(48)オレはフーと出会う
オレたち5人と御者シンはバシャで一路北を目指す。
だが、当面の目的地はパルピンとの中間地点に位置する町チャンプーという事になった。
急に出発したので、移動のための備品を補充する必要があるのだ。
途中で情報収集をしておこうという意図もある。
チャンプーまでは110km程。
普通に走らせると半日程度で着く距離らしいが、生憎ともう午後も結構な時間なので(リー道場での昼飯にだいぶ時間を費やした)どうしようかという話になった。
もちろん、休みなくぶっ通しでパカラを走らせたら理論的には今日中に着く計算になる。
ただ、照明の全くない街道を日が落ちてからも爆走するのは正気の沙汰ではない。
さすがに速度を落とさなければならないし、諸々パカラの負担も増える。
「でも、この大きな客車に5人しか乗ってないし、荷物も多くないから軽いものでしょ」
「そうそう、今日中にチャンプーに着いた方が絶対にいいわ」
ピンピンとジュリアは善は急げ派だ。
「シン! どうだろう、行けそうかな」
恐らく御者席のシンにも聞こえていると思って聞いてみる。
シンはセイランからキリール街道の地図を預かってきたらしいので、地理的な事はとりあえずシンに聞く事になっていた。
「はい。特に何もなければ問題なく着けると思います」
「リズとマリュウさんはどう思う?」
「任せるわ」
「リズ様がよろしいのであれば私も」
なら決まりだ。
「シン、よろしく!」
「わかりましたッ」
パシッと音がしてバシャの速度が上がった。
それにしても、このバシャというヤツは振動が結構ある。
ゆっくり走っていても下半身には結構な衝撃があるし、こうして速度を上げると全身に振動が伝わってくる。
ベガスの依頼で乗った馬車はもっとゆっくり走ってたせいもあるが、ここまで響いて来なかった気がするが……。
「シン! もう少しゆっくりお願い」
リズがシンに声をかけると、シンが速度を少し落とす。
振動がやや弱まる。
もしかしてリズもこの振動に辟易してきているのだろうか。
顔が何とも言えない表情になっているぞ。
「この調子で行ったら真夜中になっちゃうわよ」
「シン! 急いで!」
ジュリアとピンピンが加速させる。
ん? なんかイヤな予感が……。
しばらくするとまたリズがシンに声をかける。
速度が落ちる。
ジュリアとピンピンが顔を見合わせる。
「ちょっとリズ! これじゃ間に合わないわよ」
「でもこのバシャ、あまりにも揺れが激しくて……」
リズがとうとう弱音を吐いた。
いや、オレも全く同感なので心の中では諸手を上げて賛成してる。
「そんな事言ったってしょうがないでしょ」
ジュリアは何がなんでもスピードアップを主張したいらしい。
「でもオレもきついよ。もうちょっとどうにかならないのかな」
「師匠までそんな事を……」
「ピンピンは平気なの?」
「……平気ではないですけど、我慢出来ます」
「私だって我慢してるんだから。条件はみんな一緒でしょ」
ジュリアの主張は正しいが、実年齢アラフィフのオレには全然優しくない。
「じゃ、この揺れ我慢出来る人、手を挙げて!」
無理矢理多数決に持っていく。
ジュリアとピンピンが手を挙げる。
「我慢出来ない人!」
リズとマリュウ、そしてオレが手を挙げる。
「はい、3対2で我慢出来ない人の勝ち。速度上げるのはナシね」
「それじゃ、今日中にチャンプーに着かなくてもいいの?」
ジュリアが粘る粘る。
「その時は仕方ないよ。これ以上急いだらオレたちの体の方がやばいって」
ジュリアがようやく引き下がってくれたが、納得はしていないようだ。
金貨といい、これといい、ちょっと最近頑固が過ぎるぞ。
まさか更年期じゃないだろうなw
「それにしてもこのバシャは揺れ過ぎです。この型のバシャなら通常は振動緩和式のはずです」
「おかしいわね。まさか故障でもしてるんじゃないでしょうね」
マリュウの言う事が正しいのであれば、リズの疑念も尤もだ。
すると今度はピンピンが怒った。
「うちのバシャが悪いっていうの!? ちょっとシン!」
急に矛先を向けられた御者席のシンが前を見たままで答える。
「はい。何ですかピンピンさん」
「ちょっと止めて!」
「えっ、どうして……」
「いいからバシャを止めてッ!!」
「は、はいッ!」
急ブレーキにならないよう気をつけながらシンがバシャを停止させた。
ピンピンが客車から降りてシンの横に立つ。
「揺れがひどすぎるってみんなから苦情が出てるの。シン、何か知らない?」
「このバシャは振動緩和式ですよね?」
ピンピンの後ろにマリュウが来て質問を被せる。
「振動緩和……ええ、もちろん! あッ、もしかして」
急に思い出したように御者席を飛び降りると、客車の下に潜って何かゴソゴソやり出した。
シンが座っている御者席は客車とは切り離されているから、常時振動が直接来ているのだろう。
だから客車の振動云々に気付かないのは仕方ない。
ガシャッと結構大きめの音がしたかと思うと、シンが下から出て来た。
「すみません。振動緩和が無効になっていました」
「なんですって!」
リズが鋭く抗議の声を上げる。
「おそらくウルズスラからペピンへ移動する時に無効にしたままだったんだと思います」
「どうして無効にする必要なんかあるの?」
ピンピンが解せないという顔でシンに尋ねる。
「確か、客車が一定以上の重さになった場合は振動緩和を無効にしないと速度が出せない、と聞いた記憶があります」
「どういう事なの?」
まだリズは納得していない。
「振動緩和の仕組みをボクは詳しく知らないんですけど、たぶん荷重限度があるんだと思います」
「ウルズスラから移動する時はそんなに大荷物だったのですか」
マリュウがピンピンに聞く。
「そうね、結構大所帯だったから荷物だけでこの客車がほとんど塞がってたかも」
「はい、そんな感じでした」
シンが答える。
そう言えばシンはピンピン抜きのプンクル演武団と一緒にペピンへ来たんだったな。
「振動緩和なしでみんな平気だったの?」
ジュリアが素朴な疑問を口にする。
「みんな慣れてる様子でしたね。ボクは歩いて移動していたので実感ありませんが」
「毎年の事だもの。それに肉体的にも精神的にもいい鍛錬になるわ」
シンの回答にピンピンが付け加えると、みんなうんざりした顔になった。
「そんな鍛錬いらねー」
思わず口に出してしまったが、リズとマリュウが頷いたのを見逃さない。
ジュリアもつい頷きかけてから、ハッと我に返ってぶるぶる頭を振ってた。
「でも、これで大丈夫だと思います。みなさん、どうぞ乗ってください」
シンが声をかけてみんなが客席に戻る。
再びバシャが出発すると――マジか、全然違う!
リズとマリュウも顔を見合わせて安心した表情になっていた。
「それじゃ、もっと急いでシン!」
「はい」
ジュリアが意気揚々とシンに伝えて、シンがバシャの速度を上げる。
うん、振動もそんなにきつくないぞ。
全然問題ない。
これでやっとバシャの旅も快適になった。
めでたしめでたし。
*****
あっという間に真っ暗になってしまった。
周囲に灯りが全くないと、日が落ちたすぐ後から暗くなってくるのだった。
「ちょっとマズイかもしれません」
「どうしたの、シン」
ピンピンが相変わらず御者のすぐ後ろに位置取ってシンとの連絡役をやってくれている。
「道がほとんど見えません。このまま進むのは危険です」
「何か灯りになるものはないの?」
「客車の中やこの御者席の上にはあると思いますが、パカラの方は無理ですね」
確かに御者席の上に灯りを点けても道を照らす役割はほとんど果たさないだろう。
「シンがああ言ってるけど、どうしますか」
誰ともなく話す時は敬語になるピンピン。
「全く進めないわけじゃないなら進むべきよ。進んでいればチャンプーには近付いているんだから」
いついかなる時でも動じず前進派ジュリア。
「でも暗い中ゆっくり進んで遅くに町に着いても何も出来ないし、結局朝まで待つのよ」
「ああっ、ピンピン。寝返ったわね!」
「そういう問題じゃなくて。現実的に考えようって事」
「それを寝返ったって言うのよ」
言わねーよw
「ピンピンもだいぶ物事がわかるようになったわね。ここは大人しく夜営すべきよジュリア」
「同感です」
リズが若干上から目線だが、ピンピンは特に気にしていないようだ。
「アスカは?」
いや、この流れでオレに振っても結果は見えているはずだが。
「夜営に賛成」
「もうッ! じゃあわかりましたッ」
素直じゃないなぁ。
とりあえず渋々同意したものと見做してシンに適当な場所で止めてもらうように伝える。
街道の脇に休憩スペースのような場所があったそうなので、そこへバシャを入れて止めたシン。
シンが言うにはチャンプーまで後30km程の位置らしい。
80km近く北上した事になる。
よし、今夜はここで夜営だ。
みんな一旦外に出て大きく伸びをしたり、少し体を動かしたり。
「日の出と同時に出発よ。シン、よろしくね」
「はいッ」
すっかり気持ちを切り替えた様子のジュリア。
シンは見張りも兼ねて御者席で、オレたち女子5人はバシャの中に適当に寝る事になった。
パカラに水と食事を与えているシンに向かってお先に、と声をかけ客車へ戻る。
「覗いちゃダメよ~」
「そんな事しませんよ」
ジュリアがシンをからかっている声が聞こえた。
あんまりしつこくするなよ。
どっかの神社の長女じゃないんだから。
客車の中でふと思った。
まさかこれから夜の女子会が始まるんじゃないだろうな。
女子が5人もいると何やらそんな気がしてならない。
やめてくれよ、オレそういう経験ないんだから。
だが、よくよく考えたらお世辞にも女子力が高いとは言えない面子だった。
中身男に男嫌いに男勝りに貴族に使用人。
うん、問題ない大丈夫。
「おやすみ」
みんなに声を掛けるのとほぼ同時に眠りに落ちていった――。
*****
最初に異変に気が付いたのはマリュウだった。
マリュウがのそりと起き上がる気配でオレとピンピンが目覚める。
すぐにジュリアとリズも上体を起こし、何事かと周囲の気配を探る。
誰かがこちらへ走って来る音がした。
「みなさん、起きてくださいッ! 魔物ですッ!」
シンの声だ。
偵察に出ていて魔物と出くわしたといった所か。
即座に全員獲物を手にする。
オレは御者席へ通じる入り口から体を出して外の様子を伺う。
すぐ後ろにマリュウがやって来て、左前方を指差した。
「10時の方向です」
ほぼ同時にシンの姿が見えた。
まだ魔物の姿はないが、結構な数の気配が感じられた。
「あ、起きてましたか。何かの気配がしたのでちょっと様子を見に言ったら魔物の群れに出食わしてしまって……」
少し息を荒くしながら一生懸命説明するシン。
オレたちも全員客車の外に出た。
「魔物って何だったかわかる?」
リズがシンに尋ねる。
「暗くてよくわかりませんでしたが、唸り声がして……たぶんガームじゃないかなぁ」
「なぁんだ、ガームなら楽勝よ」
ジュリア、そういうのは大概良くないフラグが立つから言わない方がいいぞ。
「こっちに移動しているようです」
マリュウが言うなら間違いなくそうなのだろう。
もやは疑念を挟む余地もない。
すかさずリズが聞き返す。
「数は?」
「確実な事は言えませんが、おそらく30近いかと」
「えっ! そんなに?」
シンが一番驚いていた。
この闇の中で30体の魔物を相手にするなど、ちょっと考えたくない。
例え敵単体がどれだけ弱くても、暗闇というシチュエーションはそれだけで人間にとって大きなハンデなのだ。
「ボクがさっき大きな声を出したから、それで気付かれちゃったんでしょうか……」
シンが責任を感じてしょぼくれた声を出した。
「シン、気にするな。おかげで全員で迎え討てる」
「そうよシン。あなたは役目を果たしただけ」
久々にオレとジュリアのワンツーコンボが発動したな。
「は、はいッ」
気を取り直して剣の柄に手をかけ、構えるシン。
「リズ、あれ頼めるかな」
「……いいけど、人使い荒いわよアスカ」
「ごめん、恩に着る」
リズがすぐに魔法の準備に入ったのを気配で感じた。
光魔法でこの一帯を照らしてもらおうと思ったのだ。
確か5分間は持続するんだったよな。
「マリュウさん、タイミングは任せる」
「わかりました。リズ様、よろしいですか?」
「頼むわ」
すると、オレたちにも魔物の気配が近付いてくるのがわかった。
それなりの距離に近付いて来たというわけだ。
30体とは結構な規模の群れじゃないか。
無益な殺生はしたくないが、向こうが仕掛けてくるんじゃしょうがないよな。
「リズ様!」
「ハッ!」
リズの掛け声と共に、光の玉が上昇していき周囲を照らし出す。
オレたちの周囲だけが昼になったかのような明るさだ。
そしてその明るい円状の範囲の端から、ガームが2体3体と姿を現して来た。
まだまだ増える。
うん、マリュウの想定はほぼ間違いなかったようだ。
「アスカ、魔法は温存よ」
「そうですよ師匠」
早速、オレ監視コンビから有難い注文がついた。
どのみちオレもそのつもりだったから、別にいいんだが。
リズに光魔法を頼んだ手前、ちょっと自分では主張しにくかったので逆にありがたい位だ。
弓使いのロビィがいないのはこういう時にちょっと厳しいものがある。
マリュウの円月輪は夜だと見えにくく、他の仲間が入り乱れて戦っている時は投擲し辛い。
「マリュウさん、左側を頼めるかな」
「わかりました。リズ様は取りこぼし分をお願いします」
「フフフ、あの時の逆ね」
ある程度エリアを限定する事でマリュウも戦い易くなるはず、という事で左は2人に任せた。
「シン、中央行けるか?」
「はい。ボクのは直線的な攻撃なのでその方がありがたいです」
「じゃあ頼む。残りはオレと右、行くぞ」
「はい師匠」
「もう、どうしてアスカが仕切るのよッ」
「じゃ、こっから先はよろしくッ」
ジュリアを先頭にして右方向のガームに斬り込んでいく。
前のジュリアが風刃剣を放ち、敵の前進速度を緩める。
そこへオレとピンピンが鉄砲玉になって突っ込む。
ピンピンはプンクル専用武器のデビュー戦だけあって滅茶苦茶張り切っていた。
なので、オレはある程度ピンピンに任せるようにしつつ、サポートする感じで立ち回る。
ジュリアもそれを察してくれたようで、オレと反対側のカバーに入ってくれた。
ピンピンは手鋼を着けた状態で戦っている。
鋼棒はまだ腰の後ろに刺したままだ。
あれはさすがにある程度練習しないといきなりは使いこなせないだろう。
だが、手鋼を着けたピンピンの攻撃はすさまじいまでの威力を発揮していた。
ドSモードになっているようには見えないのに、ガームの肉を突き破り骨を砕いていく。
正に一撃必殺。
足技方面は武器で強化されていないので、突き主体の攻撃だが全く単調にならない。
プンクルの見事な体さばき、攻守一体の動きの為せる技なのだろう。
群れのリーダーと思しきガームをシンが倒した途端に、全体の統率が取れなくなったらしくガームが四散し出した。
「深追いしないで!」
ジュリアが叫ぶ。
みんなよくわかっているので素直に従う。
暗闇の中、深追いして孤立するような事になれば大失態だ。
まだ光魔法は煌々と辺りを照らしている。
ガームとの戦闘は時間にしてほんの2~3分といった所だったろうか。
光が照らす範囲内に20体ほどの骸が転がっている。
「このままにしていいのかな」
思ったままに口にしてしまったが、片付けするとなると相当面倒だな。
「大丈夫よアスカ。これくらいすぐにキレイになるから」
「そうなの?」
「そうよ。鳥とか虫とか、他の動物や魔物が食べちゃうから」
「そっか、ならいいや」
そんなすぐに食い尽すものとは思わなかったが、これで遠慮なく放置出来る。
「シッ! まだ何かいます!」
マリュウが注意喚起をする。
オレには全然何の気配も感じられないけど……。
みんなも同様らしく、お互いに顔を見合って首を振ったりしている。
「来ます!」
おいおいマジか。
今度は何だよ。
が、すぐには何もやって来ない。
しばらく待っていると、光魔法が切れかかっているのか徐々に明るさが落ちてきた。
「あっ」
マリュウ以外で最初に気付いたのは一番前にいたシンだった。
直後にオレにもわかった。
確かに何かが来る。
けど、邪悪な気配というか敵意が感じられないのは何故だ?
そしてだんだん暗闇の支配が濃くなっていく。
リズの方を見ると、もう一発必要か?というようなジェスチャーをしてきたので首を振る。
相手の正体がわからないし、戦闘になってからでも遅くはない……かな。
「フーです」
マリュウが小声で相手の種別を口にするが、オレの知らない固有名詞だった。
「フーとは珍しいわね」
「はい。私も実際に見るのは初めてです」
リズとマリュウの会話。
ややのんびりしたような口調なので危険性は低いのかも。
「フーって何?」
「見たらわかるわよ」
間髪入れずにジュリアが返してきた。
なんかムカつくわ。
そしてその姿を、ほとんど効果を失った光魔法の薄暗闇の中でついに見た。
――虎だ! 虎の群れだ!
虎っていうか、まぁ虎に非常に近い動物、ん、魔物?
しかしデカい。
アムールトラが最大の虎だったっけ? あれよりかなりデカい。
そのフーの群れがオレたちの前を斜めに横切る形で通り過ぎて行った。
オレたちの事は気付いていたはずなのだが、ガン無視。
「行っちゃったよ?」
ピンピンが拍子抜けをした声を出す。
「そうみたいね」
「一体なんだったの?」
「わかりません。群れの移動中だったとか」
他のみんなも毒気を抜かれたというか、不思議な感じだった。
何か一種、幻想的な光景に出会えたような、そんな体験。
ああ、ロビィならもう少し何かわかったかもしれないなぁ。
「で、結局フーってどんな生き物なの?」
誰も何も言ってくれないからもう一回聞く。
「動物という人もいれば魔物という人もいます。あまり人間の前に現れないので謎が多いのです。ただ、フーに非常に良く似た魔物でマフーというのがいますから、そういう意味ではフーは動物なのかもしれません」
「いや、どっちも魔物かもしれないじゃん」
「今見たでしょ。フーは人間をむやみに襲ったりしないのよ。そんな魔物いる?」
ジュリアがフーの肩を持つように何故かオレを責める。
「急いでたのかも」
「師匠、往生際が悪いです」
うん、まぁそうだね。ごめんピンピン。
再び完全な暗闇になったのだが、さすがに少しは目が慣れたのか全く見えないわけではない。
「マリュウ、まだ何か気配を感じる?」
「いいえ、リズ様。もう何も」
「良かった。それじゃ、もうひと眠り出来るわね」
ジュリアはまだ寝る気マンマンらしい。
時間大丈夫かな。
「そうですね。日の出までまだ時間がありますから、どうぞみなさんはお休みになってください」
「シンはどうするの?」
「ボクは大丈夫です。町に着いてみなさんが動き回っている間に休みますから」
「そっか。それじゃ遠慮なく」
こうしてオレたちは再び客車の中で眠りについた。
*****
日の出と共に再出発したオレたちだが、移動を始めて5分と経たないうちにバシャを止める羽目になった。
「どうしたの、シン」
バシャが止まる気配を察したピンピンが御者席のシンに尋ねる。
「何かいます」
「何かってなに?」
「わかりません、もう少し近付いてみないと」
ピンピンが客車を出て御者席の方に移動。
バシャは完全に停止している。
「どこ?」
「あそこです、左の方にある林の手前のところ……」
「あッ!」
ピンピンも何かを見つけたらしい。
「師匠! 人が倒れています」
「人……そうだ人だッ」
ピンピンに続いてシンも人認定。
一体何事だ、という事でみんなが客車の外へ出て、ピンピンの指差す方向を見る。
「確かに何かいるな」
「本当に人なの?」
「何よジュリア、私の目が節穴だって事?」
「そうは言わないけど……」
「死んではいないようです」
マリュウが言った。
おそらく呼吸音を確認したのだろう。
「まさか昨夜のガームかフーに襲われた訳じゃないでしょうね」
リズ、オレも今同じ事を思った。
「とにかく行ってみよう。リズも一緒に来てくれ、治癒が必要かもしれないし」
「わかったわ」
「リズ様、私も参ります」
「じゃ私も」
「師匠が行くなら私も行きます」
なんだよ、シン以外全員じゃねぇか!
ごめんな、シン。
置いてきぼりにしちゃって。
「みなさん、どうか気をつけて」
5人でぞろぞろと歩いて、倒れた人物の所へ到着。
確かに人だ。
うつ伏せに倒れている。
それも女の子。
やや色素の抜けた青っぽい髪。
フリフリの可愛らしい白い服を着ている。
顔や体に目立った外傷はないように見える。
そんなに衣服が汚れているわけでもない。
周囲に血痕もない。
何やら夜にふらっと散歩に出て来て、パタンと倒れ込んだだけ、みたいな感じだ。
「ねぇ! 大丈夫? 起きて!」
ピンピンがしゃがみ込んで声をかけると、ぴくっと瞼が動いた。
「お、生きてる」
「だからさっきマリュウがそう言ったじゃない」
リズに叱られてしまった。
いいじゃないか別に。
続いて指先がぴくぴくっと痙攣するように動いたかと思うと、声を発して本格的に動きだした。
「う、うーん……」
おおッとか何とか声を発してざわつくオレたち。
女の子は手を着いて上体を起こすと、女座りの姿勢になった。
「大丈夫? 怪我とかしてない? 痛い所とかは?」
今度はジュリアが矢継ぎ早に質問をぶつける。
が、当の本人はどこ吹く風でマイペースに周囲をきょろきょろ見渡すと、何故かオレの方を見て口を開いた。
「おはようございます。ここはどこですか?」
はい!?
―――――まさかお前も記憶喪失!?
読んでいただき、ありがとうございます。
今回から新しいパートに入っています。
謎の少女登場です。
彼女については次回以降明らかになります...たぶん。
引き続き、応援よろしくお願いします。




