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(43)さよならロビィ

 最初に感じたのは心地よい振動。

 上下に一定のリズムで揺れているような感じ。

 

 ――続いて音。

 

 木の葉が風に揺れる音。

 鳥のさえずり。

 人の足音……。

 

 話し声らしきものも耳に入ってはくるが、意味を理解する所まで頭が働かない。


 肩から背中にかけて強い日差しを浴びているような温かさ。

 

 少し意識が遠のいて、また戻って来る。

 

 今度はさっきよりもいろいろわかる。

 山を下りている最中なのだ。

 

 背中の温かさはおそらく日差しを直接受けているからだ。

 まだ日が高い時間らしい。

 

 オレは誰かに背負われているのだ、と理解した。

 

 たぶんシンだろう。

 思ったよりも広い背中。

 痩せている印象が強かったが、やはり筋肉質だった。

 しなやかでバネのような弾力が背中を通して伝わって来る。

 

 まだ体に力は入らない。

 瞼を開けるのもしんどい。

 

 いやぁ失敗したなぁ。

 まさかここまでガタが来るとは予想外だった。

 ロビィに散々釘刺されてたのになぁ。

 

 などとぼーっと考えているうちに、だんだん話し声の内容が理解出来るようになってきた。

 どうやらジュリアとピンピンが左右からステレオで話しているようだ。


「次はペピンのシャイア教施設に乗り込むのよね」

「それは師匠が起きてから相談する事よ」

「そうだけど、アスカも同じよきっと」

「ジュリアは自分が戦いたいだけでしょ」

「ピンピンだってウズウズしてるくせに」

「当たり前でしょ! ヤルタの止めを邪魔されたんだから」

「邪魔って何よ、別にいいじゃない!」

「よくない!」

「誰が倒したっていいでしょ。ピンピンはそういう所が融通が効かないのよね」

「モノは言い様ね」

「どういう事?」

「逆の立場なら絶対に文句言ってたくせに」

「言わないわよ。私、こう見えて結構寛容なの」

「寛容の意味知ってるの?」

「そこまで馬鹿じゃないわ」

「どうだか」

「ちょっとピンピン!」

「なによ!」


 相変わらず仲が良いのか悪いのかよくわからん2人だ。


「すみません2人共、もう少し静かにお願いします。アスカさんが起きちゃいますから」


 シンが落ち着いた静かなトーンで2人を諭す。

 

 背中越しにシンの声がオレの体に直接響いて来る。 

 ああ、昔親父におんぶされてた時の感じだ。懐かしい……。

 

「あ、ごめんなさい」

「ごめんね、シン」


 左右から同時に謝罪の言葉が重なる。


「いえ、ボクの方こそ差し出がましい事を言ってすみません」


 普段は謙虚というか気弱にも見えるシンだが、一旦スイッチが入れば悪即斬だ(笑)。

 怖い怖い。


「アスカ、まだ起きないわね」

「魔鉱石が真っ白になるほど魔法を使ったんだから、仕方ないわ」

「でも前にも魔鉱石が白くなった事があるけど、こんな風にはならなかったわよ」

「そうなの?」

「ピンピンが弟子になるちょっと前よ。グリードと戦った時」

「そっか……じゃあ、どうして」

「ねぇロビィ。アスカ、大丈夫なんでしょうね?」


 唐突にロビィ話を振るジュリア。


「はい。もうすぐ目覚めると思います」


 ロビィはシンの後ろを歩いているらしい。

 ごめん、実はもう目覚めてるんだ。

 目は閉じてるけど。


「だって、ピンピン」

「ならいいけど……」


 その後、ジュリアとピンピンがシンの横を離れてロビィの方へ移動していったので静かになった。

 3人の話す声が少し遠くから聞こえて来る。

 

「ねぇロビィ。影縛りの最中にどうやって弓を使えたの?」

「そうそう、それ私も聞きたかったんです。教えてくださいロビーナさん」

「気合いです」

「え!?」

「冗談はやめてよ、ロビィ」

「冗談ではありません。気合いで動けるようになりました」

「ウソよ!」

「幾らロビーナさんの話でも、それは信じられません」

「信じる信じないは自由です」

「ロビィ!」

「ロビーナさん!」

「……抑制系の魔法へ対処する緊急手段というのがあります」

「えっ、そんなものが……」

「なに? どうやるの? 教えてロビィ!」

「残念ですが、それを教える事は出来ません」

「ええっ! そんなぁ……」

「森の民って本当にすごいんですね」


 そっか、あの目が赤くなってたのは森の民の秘術を使ったせいなのか。

 あ、秘術っていうのはオレの勝手な思い込みだけど。

 

 でも相当負担がかかるんだろうな。

 あのロビィが立っていられなくなる程の……。


 その後、ジュリアが粘るもロビィはどこ吹く風という問答が続いた。


「アスカさん、起きてるんですよね」


 えっ!?

 唐突にシンが小声で話しかけて来た。

 なんでわかったの?


「……うん」


 一応声は出た。

 弱弱しく情けない声だったが、耳元でしゃべっているのでシンには充分聞こえているようだ。


「まだ体、しんどいですか」

「うん」

「ボクは大丈夫ですから、気にせず休んでいてください」

「……ありがとう」


 女の子としてはここで重いでしょとかごめんねとか言うべきなんだろうが、オレは男だ。

 いちいちそんな事を言われても困るというのがわかっているので言わない。

 いや、本音を言うとそんな事死んでも言いたくない。

 

 女子らしいセリフとかうへぇ~ってなるわ。

 無理無理ごめんなさい。

 

「どういたしまして。むしろ光栄です」


 シンめ、恥ずかしい事を言うヤツだ。

 好感度アップ。


 ちなみにシンのおんぶはお尻を支えるお母さんおんぶではなく、膝裏の所を肘で抱え込む体育会系おんぶだ。

 下りなので自然に体が前傾するため格別の安定感があった。


「もう少し休ませてもらうよ」

「はい」


 すぐにまた眠りに落ちた。



*****



 マリュウがオレとシンとの会話を聞いていたようで、リズとマリュウには一旦気が付いたのがバレていた。

 やがてそれがジュリアとピンピンにも知れるやシンが怒涛の口撃に晒される羽目になった。

 

 どうしてすぐに自分たちに知らせなかったのか、という事らしい。

 (この辺の話は後でシンから愚痴混じりに聞かされた)

 

 あまりに煩いのでせっかくの眠りから覚めてしまった。


「ちょっとうるさい!」

「アスカッ!」

「師匠ッ!」


 シンを挟んで右からジュリア、左からピンピンが抱き付いてくる。

 

 お前たち、気付いているか?

 オレを抱きしめているつもりでも、半分はシンを抱きしめているって事に。

 とんだ役得だな、シン。

 

 ただ、このままだと結果的にシンは1人を背負い2人を引きずって歩いてるのと一緒だ。

 文句ひとつ言わずに黙々と進んでいるのは偉いと言うべきか。

 いや、実は内心ほくそ笑んでいるのかもしれないし、微妙だな。


 ならむしろジュリアとピンピンの名誉のためにオレが指摘してやるべきだろう。

 

「シンが迷惑してるぞ」


 言われて初めて自分たちの体勢がどんなになっているか気が付いた様子の2人。

 

 慌てて手を離す所からのごめん、いえいえのやりとりを背中から眺める。

 とは言え、オレの顔が向いているのは右側なのでジュリアしか見えないのだが……。

 

「良かった。心配したのよ、アスカ」

「ごめん、心配かけた」

「師匠、気分はどうですか」


 ピンピンがわざわざ左側から回り込んで顔が見える右側に来た。


「うん、まぁ快適とまでいかないけど悪くはないよ。シンのおかげで」


 オレの言葉を聞いたピンピンの眼差しに一瞬殺気が宿った気がするが、意味がわからない。


「さすがにまだ歩くのは無理よね」


 間に割り込まれた形のジュリアがピンピンを押し退けながら言う。


「そうだね。シンには悪いけど」

「いえ、ボクは全然平気です。何ならペピンまで背負っていけますよ」


 今度はジュリアが明らかな殺気を放つ。

 シン、余計な事は言わんでよろしい。

 もしかして、Mの気でもあるのか?


「ちょっとシン! 変な所触らないでよ!」

「さ、触ってませんよ。何ですか急に……」

「私でさえまだ師匠をおぶった事ないのに……」

「す、すみません」


 だからシンをこれ以上苛めるなって。


「アスカ、ちょっと体を起してみたら?」

「え、あ、うん」


 ジュリアに言われるまま、上体を起こしてみる。

 シンの肩に捉まる形で、まぁまぁ安定しているようだ。

 背中に覆いかぶさっているよりもこっちの方が楽かもしれない。

 

 オレの頭が自由に左右を見られるようになったのを察してピンピンが左側へ戻る。

 

「大丈夫ですか? アスカさん」

「うん。こっちの方がラクかも」

「え、そうなんですか? そうですか……」


 シンが残念そうに言ったのを見逃す2人ではなかった。


「ちょっとシン、今のどういう事?」

「アスカが背中に寄りかかってないと何か問題でもあるわけ?」

「ちち、違いますよ! アスカさんの負担にならないか心配だっただけで……」

「ウソ!」


 左からピンピン。

 ダウト! みたいに言うな。


「絶対そんな感じの口調じゃなかったわ。所詮男なんてコレだからホントにもう……」


 ジュリア、一体過去に何があった?

 何か男関係でトラウマでもあるのか?


「本当にそんなんじゃないんです。信じてください」

「無理ね」

「そんなぁ、ピンピンさん!」

「師匠、そろそろ私が交替しましょうか?」

「ちょっとピンピン! なに抜け駆けしようとしてるのよ。次は私の番よ!」

「いいえ、弟子の私の役目よ!」

「私は同じギルドの仲間として……」


 なんだかまた雲行きが怪しくなってきた……。

 シンはほっとしているだろうが。

 

「ああハイハイ。それじゃロビーナさんをお願い」


 こらこらロビィまで巻き込むんじゃない。


「なんでロビィなのよ」

「ロビーナさんもさっきの戦いで疲れているのは一緒でしょ」

「でも歩けるじゃない」

「私は必要ないのでどうかお構いなく」


 ロビィにピシャリと言われて何となくばつが悪くなったのか、暫く2人は静かになった。



 そうこうしている内に三叉路までやって来た。


 みんな特に何も言わずにミト村の方へ進んでいく。

 え!?

 

 下山してるんじゃなかったの?

 

 オレが眠っている間に相談してたんだろうか。

 なんでまた……。

 オレ的には出来れば二度と見たくない光景なんだけどなぁ。

 

 みんなも実は気が進まないのか、こっちの道へ入ってからは誰ひとり口を開く者はなかった。

 

 シンの体が微かに震えているように感じた。


「着いたわよ」


 村の入り口の手前でリズが立ち止まる。

 当然後続もみなそこで歩みを止める。

 

「アスカさん、少しの間だけ降りてもらってもいいですか」

「え、あぁ、うん」


 シンがゆっくりとしゃがんで抱えていた足を離すと、地面に足が着いた。

 久しぶりの地面の感触だ。


 シンが立ちあがる前にジュリアとピンピンが支えに来てくれる。


「ありがとう」


 肩を貸してもらいながら礼を言ったが、2人とも無言のまま僅かにオレの方を見て微笑んだだけ。


 重苦しい空気の中、シンがリズとマリュウの間を通って村の入り口へ歩いていく。

 

 おいおい、いいのか?

 シンには詳しい部分まで教えてなかったはずだけど……。

 

 村の様子が見える辺りでシンの歩みが止まった。

 背中にいた時には小刻みに震えているように感じられたシンの体が、今では目に見えて大きく震えている。

 

 膝までガクガクとなりそうな所でパン! とシンが自分の足を叩く。

 そのまま両手を上に持って行って頬も叩く。

 

 思った以上に大きな音が響いた。

 

「ありがとうございましたッ!」


 村に向かって大きく叫ぶとシンが思いっきり頭を下げて礼をする。


 そのままたっぷり1分は待っただろうか。

 時々嗚咽が聞こえてきたので、シンは礼をしたまま泣いていたのだと思う。


 頭を上げたシンは今度は両手を合わせて祈る。

 リズたちも黙祷を捧げる仕草をしたので、オレも手を合わせる。

 

「さ、やろう!」


 ジュリアがみんなに声をかける。

 リズがこちらを見て頷くとマリュウと一緒にシンを追い越して村へ入って行く。

 シンも慌ててその後を追う。


「師匠、歩けますか?」

「ああ、うん。やってみる」


 ジュリアとピンピンが手を離したので、ひとりで歩いてみる。

 うん、問題ない。

 めまいもしないし、しっかり歩けてる。


「もう大丈夫。ありがとう2人共」

「それじゃ、アスカにも働いてもらうからね」

「師匠、無理せず手伝ってください」


 何の事、と言いかけて思い出した。

 ミト村を出る時に言ってたじゃないか。

 帰りに埋葬してやろうって。

 

 話はわかった。

 あとはやるだけだ。



 遺体は数こそ多かったものの、ほとんど部分遺体だったので運搬は重労働にはならなかった。

 但し精神的には重労働どころでは済まないダメージだったが。

 

 男のシンがいてくれたのもとても助かった。

 穴を掘るのと土を被せるのをほとんど任せてしまったから。

 

 3時間ほどですべて終わった。

 まだ下山する時間も充分残っている。

 

 埋葬した場所に石を幾つも重ねて墓標にし、その前でもう一度みんなで祈る。

 

 

「そろそろ帰ろっか」

「そうね。今日中にペピンまで戻りたいわ」


 ジュリアにリズが相槌を打つ。

 マリュウやピンピンも頷いて同意している。


 みんなでゆっくりと村の入り口を出たところで、最後にもう一度という感じで村の方へ向き直った。

 

 ロビィがちょうど入り口の所に立っていたので、みんなでロビィを見る形になった。

 神妙な表情のロビィがじっとオレたちの方を見て動かない。

 

「ロビィ?」

「どうしたのロビィ」


 オレとジュリアが声をかけると、ロビィは寂しく笑って言った。


「私はここまでです」


 いつもの美しい声ではっきりと聞こえた。

 そして理解した。

 

 その時が来たのだと――。

 

「何を言ってるんですか、ロビーナさん」


 事情を知らないピンピンがロビィに声を掛ける。

 

 リズとマリュウが黙っているのは、マリュウの地獄耳発動の結果だろうか。

 聞かれたのはオレとの話なのか、ジュリアとの話なのか。

 

 だが今はそんな事はどうでもいい。

 

「ピンピン、いいんだ」

「そうよ。仕方がないの」


 オレとジュリアがピンピンの両肩にそれぞれ手を置く。

 まだ事情が呑み込めないピンピンは相変わらず困惑したままだが、それ以上は何も口にしなかった。


「ロビーナ。短い間だったけど一緒に過ごせて良かったわ。また会いましょう」


 リズが最初に別れの挨拶を口にして背中を向け、歩き出す。


「ロビーナさん、お世話になりました。本当にありがとうございます」


 ロビィが軽く頷くと、マリュウは一礼してリズの後を追う。


「あ、あの、よくわかりませんが助けていただいて感謝しています。ありがとうございました」


 シンもよくわからないなりに何かを察したのか、礼をしてリズとマリュウに続く。

 が、気になって何度もこちらを振り返る所がシンらしいw


 次は――ピンピンがオレとジュリアを交互に見ていたが、やがて観念したように深く溜息を吐く。


「わかりました。後でちゃんと聞かせてくださいね師匠」

「うん、ごめん」


 本当に、こんな急な形になっちゃってごめんピンピン。


「ロビーナさん。師匠の次に尊敬しています。だから、絶対にまた会いましょう。これが最後だなんてイヤですからね!」


 おいおい、脅してどうする!

 だが実にピンピンらしい。


「大丈夫です。また会えます」


 ロビィが笑って答えると、ようやく安心したようにピンピンも笑顔を見せる。


「絶対ですからね! それじゃ、ロビーナさん。また!」


 大きく右手を上げて振ると、くるりと廻れ右をしてダッシュでリズ達を追いかけて行ってしまった。


「ピンピン……」


 いつも言い合いばかりのジュリアもこの時はさすがに優しい顔をして後ろ姿を見送っていた。


 視線を戻そうとしたジュリアと目が合う。

 そしてオレとジュリア、どちらからともなくロビィの方へ歩き出した。

 

 そのままロビィと3人で肩を抱き合う。


 言葉はない。

 昨夜、と言うか今朝、それぞれ別れの挨拶は済ませているのだ。

 

 今更何か言う事もない、というか何か言おうとするとヘンな事言っちゃいそうだし。


 突然ジュリアがギュッと力を入れてきたので、オレもロビィも体勢を崩してジュリアに引き寄せられる。


「絶対また3人で冒険するのよ!」

「ジュリア、く、苦しい……」

「私も……そのつもり……です」


 ロビィの答えを聞いてようやくジュリアが力を緩めてくれた。


「ジュリアのバカぢから……」

「バカは余計よ!」


 オレとジュリアのやりとりを眩しそうに見ていたロビィが静かに言った。


「2人共、無茶は禁物です。お互いに注意してください」


 するとジュリアが即答。


「わかってるわ。ちゃんとアスカを見張ってるから」

「いやいや、ジュリアのは束縛って言うんだよ」

「どっちでもいいじゃない」

「よくない!」


 なんで最後なのにロビィの前でこんな事やってるんだと頭の片隅で思いつつも、それを微笑みながら見守ってくれるのがいつものロビィなんだよなと、今のロビィの表情を見ながら止められないオレ。


 こんな時間も今この時が最後なのかもしれない。


 ジュリアもロビィも同じように感じているのだろうか。

 

 思えばロビィと出会ってからまだ1カ月程度しか経っていないのだ。

 しかも最初の3日間は丸々眠っていたオレ。

 

 なのにもう何年も一緒にいたような関係に思える。

 不思議だ――。

 

 オレの命の恩人。

 オレが初めて異世界から来た事を告げた人。

 初めてのギルドメンバー。

 

 他にも数え切れないくらい、世話になったし助けてもらった。

 色々な事を教えてもらった。

 

 本当に感謝しかない。

 

 そのロビィと今ここで別れるのだ。

 

 

 ――あれ、涙?

 泣いてるのか、オレ。

 

 体だけじゃなく心まで女々しくなったのかな。

 

 よく見るとジュリアもロビィも泣いてた。

 なんだ、みんな一緒じゃん。


「もう行かないと……」


 ジュリアが涙を拭きながら言った。


「じゃ、最後に」


 オレが言って、右手を斜め下にまっすぐ伸ばす。


「なにそれ?」

「いいから、ジュリアも」


 ジュリアがオレの手の上に右手を重ねる。


「ロビィ」


 オレの声に応じて、ロビィが右手を上に重ねる。

 

 またその上にオレの左手、ジュリアの左手、ロビィの左手。


「これなんなの、アスカ」

「うーん、なんかこう仲間同士が気持ちをひとつにするのを、こういう手を重ねる事で表現してるっていうか」

「アスカ、長くてよくわかんない」

「私はなんとなくわかりました。面白いですね」

「え、そう? まぁロビィがそう言うなら」


 ジュリアはまだ半信半疑っぽい表情だが、ロビィがわかってくれたならいいや。

 

 本来はここで掛け声をかけてみんなで叫ぶんだろうけど、ちょっといいのが思い付かないなぁ。


「森のジュリアス!」

「え!?」


 突然ジュリアが叫んだのでびっくりした。

 そうそう、そんなのだよ、うん。


「ごめん、ジュリア。もう一回頼む」

「いいの? なんかそんな気分になったから言ってみたんだけど」

「いいのいいの。それが欲しかった」

「なぁんだ。じゃあそう言ってよね」

「で、ジュリアが叫んだら、その後みんなでゴーッ!って叫ぶんだ」

「ゴー?」

「それはどういう意味なのですか?」

「えーと(やっべ、ファイトの方が良かったかな。オーだと男みたいだからゴーにしてみたんだけど)、行くぞ、みたいな掛け声だよ」

「それなら行くぞって言えばいいのに」

「ゴーの方が短いし、声が出るだろ」

「ふぅん。そうなんだ」

「面白そうです」

「じゃ、やろう。ジュリア、よろしく」


 みんなでお互いに顔を見合わせてちょっとだけ緊張した表情になる。


「森のジュリアス!」

「ゴー!!」


 その瞬間、一番下にある右手をポンと上に跳ね上げる。

 3人の両手が離れてそれぞれの元に戻った。


 もう3人の顔に涙はない。

 いつかまた会える事を信じる笑顔だけがそこにあった。


「じゃあね、ロビィ」

「ロビィ、元気で」


 オレたちの言葉に頷いて見送るロビィ。

 

 ジュリアと2人、ロビィに背を向けリズ達に追い付くべく、走り出した。

 背中にロビィの視線を感じながら。

 

 だが急にもう一度ロビィの顔が見たくなり、駆けたまま振り返ると村の入り口にロビィの姿はなかった――。

読んでいただき、ありがとうございます。

とうとうロビィとお別れです。

森のジュリアスが2人っきりになってしまいました。

当然、この後人員の補充が必要ですよね(笑)。

では引き続き応援よろしくお願いします

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