄耳にも特に異常なし、か。
バシャの後を付いて来たらしい出迎え組の4人がニコニコした顔で(痩せ男を除く)客車の外で並んで待っている。
ま、どっちにしろ外に出ない事には始まらないわな。
「行こう」
「待って。私が最初に行くわ」
ジュリアがオレを遮って先頭で客車から降りる。
瞬間、ざわついた気配があったがまたすぐに静まる。
固唾をのんで見守るといった雰囲気だ。
ジュリアに続いてオレとピンピン、そしてマリュウ、最後にリズが客車から出て外に降り立つ。
シンはまだ御者席に座ったままだ。
オレたちが全員降りるのを待っていたようなタイミングでスプーンおばさんが発声。
「ようこそパピコ村へ! みなさんを心から歓迎します!」
次いでわっという歓声。
再び村全体が沸き立つかのような喧騒に包まれた。
さっきまでじっとオレたちを遠巻きに見ていた村人たちが一斉に押し寄せる。
待て待て、ここはライブ会場じゃないんだぞ。
警備の係員もいなければロープも張ってない、そんな状態で一気に詰め寄られたら危ない。押し潰されるって!
「ちょっと待って! 危ないから下がって」
「師匠! 大丈夫ですか!」
「リズ様! 私から離れないで下さいッ!」
「あなたたちッ! 下がりなさいッ! ちょっとどこ触ってるのよ!」
シン以外はみな揉みくちゃにされて何かどうなっているのかわからない状態。
但し、村人はみんな背が低いので必然的に普通の身長のオレたちはお互いの姿だけは確認出来るという……。
マリュウの地獄耳はこういう喧騒の中だとどうなるんだろう?
雑音が多くて聞きとれなくなってしまうんだろうか。
そんな事をぼんやり考えながらも、頭の隅でニナが言ってた気をつけろってこの事なのか、とも思ったり。
とりあえずはドサクサに紛れて何か盗まれたりしないよう、装備や巾着はしっかり握っておく。
それにしてもどうなってるんだこの村は?
誰か人が来る度にこんな事をしているのか、それとも今日はたまたま何かのイベントに重なってしまったのか。
「うわっ!」
思わず大きな声を出してしまった。
誰だよ、今オレの胸を思いっきり鷲掴みしやがったのは!?
くそ、いっその事ここで大暴れしてやろうか。
さすがに剣は物騒だから軽く魔法でも……。
「大丈夫? アスカ」
いつの間にかすぐ後ろにジュリアがいた。
オレの肩に手を置いて心配そうにこちらを見ている。
「ああ、うん。なんとか」
「本当ね? いきなり暴れたりしちゃダメよ」
うへぇ、全部お見通しですか。
御見逸れしやした。
「あ、ジュリア! 師匠!」
そこへピンピンも人波に押されるようにしてこちらへ移動して来た。
すぐ後ろにマリュウとリズもいる。
「なんかオレたち、どこかへ運ばれてないか?」
「そう? 気のせいじゃない?」
「合流出来て良かったです、師匠」
「あ、みなさん! 良かった……リズ様、こちらです!」
「ちょっと待ってマリュウ。もう! ちょっとあなた、そこをどきなさい!」
こうしてオレたちジュリアスの5人は無事合流出来た。
だがオレの感じた通り、人波に押されて動いてるように見せかけつつも意図的にどこかへ運ばれているらしかった。
そうでなければこんなに都合よく5人揃うわけがない。
そして今この場所が2本のパピコの底の間であるのも、偶然にしては出来過ぎだ。
そしてオレたちを待っていたかのように、長屋の間に立っていたのはスプーンおばさんだった。
「本当にすみません。村のみんなも久しぶりのお客さんで興奮しちゃって。どうか許してくださいね」
「これはどういう事なんですか? ちゃんと説明してください」
ジュリアがやや抗議口調でスプーンおばさんに詰め寄る。
オレたちの背中側はまだ人がごった返していて壁になっている。
前門のスプーンおばさん、後門の人込みという形で挟み込んで逃げ道を塞がれているようにも思える。
「村を外の人が訪ねて来るのはもう十何日かぶりなんですよ。だからみんな嬉しくて、もう大騒ぎなんです」
「そういう事じゃなくて、どうして私たちのためにこんな?」
「まぁその辺はおいおいと、ね。まだ宵の口ですから、夜は長いですよ」
「私たちここに依頼の事で……」
「さぁさぁ、奥へどうぞ。この村のやり方での歓迎になってしまいますが、どうか楽しんでいってください」
ジュリアの言葉を遮るようにスプーンおばさんが強引にオレたちを奥へと誘う。
互いに顔を見合わせてどうしたものかという雰囲気だったのだが、突然後ろからまた人込みが押し寄せて来て嫌が応にも前へ進まざるをえない状態に――。
これが意図的な動きだとしたら相当手慣れているぞ。
集団の動きの連携が半端なさすぎるだろ。
オレたちが連行されたのはパピコの真ん中、2棟の長屋の間の路地だった。
ちょうどなんとか横町的な雰囲気の下町酒場情緒のある風景。
その一番手前の右の建物の中へと案内された。
案内されたというか、無理矢理押し込まれたと言った方が正しい。
「いらっしゃ~い! ここが1軒目ね。私はこの店プリッツの店主バタールよ。よろしくね冒険者さん」
ちょっと待てオカマ野郎、今何つった?
「それじゃ頼むわね、バタール」
「任せて頂戴ビスコ。今回は私、頑張っちゃうわよ~」
はい?
プリッツにビスコ?
完全にグリコじゃねーか。
どっちも昔だいぶ御世話になったぞ。
「何? どういう事?」
「どうぞお好きな席にかけてください。これは村からの歓迎の気持ちです。御代は結構ですからどうか好きなだけ飲んで食べてやって下さい」
ジュリアの疑問にビスコと呼ばれたスプーンおばさんが答える。
「本当にタダなんですか?」
ピンピンが警戒しつつビスコに尋ねると、ビスコは喜色満面でゆっくり頷いて見せた。
それを受けてピンピンがこちらを見る。
どうします? と伺いを立てて来る感じだ。
「その前にどうしても聞きたい事がある」
ビスコに向き直って真正面から目を見て言う。
ビスコも微動だにせずそのまま目を逸らさない。
「私たちもみなさんに聞きたい事がたくさんあるんですよ。だから食べながら一緒にお話しましょう」
そう言って視線を逸らさずに手を椅子の方へ向けて座るよう促す。
オレが座るまでそうしてるつもりなのか?
ううっ……。
ビスコという名前のスプーンおばさんにここまでガッツリ向き合われると抵抗しきれない自分が悲しい。
根負けして目を逸らしたのはオレの方だった。
ジュリア、ピンピン、リズ、マリュウそれぞれと視線を交わす。
リズだけは肩を竦めたが、他の3人は皆頷いていたので、まぁここは言う通りにしよう。
ビスコに促された席ではなく、店の一番奥の隅のテーブルに5人そろって座る。
ああだかおおだか、何かしら残念そうな声があちこちから聞こえて来たがそんな事は知るか。
オレたちを押して一緒に店に入った連中もそれを見てすぐさま思い思いの席に座り始めた。
まさか席の位置まで予め決まってるんじゃないだろうな、とオレが疑心暗鬼になるほど連中の動きは滑らかだった。
あっという間に店は満席。
座れなかった人たちはテーブルの横に立って飲み始めた。
外から見た感じ、他にも店があった感じなのにどうして皆ここに入るのか。
オレたちがいるからなんだろうが、どうにも不自然というか解せない。
すると、オレが気を許している一瞬のうちにビスコの姿が見えなくなっていた。
畜生! 逃げられた!?
慌ててビスコを追って店を出ようとするも、他の客に遮られて出られない。
「姉ちゃん、どこ行くんだい」
風貌からして30代ぐらいと思われる男に声を掛けられた。
「いや、ちょっと外へ」
「外はダメだよ。まだこの店で飲んでないだろう。次へ行きたかったらまず飲まなきゃ」
何だと?
「どういう事だ?」
「おおっと、なんだか口調が怖いよ姉ちゃん。まぁそこへ座って一杯飲もうや」
男が隣の席の男を無理矢理どかすと、空いた椅子を指差して座るよう促して来た。
さて、どうする?
「アスカ! どうしたの?」
ジュリアが奥の席から声をかけてくる。
席を立とうとしていたので、ジェスチャーで大丈夫と伝える。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
男の隣に座る事にした。
よく見ると無精ひげでチクチクしそうな顔。
ネルシャツっぽい服にラッパジーンズ。
ワイルド風なイメージだがやはり背は低い。
(よおく見ると、他の連中よりは少し高い方かもしれない)
「いいねぇ! なかなか度胸があるじゃないか。よっしゃ。おいバタールさん、アレ頼むよ」
「アレね。かしこまり~」
男が店主に何か注文したようだが、アレってなんだ?
そしてつい流してしまっていたが、バタールって店主はオカマじゃないのか?
口調といい、見た目といい、完全にそうとしか思えないのだが。
「姉ちゃん、名前はアスカってのか。オレはギャバンだ。よろしくな」
え!? 宇宙刑事?
じゃなくて、アレか。ギャバか!
メンタルバランスチョコレートの。
はっ、いかん。
つい何でもグリコに結び付けて考えてしまっているが、こいつの場合は違うかもしれないな、うん。
「よろしく……」
そこへバタールが何やらジョッキのようなものを2つ抱えてやって来た。
「はい、おまち。特製メスカーラ」
「おう、ありがとよ。ほら、アスカも一杯やれよ」
そう言ってジョッキのひとつをオレの方へ押し出す。
仕方ない。
この世界ではアルコール耐性もそこそこあるようだし、飲みながら情報を引きだす作戦へ変更だ。
ジョッキを取ってかざす。
「おっ、いいねぇ。乾杯だ!」
ジョッキをぶつけてくるギャバン。
そのまま一気に飲み干す勢いでジョッキを傾ける。
こういうのは出遅れると後手に回るんだよな。
オレも負けずにイッキ! イッキ!
プハーッ。
ギャバンとほぼ同時に飲み干したら、周囲がどよめいた。
いつの間にかオレたちの周りに結構な人だかりが出来ていたようだ。
みんなそれぞれ手にジョッキを持っている。
まさか全員同じもの?
「おいおい、まさかオレはもう酔っぱらってるんじゃねぇだろうな。今、オレより早く飲み干してなかったか?」
「いや、同じぐらいだろ」
別に謙遜でもなく、本当に同じぐらいのタイミングだと思ったのでそう答えた。
「ウソだろ。この特製メスカーラはグルドいち強い酒って言われてるんだぜ? それをこんな姉ちゃんが……」
「ふーん。これでグルドいちなんだ……」
たぶん元のオレなら1杯で気絶してるだろうが、このアスカはアルコール分解能力が半端ないからな。
それに、なんだか美味く感じられるし、ほんとアスカ最高!
「おいてめぇら! アスカに負けたヤツぁ明日っから山の作業に回すぞ!」
ギャバンの言葉に周囲のみんなが悲鳴を上げて愚痴り出す。
「山の作業ってなに?」
「ああ、木を切りだしたり鉱石を採掘したり、村でも一番きつい仕事だ。それに魔物や亜人も出るしなぁ」
「あ、それ。亜人。この辺ってどんなのが出るの?」
ちょうどいい。ギャバンに亜人の事を聞こう。
「そうだなぁ、一番よく見るのはドルクだな。あいつら食い意地が張ってていけねぇ」
ドルクはもう知ってる。そうじゃないやつの情報が欲しいんだよなぁ。
「他には?」
「森の方にまで行けば色々いるらしいが、作業でそこまで奥には行かないんでね」
「ならギャバンが知ってる亜人について教えてよ」
「なんだよ、アスカは亜人に興味があるのか?」
「一応これでも冒険者だから。知識として知っておきたい」
「なるほどねぇ。勉強熱心だな。それじゃいっちょギャバン様の亜人講座でも始めるか」
「おー!」
パチパチと拍手して少しでも盛り上げてやる。
なんだかわからんなりに周囲も一緒に拍手してくれて助かった。
「あ、その前にこれお代り」
「そう来るか! よっしゃ! バタールさん、アレお代りね。どんどん持って来て!」
「おや、ギャバンちゃん。今日はご機嫌じゃないの。そっちのお嬢さんのおかげだね」
「いいから早く!」
「はいはい、ただいま~」
どうやらギャバンはこの店の常連らしい。
ひょっとするとあのバタールと昔何かあったのかもしれんな。
うへぇ、想像したくねぇ。
「お前ら、タダでおれの話聞くんならせめて死ぬまで飲むんだぞ」
一同爆笑。
なんだかオレもちょっと楽しくなって来た。
このギャバンという男はどこか憎めないところがあって好きかもしれない。
あ、女としてじゃなくてね。オレ、男だし。
「このパピコ村の周辺一帯はキャリオ北東区と言われていて、グルドの中でもまだ開発されていない部類の地域になる」
ほうほう、そういう周辺情報からやっていくわけね。
なかなか悪くない。
「だから魔物や亜人も多いって事になってるんだが、実はオレはそうは思わねぇ」
「え!? どういう事」
もしかしてオレは思わぬ拾いモノをしたのかもしれない。
「マムルの森は亜人が多いとかいう話じゃ片付けられねぇ。個体数だけじゃなく種類が多すぎるんだ。ちょっと不自然なぐらい色んな種類の亜人がいるって話だ。普通なら縄張り争いやなんかで淘汰されていってある程度の所に落ち着くモンだろ?それがあの森に限ってはまるで亜人どもが競い合ってるみてぇにどいつもこいつもいつまでも居座り続けてる。これは何かあるとオレは踏んでるんだが……」
「おいギャバン、せっかくの客人相手にそんな与太話してんじゃねぇよ」
気持ち良さそうに話しているところへいきなり横槍が入り、途端に不機嫌になるギャバン。
「チッ、てめぇかジョアン。相変わらずつまんねぇ野郎だな」
ん? ジョアン?
こいつは普通の名前なんだな……。
ややガッカリしている自分がいる。
「つまらなくて悪かったな。ホラ吹き野郎よりはマシだがね」
「んだとコラ!」
立ち上がってジョアンの方へ向かおうとするギャバンを抑える。
「落ち着けギャバン」
「アスカ……」
すぐに周囲のみんなも一緒になってギャバンをなだめに回り、ようやく元の席に腰を下ろさせた。
それと入れ替わるようにジョアンと呼ばれた男が店を出て行った。
「あいつと仲が悪いんだな」
「ああ。昔からな」
「古いつきあいなのか?」
「まぁ同い年だからな。ずっと腐れ縁みたいなもんだ」
へぇ。
なんかいろいろありそうだけど、今はそれより亜人の話が聞きたいんだよ。
「ほら、気を取り直して続きを頼む」
「ああ、だがその前に……バタールさん! まだか?」
「はいはい、今ちょうど。それよりギャバン、あんたまた店で暴れたら今度は出禁にするからね!」
「わかってるよ」
急にしおらしくなってバタールの持ってきたジョッキを呷るギャバン。
なんかどんどん気になる話が出て来るけど、とにかく今は亜人だ!
「ぷはーっ! やっぱコイツが一番うめぇな。よし、続きだ……」
ここから小1時間ほど、ギャバンの亜人講座が続いた。
【ギャバンの亜人講座まとめ】
――――――――――――――――――
・亜人は魔物と人間、あるいは動物と人間の勾配で出来た種族ではない
・禁じられた儀式により作られた種族という説がある
・一方で半亜人の方は亜人と人間の勾配で誕生したとされている
・亜人は人間と魔物、両方を憎んでいる
・また亜人同士も基本的には敵対関係にある
・突然変異で知能の高い亜人が生まれると異種族集団が形成される事がある
・亜人の肉体は人間とは比較にならないほど強靭で治癒力再生力を備えた種族もいる
・一度でも人間を食べた亜人は人間でしか満足しなくなる
・亜人は基本的に個体数が少ない(繁殖力が低い)
・特定条件が揃うと繁殖力が異常に高くなる事があるらしい(噂)
・亜人の縄張り意識は非常に強い
・亜人の種類は数十種類と言われるが全て確認した者はいない
・まだまだ亜人については謎が多い
・専門の研究者を育てるべきだ(ギャバンの持論)
・森の民は不定期に亜人を駆除するので恐れられている
【マムルの森についてまとめ】
――――――――――――――――――
・8種類の亜人が確認されている
①ドルク族(ドルク、ラドルク)
②ドルガ族(ドルガ、ラドルガ)
③ザルド族(ザルド、ラザルド):リザードマン的なヤツ
④植物族ドリオム:木人間的なヤツ
⑤植物族ツルベム:蔦人間的なヤツ
⑥獣人族
⑦鳥人族
⑧巨人族
・⑥~⑧は目撃談や噂がある程度で詳細不明
・縄張りを作ってお互い牽制し合っているらしい
・大規模な争いは確認されていない
・何故か森から外へはほとんど出てこない
・以前はたまに森の民を見かけたが最近はとんと見ない
・マムルの森は別名迷いの森とも呼ばれ、奥に入って戻ってきた人間はいない
・2つの湖と幾つかの洞窟があるらしい(噂)
――――――――――――――――――
最初に彼が口走ったマムルの森には何かあるという説の詳細は聞けなかったが、これから向かうであろうマムルの森について色々と教えてもらえてオレは大満足だった。
ふと気が付くとジュリアスの面々もオレの後ろの方で立ち聞きしていた。
いつからそこに……。
「ひとつ聞いてもいいかしら」
講義を終えてメスカーラを一気飲みしたギャバンへ、リズが質問を浴びせる。
「おお。なんだい、金髪の姉ちゃん」
「森で死霊種を見かけたという話を聞いた事は?」
「死霊種? ……いや、聞いた事ねぇなぁ。お前ら! 何か知ってるヤツぁいるか?」
ギャバンが村人に問いかけると、みんな頭を横にふるふるして応える。
「ご覧の通りだ。この村じゃ死霊種なんてもんを実際に見たヤツぁ元冒険者ぐらいしかいねぇだろうなぁ」
「元冒険者がいるの?」
一度喰らい付いたら放さないリズ。
「うんまぁ何人かはな。さっきのジョアンがそうだ」
ああ、さっきの。
確か腐れ縁の同級生だったな。
それなら一緒だった可能性もあるじゃないか。
「ならギャバンは?」
「うんまぁオレもそうなんだが、あんまり昔の話はしたくねぇ」
何か事情がありそうだ。
ジョアンと険悪そうだったのも何かそれと関係あるのだろうか。
「他には誰が冒険者だったの?」
リズ……ピラニア並みだなw
「もうひとり同い年のカプリコと二つ下のクリム。あともうひとり、リュークもだな」
くくく……。
ダメだ。最初の名前の時点で笑いが……。
だがまだ含み笑い程度で我慢しているオレ、偉い。
そして好奇心に負けてやっぱり聞いてしまう。
「そのクリムとリュークって人の氏名を正しく教えてくれ」
オレの質問に怪訝な表情をしながらも、ギャバンは答えてくれた。
「クリム・コロンとリューク・スカイミントだが、もしかして知り合いなのか?」
ブハッ!!
すまん、さすがに我慢できなくて吹き出してしまった。
それにしたってコロンにスカイミントとは……懐かしすぎる!
めっちゃ食いたくなってきた。
しかもリューク・スカイミントに至ってはなんとなくスターウォーズっぽさも醸し出してて余計笑える。
だが待てよ。
この調子だとまさか――。
「それじゃさっきのジョアンってヤツは?」
「ジョアン・スポロガムだが……」
「ひゃっ!」
ス・ポ・ロ・ガ・ム!!!
やべぇオレ大好きだったわ。
思わずヘンな声を出してしまったじゃないか!
おまけは一体何だ!?
勝手にあいつを型抜きするイメージが沸いてきて仕方ないぞ。
「おい、なんだよ急に……もしかして酔っぱらっちまったのか?」
ギャバンが心配して声をかけてくる。
オレは腹を押さえて笑いを堪えながらなんとか言い訳を捻り出す。
「大丈夫……ちょっと昔の事を思い出しちゃって。ごめん」
すると、ちょっとごめんなさいという声と人を掻き分ける気配が後ろから……。
「どうしたのよアスカ。様子がおかしいわよ」
「ああ、ジュリアか。ごめん、なんでもないんだ」
「本当に? こんな知らない人だらけの所でそんな風にしてるアスカ初めてよ」
ん? ああ、そうか。
まぁ確かにあまりひと目を憚らずに笑うようなタイプじゃなかったな。
でもなぁ、このグリコ商品擬人化大作戦みたいな展開、我慢する方が体に悪いって。
するとジュリアがぐいと体を寄せて来て耳元へ口を寄せる。
「昔の事思い出したってホント?」
「ごめん、それウソ。あとマリュウさんが聞いてる」
「あっ……。もう何よ!」
バシィッ!
すっと体を離してオレの背中を叩くジュリア。
だから痛いってば。
完全に本気だろ、今の。
チラとマリュウの方に視線をやるとバッチリ目が合っちゃいました。
ですよね、ははは。
「もうそろそろいいかしら?」
リズが苛々した様子でオレに確認を求めて来る。
こえーよ。
「あ、ごめんリズ。どうぞどうぞ」
ギャバンの方へ手で促す。
「死霊種はいないようだけど、シャイア教はどう? 誰か森で見かけた人はいないの?」
おっと、それを今ここで聞いちゃいますかエリザベス様。
もしこの中に信者がいたらえらい事になっちまいますよ?
マリュウがすまなそうな顔をしてオレの方を見ている。
いや、別にオレはいいんだけどさぁ。
「シャイア教? そいつぁアレか? あの紫の服を頭から被ってる連中の事か?」
「見たのね!?」
リズが急に一歩前へ出たので、前にいた数人がバランスを崩して周囲が雪崩式にズコーッとなる。
が、リズの剣幕に誰も何も言えずにモゴモゴとお互い不満を言い合っていた。
「いや、オレが見たのはパルピンの町中と、後は街道で擦れ違ったくらいだ」
「この村の周辺や森では?」
「いや、見てねぇ。誰か、この辺で見た事のあるヤツぁいるか!?」
一応みんなにも聞いてくれるギャバン。
しかしみんなの反応はさっきと同じ、頭ふるふる軍団。
おっと、なんだかみんな可愛く見えてきたぞ。
「だそうだ。だがなんでシャイア教なんだ?」
「いえ、何でもないのよ。ただ聞いてみたかっただけ」
「そいつぁおかしな話だ。死霊種の質問の後に今度はシャイア教だ。こいつぁピンとくる案件だぜ」
なんと、見た目に寄らず頭の回転も早いのかギャバンめ。
リズもしまったという顔をしている。
ほら見ろもう。
「リズは信者なんだよ。だから近くに集会があるかどうか確認したかったんだろ」
咄嗟に苦しい嘘を吐いてみる。
というか、そう言った時のリズの反応が見たいだけだったり。
「そうなのか? 冒険者が宗教ねぇ。最近は世の中も変わってきてるんだな」
「ちょっとアスカ! 何勝手な事を……」
「リズ様、ここは堪えてください」
絶妙なタイミングでマリュウが制止してくれた。
だが、リズの目が怖い怖い。
怒りの眼差しどころの話ではない。
憤怒の炎と化している。
てへ、とペコちゃんの真似をしてみるが、もちろんこっちの世界では誰にもわかってもらえない。
まぁグリコの村で不二家のネタをブッ込むという高度なひとり遊びだ、気にするな。
しかしリズには完全に逆効果だった――。
何か言いかけるリズをマリュウが体を張って止めて、そのまま元いた奥の席へ連れて行ってくれた。
ほっ、ありがとうマリュウ。
面倒かけてごめん。
「シャイア教ってのはオレぁよく知らねぇんだが、アレか? こんな辺鄙な村にでも布教しようと思うもんなのか?」
「どうだろう? オレは信者じゃないからわからん」
「それじゃ仲間で信者はあの金髪の姉ちゃんだけなのか?」
「ああ」
ごめんリズ。まだこっちでは信者扱いを継続しています。
「ま、別にいいけど、あんまり村にヘンなものは広めないで欲しいね」
「よく言っておくよ」
「そうしてくれや」
ああ、本当にごめんリズ。
いつの間にか村に布教しに来たみたいな感じになってしまってる。
そして今更気が付いたのだが、ジュリアとピンピンがかなり生温かい眼差しでオレを見詰めていた。
うん、そうだよ。オレは仲間を売ったんだ。悪いか!
当然奥に引っ込んだとは言え、マリュウにも聞こえているだろうからリズの耳にも入るだろう。
いや、リズの事を思えばこそマリュウは言わない可能性もあるか。
よし、ひとつそれで頼む。
「じゃ、オレも向こうに戻るよ。色々ありがとうギャバン」
「なぁに、いいって事よ。また何かあったらいつでもオレに聞いてくれ。力になるぜ、アスカ」
「うん、そうするよ。じゃあまた」
最後に乾杯してお互いに残ったメスカーラを飲み干して、オレは席を立った。
周りのみんなが道を開けてくれたので、後ろにいたジュリアとピンピンと合流してそのまま奥の席へみんなで戻る。
「アスカ、あなたねぇ……」
「リズ様……」
「いいえ、少しは言わせてマリュウ。言うに事欠いて信者扱いするなんて……屈辱だわ」
「私もさっきのアスカのアレはちょっとどうかと思う」
「え? ジュリアも?」
ジュリアだけは味方でいてくれると思ってたオレ、完全敗北。
「師匠って意外と男好きだったんですね」
ピンピンがまた独特の視点で抉って来る。
しかもよりによって男好きって……オレは男だッ!!
断じてそれはない!
そういうのは店主のバタールに言ってやれ。
「アスカってああいう男が好みだったの?」
おい、ジュリアまでピンピンに乗っかってヘンな事言いだすな!
「いっそお付き合いでもしたら? 意外とお似合いかもしれないわね」
リズまで合わせて毒を吐く。
「それはダメ」
「そうです! 絶対ダメです!」
おお、今度は味方に!
助かる。
大きく溜息をついて髪をわしゃわしゃするリズ。
マリュウもようやくといった感じで一息ついた様子。
「とにかく亜人とマムルの森について色々わかったんだから、いいだろ」
こういう時は現実的なメリットを持ち出して余計な感情を封じるに限る。
「それは……認めるわ」
「私も勉強になりました」
リズとマリュウがおとなしく認めてくれた。
「でも、思ってたよりも亜人の種類が多いみたいね」
「そうね。しかもまたラドルガとやり合うかもしれないって事でしょ?」
おーい、ピンピン?
オラ、わくわくしてきたぞ的な顔やめれ。
亜人と敵対したら報酬減っちゃうんだぞ、忘れてないか?
「みなさん、まだまだ飲み足りないようですね」
そこへいきなりビスコ再登場。
「本当はもう少し飲んで欲しいところですけど、まだ1軒目ですからね。ささ、次へ行きましょう」
はい?
疑問を口にする隙もなく、再びおおおっと歓声が上がると店内の村人たちがオレたちを巻き込んで大移動を始めた。
なんだなんだなんだ!
またもや人波に押されてオレたち5人が強制移動させられているようだ。
これアレだな、腸の蠕動運動みたいなものだな。
ものの3分もしないうちにオレたちは別な店の中にいた。
「さぁ2軒目ですよ。今夜の御代は一切要りませんから、最後まで好きなだけ飲んで食べて楽しんでくださいね」
ビスコはそれだけ言うと、村人の間にすっと隠れて消えてしまった。
「来たな冒険者ども! オレの店に来たからには素面じゃ帰さねぇぞ! ホラさっさと座んな!」
今度の店はカウンター式のバーのような雰囲気で、カウンターの背中側はスタンディング用のテーブルが何脚か置いてあるコンパクトな店内だったが、その狭い店内にさっきの店から流れてきた連中がみんな入ろうとするもんだからもうギュウギュウどころの話ではない。
さっき声をかけてきたのはカウンターの中にいる男で、ぱっと見普通に身長がありそうだったのは、カウンターの中に平均台のような足場が組んであるからだと後々わかった。
まぁ結局みんなちっさい人族って事だ。
そしていよいよオレたちを歓迎するという名目の強制はしご大作戦が幕を開けたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。
前回、短いながら分割して正解でした。
結局今回も長くなってしまったので……。
パピコ村での話は2話で終わる予定が、まだまだ続きそうで途方に暮れてます。
そして江崎グリコさん、ごめんなさい。
引き続き、応援よろしくお願いします




