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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第2章~キャリオ(1)ペピン周辺~

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(44)オレは容疑者になる

(44)オレは容疑者になる


 ロビィと別れ6人になったオレたちはペピンへ戻る前にラシークへ立ち寄った。

 

 ラシークはペピンからカカ山の麓にある人口5千人ほどの町で、キャリオ山脈の裾野をなぞる様に南北に通っているキリール街道沿いにあり、ペピンとの距離も近いため中継点としての役割で交易が盛んらしい。


 キリール街道は北はザンボッタス領のジンムから南はユガ領のナーナンまで通じており、グルド共和国連邦の中央やや東を南北に繋ぐ重要な役割を果たしている。 

 また、リビコン川に並走するように通っていて風光明媚な事でも知られているそうだ。



 ラシークに入ってすぐ、冒険者組合内でワンウーチャンの3人と無事合流できた。

 そこでオレたちをずっと待ってくれていたらしい。

 

 宿で休んでいる村の生き残り3人の様子を時々交替で見に行ったり、結構ちゃんとやってくれていたようだ。

 

 オレたちの無事をまずは喜んでくれたものの、諸々の事情をかいつまんで説明した時にはさすがに落ち込んでいた。

 主に依頼がご破算になってしまった件について。

 

 一応ワンさんからペピンの冒険者組合にかけ合ってもらう事になった。

 魔物討伐報酬はさておき、基本報酬と救助報酬くらいは最低限保証してもらわないとね。

 

 過去にそういったケースでの保証例があったらしいので可能性はあると言うのがワンさんの見解。

 

 もしそうなら是非ともお願いしたい。

 オレたちだってタダ働きは出来れば回避したいのだ。

 

 ひととおりの挨拶と情報交換が終わったところでワンさんが改まって話があると言った。


「あの、みなさん。もう少しだけお時間の方をよろしいでしょうか」

「なにかしら? 出来れば早くペピンへ戻りたいの」


 相変わらずワンさんたちに厳しいリズ。

 もうそろそろいいんじゃないのかなぁ。


「昨日連れ帰った3人がひと言お礼を申したいという事で待っているのです。どうか、今少しの御猶予を」

「ああ、あの3人ね。その後どう? 少しは元気になった?」


 ジュリアが尋ねるとワンさんはほっとした表情になって答える。


「はい。一晩ゆっくり休んだらだいぶ持ち直したようです。今は3人とも普通に話せます」


 そこへ獲物を見つけた狩人のようにリズが口を挟む。


「それなら丁度いいわ。幾つか聞きたい事もあるから」

「リズ様、村の事はもう少し時間を置いた方がよろしいかと」

「でもそのためにまた出直して来るのは時間の無駄よ」

「それはそうですが……」

「リズ、マリュウの言う通りよ。今日の所は遠慮しておくべきよ」


 ジュリアが物凄く常識人に見える不思議。

 一方のリズはまだ諦めた様子はない。

 

 あの3人――ミト村の生き残りか。

 

 本人たちの意向にもよるが、場合によってはペピンへ連れて行くのもアリだな。

 いや、むしろそうじゃないとマズイ事態になっている可能性もある。

 利用するみたいで気が引けるが……。

 

「まぁ3人の顔見てからペピンへ行ってもいいでしょ」


 オレから提案するとジュリアもリズもまぁそれでもいいか、という雰囲気になり一旦収まった。

 

 シンには生き残りがいた件までは話してなかったから、事態が呑み込めずに混乱している様子。

 ピンピンに合図をして、シンへ説明してもらうよう頼む。


 その後、ワンさんの案内で3人が宿泊している宿まで案内してもらった。



*****



 決して贅沢ではないがボロ過ぎない程度にほどほど――という印象の宿だった。

 

 オレたちは宿の外でチャンさんが3人を呼んで来るのを待っていた。

 

 そうして姿を見せた3人は、当然ながら体の汚れもなく衣類も新しくなっていて普通に歩いていて昨日とは別人だった。

 

 昨日は身なりが酷過ぎて気がつかなかったのだが、3人ともほんの少しだが耳の上が尖っている。

 

 たまたまこの3人が森の民の血が入っているのか、ミト村の住人全員がそうだったのかまではわからない。

 何せ、頭が残っている遺体が少なかったし、あっても綺麗な状態ではなかったのだ。

 

 いずれにしろロビィの見立ては正しかった、という事になる。

 

「昨日は私たちの命を救っていただいて、本当にありがとうございました」


 一番年長の女性が代表してオレたちに頭を下げる。

 年の頃はオレやジュリアとそう変わらないように見える。

 

「ほら、あなたたちもちゃんとお礼を言いなさい」


 そう言って左右に並んでいる2人の子供の頭をポンとする。


「ありがとうございましたッ」

「ありがろとうごらいまちた……あっ」

「ダメだろミリア、ちゃんと言わないと」

「ごめんキッパー……」


 舌足らずな可愛い女の子がミリアで、男の子の方がキッパーか。

 キッパーの方がひとつかふたつ年上なのかもしれないな。


「大丈夫よ、ちゃんと気持ちは伝わってるから」


 ジュリアがミリアの前にしゃがみ、肩に手を置いて話しかけると、半べそだったミリアが持ち直した。


「ありがとう、お姉ちゃん」

「ミリアちゃんでしょ。お姉ちゃんはジュリアよ。名前が似てるわね」


 そう言われたミリアはぱぁ~っと顔を輝かせると、大きくうんと答えてジュリアに抱き付いた。

 まだ甘えたい年頃なのに、襲われた日以来どんなに怖くて寂しかっただろう。


 よしよしとミリアの頭の後ろを撫でるジュリア。

 実にちゃんとしたお姉さんに見える!


 そんなジュリアを複雑な表情で見つめるリズ。

 対照的に微笑ましく見つめるマリュウ。

 ピンピンは少し意外そうな表情をしつつも、妙に納得した感じ。

 シンは羨ましそうな顔……おい、まさかロリコンの気もあるのか!? ダメだぞコラ。


「ミリア、あんまり迷惑かけちゃダメよ」


 女性が声をかけると、すぐにジュリアから離れて女性の横に戻ると太腿の辺りの布を掴む。


 ジュリアが立ち上がると改めて女性が自己紹介をした。


「名乗るのが遅くなってしまって申し訳ありません。私はスレイと申します」

「スレイ姉ちゃんのおじいちゃんは村の(おさ)なんだよ」

「そうだよ、すっごく偉いんだよ」


 ミリアとキッパーによって素性が明らかになったスレイ。

 なんと、まさか村の長の孫娘だったとは。


「そうなんだ、すごいね~」


 ジュリアが子供たちに賛同しながらも、スレイには同情の眼差しを向け頷いてみせる。

 これにはちょっとびっくりした。

 こんな器用な芸当が出来る子だったなんて!

 見直したぞ、ジュリア。


「さぁ、2人共向こうでチャンおじさんと遊んでいなさい。私はもう少しお姉さん達とお話があるから」

「はーい」

「わかったー」


 ちびっこ2人が楽しそうに宿の方へ駆けて行く。

 

 それにしてもチャンおじさんwww

 子供に懐かれる才能があったとは知らなかった。

 精神年齢が近い、とかいうヤツか? ならわかる。

 

「あの、本当にありがとうございました。まさか助けが来るなんて思ってもいなかったので……」


 おっと微妙に誤解があるようだ。

 だが、我らがジュリアが馬鹿正直に全てを打ち明けたのでノープロブレム。


「せっかく感謝してもらってる所申し訳ないんだけど、私たち、別に助けに行ったわけじゃないの」

「え、そうなんですか? 私、てっきり……」

「私たち、山に入って行方不明になった冒険者を探しに行ってたの。そうしたら亜人達と遭遇して戦う羽目になったってだけ」

「そうだったんですか……それなら運が良かったんですね、私たち」

「それはどうかしら」


 リズが厳しい口調で割り込んで来た。

 あー、やっぱ言っちゃうのか。

 っていうかマリュウ、止めないの?


「どういう事ですか?」

「村が襲われたのは私たちのせいかもしれないのよ」

「え?」

「あなたたち3人を人質に取るために村を襲ったのかもしれないって事」

「そんな……一体何のために?」

「私たちが昨日山へ入るのを知っていた者が、亜人に人質を取るよう命じたのよ」

「いえ、それはおかしいです。もっと前からうちの村は目を付けられていましたから」


 え!?


「どういう事?」


 リズも予想外の展開に驚いている。


「シャイア教の人達が山で何かやっているのを見た人がいて、それで家に集まって対処を相談していたんです」

「それっていつ頃の話?」


 思わずオレも口出ししてしまった。


「シャイア教の人を見たっていうのはひと月程前で、その後も交替で見張りをしていたんです。家で相談をしたのは5、6日前だったと思います」

「その相談の内容は覚えてる?」


 誰何のリズの本領発揮キター!


「見張りに出ていた人がシャイア教の人に見つかって、亜人が追いかけて来たっていう話をしていて……それでシャイア教と亜人が結託して何を企んでいるんだっていう話になっていったように思います」

「村でもシャイア教と亜人の関係を既に掴んでいたのね。なんて事……もしかしたらそれで?」

「とにかくこの山で何かあってはマズイという事で、祖父が一刻も早くリグナス様へお知らせしないとって慌てていました」

「えっ、リグナス? アスカ、それって……」

「うん、間違いない」


 ジュリアが反応しちゃったので一応答えたけど、あまりその辺は突っ込んで欲しくないなぁ。

 ほら、他にもいろいろ聞いてる人がいるし。


「誰なの、リグナスって」


 ほーら、リズが食い付いて来ちゃった。

 

 スレイも村長の孫なのにそんなに口が軽くて大丈夫なのか?

 それとも村生まれ村育ちの二世三世は機密情報取り扱いに関して疎いとか?


「将来私たち一族の頂点に立つ御方です」

「え!?」

「うそッ?」


 これにはオレもジュリアも思わず声が出てしまった。

 そしてお互い顔を見合わせる。

 どういう事?

 

 リグナスは森の民の部隊長くらいの地位だとばかり思ってたんだが、違うのか?

 将来頂点に立つって、森の民の王になるって事?

 そしたらロビィはその妹だから……え? えっ!?

 

「一族というのは森の民の事ね」


 リズが言質を取るように尋ねる。


「……御存知でしたか」


 諦めたようにスレイが明かす。

 いや、そりゃまぁマリュウがいるからね。


「あ、そう言えばみなさんの仲間にも私たちと同族の方がいらしたようにお見受けしていたのですが」


 ああ、それはロビィの事だよ。


「彼女は森へ戻ったんだ。今回の件の報告で」

「そうだったんですか。もう一度お会いして色々とお話を聞きたかったのに……残念です」


 さぁ、ここからはオレの出番だ。

 うまく話を持っていけるかどうか。


「それで、スレイさんたちはこれからどうするの?」

「村を再建します。すぐに、というのは無理ですがいずれ必ず」

「再建ってミト村をって事? 同じ場所に?」

「はい。あの場所こそが私たちの永住の地なのです」

「別にそんなにあの場所に拘らなくてもいい気がするけど」

「いいえ。カカ山を守るのがミト村に生まれた者としての使命ですから」


 うん、まぁその辺はあまり突っ込むと森の民関連の話題になりそうだからスルーしとこう。

 リズ辺りは不満に思うだろうが。


「でもとりあえずはどこかの町で暮らすんでしょ? どこにするか決めた?」

「いえ、まだですが、このラシークでもいいかなと思っています」

「ペピンはどう?」

「ペピン……ですか。話には聞いた事がありますが、まだ行った事がないので……」

「生活していくには住む所と仕事が必要でしょ。ペピンならオレたち力になれると思うよ」

「ちょっとアスカ、そんな事簡単に言っちゃって大丈夫なの?」


 ジュリアが心配そうに耳打ちしてくる。


「大丈夫、オレに考えがあるから」


 そう答えつつ、チャンさんの所で子供たちと一緒にいるピンピンを手招きして呼ぶ。


「ピンピンの道場って人手が足りなかったりしない?」

「そうですね、人手はいつも足りてません。それがどうかしたんですか、師匠」

「ほらね」


 ジュリアの方を向くとなるほどといった感じで頷いている。


 そこで改めてオレの提案をスレイに話して聞かせた。

 

 ピンピンの実家のプンクル道場で住み込みで働かせてもらってはどうか、という事を。

 ピンピンが家を出たので少なくともひとつは部屋が空いているのは確実だし。

 ついでに子供たちにプンクルを習わせる事も提案してみた。

 

 その最後の提案が思った以上に響いたようで、スレイは道場側が受け入れてくれるのであれば是非という気持ちになったようだ。

 ただ、スレイ自身もプンクルに興味津々そうだったのは思わぬ誤算だったが。


「なら決まりね。一緒にペピンへ行きましょう!」


 ジュリアが締めたところで交渉成立。

 ピンピンも自分がいなくなった後の家の女手の事が心配だったらしく、オレに感謝を伝えてきた。

 いえいえ、どういたしまして。

 

 でも、本当の狙いは別にあったりするんだよなぁ。

 ま、それについては杞憂に終わってくれればそれはそれでいいのだが。


「では私たちは宿の方を引き払う準備をして来ます」

「うん、待ってる」


 スレイは一礼すると子供たちの所へ行き、チャンさんと一緒に宿に入っていった。


「アスカ、さっきのスレイの話なんだけれど……」

「まぁまぁいいじゃん。無用な詮索はやめよう」

「無用って……」

「リズ様、ここはアスカさんの言う通りになさった方が」

「マリュウまで……わかったわよ」


 こうしてリズも完全に引き下がった。

 マリュウ、最後の最後にアシストありがとう。


 こうしてオレたち6人にワンウーチャンとミト村の3人を加えた合計12人でラシークを後にした。



*****



 ペピンには日が暮れる前に到着した。

 

 普通に歩くと子供たちが遅れてしまうので、そこはワンウーチャンとシンが交替でおんぶして何とか。

 シンのロリコン疑惑が払拭出来ないうちは不安もあったが、オッサン3人だけでは体力的に不安すぎたので仕方なく。

 

 一方、スレイの方は思った以上に体力があるらしく、ほとんど遅れずについて来たので逆に感心した。

 

 到着したその足で冒険者組合の建物へ直行。


 オレたちは外のベンチにスレイと子供たちを座らせつつ待つ事にして、代表してワンウーチャンが組合の中へ入っていった。

 

 が、暫くして中から怒声が響くとぞろぞろと入り口から外に人が出て来た。

 

 シャイア教徒!

 

 ――が3人と知らないオッサンが2人。

 

 合計5人が厳しい顔でこちらに詰め寄る。

 

「すぐ逃げてください!」

「こいつら、全然話を聞いてくれないんです!」

「ふざけんな、コノヤロー!」


 5人の後ろにワンウーチャンが出て来た。

 3人共、後ろ手で胴体ごとぐるぐる巻きに縛られている。

 

 更にその紐を持つゴツイ男性が漏れなく2人ずつ合計6人付いて来る。

 プンクルで倒せば良かったのに、と思ったが言わないでおこう。

 

 男のくせにおかっぱのオッサンが前に出ると咳払いをしてから告げた。


「森のジュリアスと、エリザベス・マリュウ組だね。君たちには拉致・監禁そして殺人の容疑がかけられている。大人しく協力してくれ給え」


 ほら、来た!

 どうせこんな事だろうと思ってたが、案の定だ。


「容疑って何の事? 私たちが何をしたって言うのよ!」

「まずはそちらが名乗るのが礼儀ではなくて?」


 ジュリアとリズが続けて口を開く。


「黙れ極悪人! 貴様らの悪事はすべてこちらの組合長へ報告済みだ。観念しろ!」


 シャイア教徒の1人が得意気に叫ぶ。

 組合長と言われた男が苦虫を噛み潰したような顔でそれを聞き流している。


「どうしてここにシャイア教がいるのよ! そっちこそ観念なさい! もう終わりよ!」

「黙れ小娘が! 盗人猛々しいとはこの事だ」

「何ですって!?」


 飛び出しそうになるジュリアを抑える。

 なんで止めるのよという顔でこっちを睨むジュリアに笑顔で頷いて見せる。


「ペピン冒険者組合長のダモネフだ。こちらは監査役のブライス・リーベルト。こんな形での挨拶になってしまって残念だよ」

「こんな形も何も、言いがかりも甚だしいわ。ペピンの冒険者組合も落ちたものね」


 リズが毒を吐く。

 おーい、この状況でどんどん立場を悪くする発言はやめれ。


「リズ様、ここは堪えてください」

「でもマリュウ。こんな侮辱、生まれて初めてよ」

「お気持ちお察しします。ですがどうか……どうか堪えてください」


 マリュウばかりに押し付けるのも何なので、オレも口を挟む。


「リズ、大丈夫だから心配しないで」

「どういう事、アスカ」

「まぁまぁ……」


 両手でどうどうと抑える仕草をしてみせた後、ダモネフの方に向き直る。

 ジュリアとピンピンにも目配せをして任せてもらう。


 シンは……まぁいいや。


「別にオレたちどこにも逃げませんから、状況だけ整理させてください」

「う、うむ。君は確かアスカ君だったかな」

「はい、そうです。今後ともよろしくお願いします」

「う、うむ。ああ……」


 犯罪者によろしくというのは躊躇われたのか、歯切れの悪い組合長。

 だが、とりあえず話をするための空気は成立させた。


「それで、シャイア教は組合に何と言ってきたんですか」

「君たちが依頼内容とは無関係な行動を取って、シャイア教の信徒を拉致・監禁しているという事だった。それが昨夜の話だ」


 うわ~、昨夜のうちから手を打っていたとは油断ならないな。

 カカ山にいたヤルタの指示っていうよりは、こっちにいたユミロフの発案っぽいけど。


「その証拠は?」

「証拠?」

「その話が真実であるという証拠はあるんですか?」

「う、うむ。まぁ今のところはシャイア教側からの証言が全てだ」

「なるほど。それで、他には何でしたっけ? 殺人?」

「そうだ。拉致・監禁した信徒を殺害し、あまつさえ無関係の村まで襲ったらしいではないか。一体どうしてそんな非道な事が出来るんだね!」


 リズとジュリア、ピンピンまでもがカッとなったのが感じられた。

 まぁオレも頭には来ているが、予め想定していた事なのでまだ冷静でいられる。


「同じ事を聞きますが、証拠はあるんですか?」

「なに? 何の証拠だ?」

「だからオレたちが信徒を殺して村を襲ったという証拠ですよ」

「う……いや、そ、それは……」

「証拠など、これからカカ山へ行って調査をすればすぐに出て来る。その前にお前たちの身柄を拘束させてもらう!」


 口篭ったダモネフに代わって高らかに拘束を宣言したのはリーベルトだ。

 すぐ後ろにいる3人のシャイア教徒がニヤリとほくそ笑むのが見えた。


「あんたは馬鹿なのか?」


 率直に口にしてしまったら後ろで誰かがプッと吹き出した。

 しかも1人じゃない……w


「なに? 誰に向かって口を利いている!?」

「あんただよ、おかっぱおじさん」

「リーベルトだ! 無礼な女め、今すぐ拘束させるぞッ!」


 拘束させるったって手が空いてるのはあんたら2人とシャイア教徒だけじゃねぇか。

 どうすんだよ。


「もう一度言うけど、オレたち別に逃げないから拘束の必要はないと思うけど」

「だ、黙れ! まずはその口を閉じろ無礼者ッ」

「ダモネフさん、こんなのが監査役で本当に大丈夫なの?」

「い、いや……うむ。少し落ち着いたらどうだ、ブライス」

「組合長まで何を言うんですかッ!? こんなのに言いくるめられるなんて!」


 しっかしこいつ、ヒスった女みたいなヤツだな。

 いるとどんどんややこしくなるタイプだから、何とかした方がいいかも。


「これ以上話の邪魔するなら一発殴るけど、いい?」

「なッ! なんだとッ!? 今、私を殴ると言ったのか? 聞きましたか組合長、これは明らかに恐喝です!」

「いいからとにかく落ち着くんだ、ブライス」

「私は落ち着いていますッ!」


 キーッ! ってか。

 ちょっと精神的なジャブを先にお見舞いしてやる。

 

「あ~わかった。あれだろ、あんたシャイア教から賄賂受け取ってるだろ」

「なに!? 本当なのかブライス!」


 こういう場合は大概そうなんだが、もし違ってたらこいつが真性の阿呆って事が証明されるだけだ。


「ご、誤解です組合長! こんな戯言を信じるなんて、長年の付き合いなのにひどすぎますッ!」


 まぁ否定するよな。しないと困るのは自分だし。

 だからこういう場合は外堀から攻めるものだ。


「組合長、そっちのシャイア教の人にも聞いてみたらどうですか」


 わざと指差してやると、全身ローブの男たちが一瞬狼狽(うろた)えるようなそぶりを見せた。


「本当なのかね、君たち!」

「何を根拠に!」

「いくら組合長でも今の発言は我らシャイア教全体への侮辱に当たりますよ」


 そう言われてあっけなく引きそうになる組合長。

 どんだけ弱腰なわけ?

 冒険者組合の組合長ってそんなに地位低いの?

 それとも世間体気にしてるの?


「賄賂渡したかどうかは別にシャイア教全体じゃなくてあんたらの問題でしょ。何なら本部に情報垂れ込むけど」

「なんだと!?」

「貴様ッ、そんな事をしてタダで済むと思っているのかッ!?」


 今度は完全に狼狽えているシャイア教徒。


「何もしてないなら別に問題ないでしょ。ねぇ組合長」

「うむ。うちとしても悪い噂が立つのは困るからね。そうだろう、ブライス」

「で、ですから組合長、私は何も受け取ってなどおりません。決して賄賂など……」

「身体検査を提案します!」


 唐突に、しかし高らかに宣言してみた。


「なに!?」

「なにを……」

「ふ、ふざけるなッ!」


 反応がいちいち面白過ぎて笑える。

 目が完全に泳いでいるリーベルト監査役に真っ赤になっているシャイア教徒。


「一体誰を検査するというのだね、アスカ君」

「はい組合長。この場合はリーベルト監査役が対象になると考えます」

「な、なにを馬鹿なッ……」

「オレたちがやると不正を疑われるので、組合長自身が検査をしてください。今すぐ、ここで」

「私がやるのか……」

「組合長ッ!!」


 おかっぱおじさんのリアクションはもう自白してるのと同じなのだが、本人は全く気がつかないらしい。

 罪の意識とそれから逃れようとする人間の心理とは実におかしなものだ。


 逃げられたら困るので、オレがリーベルトの肩を抑える。

 リーベルトはオレの手が触れた瞬間ビクンと体を痙攣させたが、その後は人が変わったようにおとなしくなってしまった。

 

 疑心暗鬼のまま仕方なくリーベルトの体を検め始めた組合長だが、内ポケットから金貨の入った巾着がアッサリ見つかり、場の空気が急速に冷却されていく事になった。

 

「ブライス、これは一体……」

「誤解です組合長! 違うんです! それはこの後支払いをするために所持していたもので……」

「こんな大金をかね?」

「たた、大金といってもこの程度の金貨、組合長であれば何度も見ているでしょう」

「君は何を言っているのだリーベルト監査役。私は今君が所持していたこの金貨の出所について聞いているのだよ」


 急に態度も口調も呼び方も変わった組合長に、リーベルトは愕然とした表情を浮かべついに観念した。


「申し訳ございません組合長。ほんの出来心だったのです……」

「わ、我々は無関係だ。その男が金を持っていたとしても我々が渡したものという証拠はない!」

「そうだ、その男は我々シャイア教徒を迫害しようとしているのだ!」


 もはや何を言っているのかわからないシャイア教徒。

 こんな下っ端に組合懐柔の役割を与えるなんて、ペピンのシャイア教上層部は何を考えているのだろうか。


「証拠を言うなら、オレたちの容疑の証拠も何ひとつないんだが」

「そうよ!」

「師匠の言う通りよ!」


 ジュリアとピンピンが援護射撃をしてくれた。

 

 ピンピンが叫んだ時にシャイア教徒がビクッとなったのは、プンクル師範代だった事を知っているためか。

 いざ事を構えるとなったら圧倒的に不利なのは理解しているわけだな。


 しかししょーもないウソで組合が思い通りに動くなんてお花畑作戦、誰が考えたんだよ。

 ヤルタか? ユミロフか?

 それともペピンの実働部隊を指揮する人間が他にいるんだろうか。


「なるほど、アスカ君の言う通りだな。我々も一方の言い分のみで少し強引に動き過ぎたようだ。ノリス! ワン君たちの拘束を解いてやり給え」

「ハッ」


 ノリスと呼ばれたゴツイ男のひとりがワンウーチャンを拘束していた男たちに目配せをして、彼らの拘束を解いてやった。


「すまなかった、ワン君」

「いえ、組合長。事情が事情ですから仕方ありません」

「おいワン、勝手に許すな! オレは絶対許さないからな!」

「チャン、少し静かにしてるんだ。ワシらが邪魔をしちゃいかん」

「でもよ、ウー……」

「君たちにも謝罪する。本当にすまなかった」


 組合長が改めてワンウーチャンに頭を下げて謝罪する。

 

 リーベルトは不貞腐れた表情で俯いたままだった。

 あー、こいつは更生する見込みナシだな。


「組合長?」

「うむ、頼むよ」


 ノリスが一声かけると組合長がリーベルト拘束の指示を出した。

 おとなしく拘束されるリーベルト。

 もはや完全に諦めたらしい。今後の人生を含め何もかも。

 

「そっちのシャイア教徒はどうするんですか?」


 オレが組合長に言うと、間抜け面でぼーっと様子を見ていたシャイア教徒が急に我に返って慌てふためく。


「拘束しろ!」


 組合長の指示をほとんど待ちかまえていたようにしていたゴツイ男連中が即座に3人のシャイア教徒を捕縛。

 よほどこういう作業に慣れているのか、実に見事な手際だった。

 

 よくよく見ると腰の後ろ側に青札を下げている。

 全員四級冒険者かよ。

 しかもノリスと言われた男だけは三級の紫札だった!

 すげぇなペピン冒険者組合。

 

 おそらくワンさん同様、組合付きで雇用している冒険者なのだろう。

 こういう仕事って結構あるのかね。

 まぁ冒険者も性質の悪いヤツがいるだろうから、抑止力は必要という事か。


 どうせなら全員黒スーツにしたらそれっぽくて面白いのに。



 邪魔な連中が一掃された所で、改めて組合の中の個室で話をする事になった。

 

 全員で行くのは窮屈なので、オレとジュリアとリズとワンさんの4人。

 残りは外で待機しつつ、必要に応じて中へ呼ぶという事で落ち着く。

 

 まずはオレの方から組合長に一通りの事態の説明をする。

 時々リズが補足。

 オレたちが言葉足らずなところはワンさんが詳しく噛み砕く。

 

 ワンさん、一日目の夕方以降は現場にいなかったのにさも見て来たように話せるのは何故?

 その辺が組合所属で長くやってきた人の経験値ってやつなのか。

 とにかく組合長の聞きたいところ、疑問に思うところを早め早めに埋めたり潰したりしてくれて非常に助かった。


 ミト村の件はさすがの組合長も沈痛な面持ちで聞くしかなく、オレたちが埋葬した報告をした時には証拠がなくなってしまった事を気にしている様子だったので、何なら村の生き残り3人も外にいるので話を聞いてみては?と提案。

 

「まさか! 今連れてきているのか? それは是非話を聞きたい」

「でも3人のうち2人は小さな子供なので、ちゃんと話が出来るのは1人だけだと思いますよ」

「それでも構わない。アスカ君、頼む」


 という流れでスレイを呼んでもらって組合長直々のヒアリングが行われた。

 これで、少なくともオレたちが村を襲ったという謂われなき嫌疑については完全に身の潔白を証明した事になる。

 

 元々、こういう時のために利用する意図もあってこの3人を同行させたのだ。

 想定した中では一番穏便な形での利用になったのは僥倖だったが、何にしろあまり趣味のいい行いとは言えずオレも心が痛んだ。

 

 後で子供2人も実際にちゃんと組合長の目で見てもらって、より同情心を煽っておく必要がある。


 そして、いよいよこの後が本題になる。


 実は個室へ移動する前、ピンピンとマリュウにシャイア教施設の様子を見て来るように頼んでおいた。

 出来ればユミロフの所在まで知りたい、と。

 

 さっきスレイの出入りをする際に、戻ってきたピンピンから報告があり(マリュウは張込み中)、ユミロフは今日の昼前にペピンを発ったという情報を得たらしい。

 ちょうどオレたちがヤルタを倒した後、というわけだ。

 

 昨日の夕方にミト村でオレたちを偵察していた者がペピンへ戻ったのがおそらく夜になってから。

 そこで今後の対策を検討したとして、もっと早く出る事も出来たはず。

 ヤルタ側の状況を確認してから出発したようなタイミングがどうも気に食わない。

 どうやってヤルタ敗北を知ったのだろうか。

 

「それで組合長、今後の事はどうお考えですか」

「今後? シャイア教の事かね」

「まぁそうです。ユミロフ司教の処遇とかも」

「うぅむ……」


 腕組みをして絶賛悩み中のダモネフ。


「ユミロフ司教は昼にはもうペピンから逃亡していたそうですが、組合長は御存知でしたか」

「ん、ああ、いや、そうなのか。それは困ったなぁ……」


 今のはどう考えても安心した表情にしか見えんぞ組合長。


「せめてペピンにある教団施設の閉鎖と、残った教徒への事情聴取と必要であれば処分までやっていただかないと」

「うむ、それはその通りだ。すぐに手配をしておこう」

「ペピン全体でシャイア教の禁止までは無理なんですか」

「ううむ、不可能ではないが、そこまで大きくなるともう私の権限の範疇を越えてしまうからなぁ」

「なるほど。では然るべき方々と相談して決めてください」

「わかった。助言ありがとう、アスカ君」

「いえいえ、どういたしまして」


 組合長に恩を売った形になったのは幸運だった。

 もう組合長と話すのはこれ位だったかな……と思ったが、大事な事を忘れていた。


「それで今回の依頼に関してですが、組合長はどういうお考えなのですか」


 リズが鋭く切り込む。

 そうだった。報酬の件、ね。

 うん、それは大事。


「それは……ううむ、依頼主が逃亡してしまった以上、組合としてはどうする事も……」

「組合長。今回の依頼は表向きは組合が依頼主となっていたはずです。であればユミロフ司教がどうであろうと冒険者側へ不利益になるような事はあってはならないと私は思います」


 おお、ワンさん!

 見事な説得、どうもありがとう。

 リズも意外そうな表情でワンさんを見て、改めて眼光鋭く組合長を睨む。


「基本報酬は当然として、救出手当と魔物討伐手当も保証してもらえますね?」

「ん? 救出手当と言ったのかね、エリザベス君。先の行方不明の冒険者を救出出来たのかね?」


 え、ああ、そっかまだ組合長は知らないのか。


「ええ、1名だけですが。要救助者のシン・ミツルギを救出しています」

「なんだと! シン・ミツルギを救出!? す、すぐに彼に会わせてくれ給え! ここへ呼んで来るんだ!」


 突然豹変した組合長の態度にオレたち一同唖然。

 何が起こったんだ?

 一瞬だが、ヤルタが豹変した時を思い出してざわっとしちゃったじゃないか。

 

 組合長に急かされてワンさんが慌ててシンを呼びに行き、すぐに一緒に連れて戻って来た。


「キミがシン・ミツルギ君か! よくぞ無事で!!」


 シンが入って来るなり立ち上がって近付き、両手で握手をした後にハグまでしてみせる組合長。

 なんなのだ、この態度は?


「あ、はい。捜索の依頼を出してくださったそうで、本当に感謝しています。ありがとうございます!」


 シンはひらすら恐縮しながらも、組合長の態度に若干戸惑っている。


「いやいや、我々は当然の事をしたまでだよ。いやぁとにかく無事で良かった。これで御父上にも良い報告が出来るというものだ」

「えっ、父とお知り合いなんですか?」

「ん? ああ、もちろんだ。何しろミツルギ家御当主と言えばこのグルドでも指折りの有力者だからね。組合としても色々と交流があるのだよ」

「はぁ、そうなんですか」


 他人事のようにのんびりしているシンだが、オレにはわけがわからない。

 シンってそんなにすごい家柄なの?


「リズ、知ってた?」

「ええ、まぁ」


 なんだよ、知ってるなら教えてくれよ!

 リズのそういう秘密主義なところはいかがなものかと思う。

 ま、オレの方もいろいろとあるけれども。


 じゃあお互い様か。

 

「救出できたのはミツルギ君だけなのか?」


 改めて組合長がオレたちに尋ねる。


「はい。残念ですが他の3名は亜人に……」

「そうか……うむ、仕方あるまい。だが、ミツルギ君がこうして無事だった事は奇跡に近い! 本当によくやってくれた君たち!」


 はは~ん、権力者であるミツルギ家の嫡男を救出した事で何らかの利益が得られる算段か。

 そういう事ならこっちも遠慮はしない。


「組合長、それで依頼の報酬についてなのですが……」

「うむ、もちろんだ! 当然我々組合が保証する!」


 この態度の変わり様。つくづく大人ってイヤな生き物だなぁ。


 そしてリズが念を押しにかかる。

 

「では救出手当も?」

「当然だ! ミツルギ君を救ってくれたのだからな」

「魔物討伐手当は?」

「うむ、それも報告を受け次第審査する」


 マジか!?

 やったぞリズ。

 

 そこでワンさんがもうひと押しにかかる。

 あ、それここで言っちゃうの? とオレはびっくりしたのだが。


「組合長、魔物討伐手当の件ですが今回亜人の第5等級相当が大量に出まして……」

「ん、なに亜人の第5等級? 大量とはどれくらいだ」

「はい。正確な数は把握していませんがおそらく100近くはいるものと思われます」

「それを全部倒したのか?」

「は、はい」

「素晴らしい! よし、それも特別に手当の対象としよう。何と言ってもミツルギ君を救出したのだ。それにその話はペピン冒険者組合の宣伝にも使えるぞ。大々的に内外にアピールしようじゃないか。はっはっは!」


 ううむ、よくわからないが大人の事情には様々な側面があるようだ。

 冒険者組合の宣伝か、さすがにそんな所まではオレには考えも及ばなかった。

 

 しかし、シンを救出できて本当に良かった。

 むしろオレたちがシンに礼を言わなければならないな、こりゃ。



 こうして2時間にも及ぶ組合長との話し合いは無事終了。

 オレたちが望む条件はほぼ呑んでもらった形になり、大勝利だったと言える。

 

 報酬は明日改めて組合まで取りにくるように、との事だった。

 魔物討伐の調査については、組合側の冒険者がいる事や、シンやスレイ等の第三者がいた事なども加味して全面的に報告内容が信用される事になったらしい。

 もし万が一後日の調査で問題があれば再度呼び出しがあるらしいが、その心配はないだろうとワンさん。

 

 なんだかんだ言って頼りになったよワンさん、ありがとう。



 その後、オレはピンピンとミト村3人を連れて道場へ行き、ピンピンの父親と交渉してスレイたちの住み込み仕事の許可を取り付けた。

 もう結構な時間だったので食事に誘われたのだが、オレとピンピンは固辞し、スレイたち3人だけ今夜からよろしくと伝えてその場を立ち去った。

 

 但し代わりに翌日の昼食を一緒にとる事を約束させられたのだが……。

 

 だが、これでミト村の3人の事も片付いた。

 あと残るはオレたちの事だけだった――。

読んでいただき、ありがとうございます。

今回が一番書くのに苦労してしまいました。

書くべき事が幾つかあり、その表現方法やら順番やら……結局何度も書き直しせざるを得ず、最終的に今の形になりました。

若干ウェイトの置き方が歪になってしまいましたがどうかお許しを。

しかし、まだ一日が終わってません。あと一回あります。

引き続き応援よろしくお願いします

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