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転生したら美少女になっていたアラフィフ窓際オッサンリーマンが男子禁制ギルドを作ってハーレム気分のまま救世主になる!  作者: 黒井圭
第2章~キャリオ(1)ペピン周辺~

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(45)オレは仲間が増える

 リー道場を出て一旦リュグジョルに戻りジュリアと合流。

 

 宿の主人が昨日の分の宿賃はサービスすると言ってくれたので有難く甘えさせてもらう。

 出発する時に2、3日戻らないと言ってはいたのだが、1泊2日で戻って来たので気を利かせてくれたのだろう。

 

 1人減った事についても報告し了承を得た。

 部屋はそのままでいいそうだ。

 

 ここでもピンピン効果が効いている。

 

 荷物を置いて身支度を整え、風呂に寄ってサッパリしてから事前に示し合わせていた酒場へ向かう。

 

 リズたちと慰労会をやる約束していたのだ。

 ちなみにワンウーチャンにも一応声は掛けたのだが、さすがに大人なので察して辞退してくれた。

 


 緑の日の夜だけあって酒場は大繁盛の混雑ぶりだった。

 席取れるかな、と不安になったのだがそれは杞憂に終わった。


「ピンピン様ですね、お待ちしておりました。どうぞ、奥の方へご案内致します」


 入り口付近で待ちかまえていた店の人(?)が、ピンピンへ最上級の愛想を振りまいてきた。

 

 ここはペピンでも有名な酒と料理のうまい酒場という事で、ピンピンが推したのだがまさか顔パスで特別席へ案内されるとは思わなかった。


 ホール内を案内されて移動中、カウンターの隅にひとりポツンと腰掛けて飲んでいるリズを発見。

 マリュウが一緒じゃないとは珍しい。


「リズ!」


 ジュリアが声をかけると、こちらへ軽く手を振るリズ。

 そうじゃなくて、一緒に来なって意味なんだけどw


 ジュリアが一生懸命手招きしてみせるとようやく理解したリズがカウンターに御代を置いて、こちらへやって来る。


「マリュウは?」

「ああ、様子を確認してから来るそうよ」

「様子?」

「シャイア教の」

「ああ、なるほど。真面目だなぁ」


 夜に何か動きがあるかも、という可能性を考慮したのだろうがそれにしても真面目すぎる。

 そんな真面目なマリュウの事だから、いつ頃戻ってくるか怪しいなぁ。


「で、どこへ行くの?」

「奥に席を用意してくれたんだって」


 ジュリアがリズに答える。

 ピンピンがリズにウインクをしてみせると、リズが困惑した顔を見せた。

 そうそう。こういうのに弱いんだよね、リズって。


「ピンピン様をご案内致しました」


 先導している店の人が奥へ通じる廊下の手前に立つ年配の女性へ報告していた。

 雰囲気から察するにどうやらピンピンとは既知の間柄らしい。


「ピンピン様、お久しぶりでございます」

「メイファンおばさん、久しぶり。今日は無理を聞いてくれてありがとう!」

「いえいえ、ピンピン様の頼みでしたらいつでも喜んで。お連れ様は4名様と伺っておりましたが間違いございませんでしょうか」

「うん、大丈夫。あとからひとり来るから。おじさんは元気?」

「はい、もちろん。ピンピン様へ最高の料理を出すんだって厨房で張り切っております」

「おじさんの料理も久しぶりだわ。とっても楽しみにしてるって伝えてちょうだい」

「はい必ず。うちの人も喜びます。それでは奥へどうぞ」


 こうして奥の部屋へ通され、落ち着いたところでピンピンへ質問。


「ここってピンピンの知り合いの店なの?」

「はい師匠。さっきの人が女将のメイファンおばさんです」

「おばさんって事は親戚か何か?」

「いえ、そういうわけではないのですが、昔おじさんとおばさんがうちの道場に通っていて、そこで知り合って結婚したんです」

「へぇ、そんな事もあるんだね」

「その関係でうちの父が仲人をやって、それ以来何かと親しくさせてもらってるんです」


 なるほど、よくわかった。

 でもあの女将さん、とてもプンクルやってるような体型に見えなかったけど……。

 

 そんなオレの心中を察したのか、ピンピンが付け加える。


「メイファンおばさんはうちの道場でも相当な使い手だったんですよ。私も子供の頃よく稽古をつけてもらいました」

「って事は昔はもっと痩せてたとか?」

「師匠、それは失礼ですよ」

「え、ああ、ごめん」

「でもメイファンおばさん、少し太ったかなぁ。現役時代はシェンヤオ兄さんとほとんど互角に戦えてたんですよ」

「え、シェンヤオって師範代だった人でしょ」

「そうです。シェンヤオ兄さんもメイファンおばさんの事、好きだと思ってたんだけどなぁ」


 あー、なんかそれあんまり深く聞いちゃいけない話だったりしない? 大丈夫?


「そんな事よりそろそろ何か注文しない?」


 おいジュリア、せっかくの話をそんな事呼ばわりとか。


「マリュウの事なら大丈夫よ。先に始めてると言っておいたから」


 って事はリズも早く注文しろと言いたい訳ですね。


「ああ、最初はお任せで色々出してくれる事になってるから。お酒だけ好きに頼んで」


 ピンピンが何でもないという風に告げたが、おじさん渾身の料理がここに並ぶのかとやや恐ろしくなった。


「じゃ私はチュールで!」

「私はベリンをいただくわ」

「私はホプス。師匠はどうします?」

「ピンピンと一緒でいいよ」

「わかりました。お酒、お願い」


 急に横向いてオーダーし出したから驚いたが、衝立(ついたて)の陰に店員さんが待機しているのを始めて知った。

 ピンピンが酒を注文し終わると、店員はすっと奥へ行き1分もしないうちに酒を持って戻って来た。

 

 はえーよ! 最優先かよ!


 完全にVIP待遇です、どうもありがとうございます。

 ピンピン、ハンパねぇ。



「かんぱーい!」


 ジュリアの音頭でグラスを合わせて乾杯し、一気にホプスを飲み干す。

 ピンピンもジュリアもグラス一気飲み。

 

 その様子を見届けた店員が何も聞かないうちに同じ酒を持ってくる。

 目視確認による自動オーダーか!

 

 リズはさすがに一気飲みはせず、一口づつベリンを味わっている様子。

 ベリンは所謂赤ワインだ。

 味はオレたちの世界とは若干違うしそんなに種類もないようだが、前にウルズスラで飲んだ時は美味かった。

 料理次第だが、オレも後でそっちに切り替えてもいいかもしれない。



「というわけでピンピン、今度こそうちに入らない?」


 はぁ!?

 乾杯一気したばかりでいきなりその話をするのか、ジュリア。

 ほんと何度断られても懲りないんだな。


「うん、いいわよ」

「え!?」

「えっ、ウソ?」


 いつも私は師匠の弟子であって云々と速効断るはずのピンピンが、首を縦に振っただと……。

 オレだけじゃなく勧誘した当のジュリアですら驚いてるじゃないか。

 

「改めてこれからもよろしくお願いします」


 急に畏まって頭を下げるピンピン。

 今のオレは隣のジュリアと同じ間抜け面を晒しているに違いない。


「え、ああ、うん。こちらこそよろしく……っていうかホントに入ってくれるの?」

「うん、今そう言ったつもりだけど」

「私、てっきりまた断られるんだとばかり思ってたから……」

「いいですよね、師匠」


 うわっ、急に話をこっちに振るな。


「うん、オレは別にいいけど……っていうか歓迎するよピンピン」

「ありがとうございます。ジュリアもよろしくね」

「それじゃ、これからは私の言う事もちゃんと聞いてね」

「それはどうかしら」

「え、なんで!?」

「冗談よ、ジュリア。一応その辺はちゃんと弁えてるから安心して」

「なぁんだ、良かった。びっくりさせないでよね、もう」

「大丈夫。ちゃんとジュリアと一緒に師匠の無茶を止めてあげるから」

「そうそう、よくわかってるじゃない」

「おい、それは一体どういう意味なんだ?」

「別に~ッ」


 2人でハモるな!

 でもなんだかんだうまくやっていけそうな気がして来た。

 これで良かった……んだよな、ロビィ。


「ッフフフ……」


 オレたちの一連のやりとりをベリンを口にしながら眺めていたリズが思わず声が出てしまった風に笑った。

 

 それを見たジュリアが何か閃いたような表情を浮かべる。

 あ、これはヤバイ奴だと直感したがオレが止める間もなく、行動に出てしまうのがジュリアだ。


「リズたちもどう? うちに入って一緒にやらない?」

「うちって、森のジュリアスにって事?」

「もちろん! ピンピンもやっと入ってくれたし、せっかくだからリズとマリュウも一緒にどうかなって」


 あちゃーってな感じで静観するしかなかったが、ピンピンまでジュリアと同じような表情をしているのは解せない。

 元々似てる部分もあるなとは思ってたが、今や一心同体レベルのシンクロ率だ。


「……そうね、マリュウが戻ったら相談してみるわ」


 短くはない沈黙の後、そう言ってリズはまたひと口ベリンを飲んだ。


 正直意外だった。

 理由はともかく、まず断られるだろうと思っていたからだ。

 それとも、マリュウを引き合いに出してとりあえず時間を稼いだのだろうか。

 

「そうよね、マリュウのいない所で決める事じゃないわね。ごめん。また後で改めて聞くから」

「そうして頂戴」


 思いのほか穏便に収まったようだ。

 なんだか今夜は思いがけない事ばかり続くなぁ。

 

「ところでジュリア、聞きたい事があるんだけど」


 リズが獲物を追い詰めるハンターの顔でジュリアに詰め寄る。

 こっちもスイッチ入ってんじゃん。


「え、そんな急に改まって何かなぁ……アハハハハ」


 絶対わかってるだろ、そのリアクション。

 芝居下手すぎ。

 

 だいたいオレにだってわかるわ。

 リズが聞きたいのはヤルタがうっかりバラしちゃったあの話の続きに決まってる。


「雷神ガラドの娘って本当なの?」


 ほおら来た。

 もうさすがに逃げられないぞ、どうするジュリア。


「ほ、本当なのかな? どうなんだろ。アハハハ」


 なんだそれ。

 もう少しマシな言い方あるだろ、オイ。


「その様子だとアスカは知っているのね。ピンピンはどうなの?」

「私はちょっと聞いただけで、あまり詳しくは……」


 さすがリズ、本人が当てにならないと判断したら周りから攻めるか。

 

 ちなみにピンピンへはウルズスラからペピンへ移動する道中でちらっと話した事がある程度だけど、まぁ知ってる事にはなるか。

 

 デリケートな話だからジュリアの前では口にしないよう伝えてたんだけど、まさかああいう形でリズたちにまで知られる事になるとはなぁ。


「やっぱりジュリア、あならから直接聞きたいわ」

「まぁそうよね……。でもごめん、私もよく知らないのよ」

「どういう事?」


 そこでジュリアは自分の父親が元冒険者である事は知っていたものの、詳しい事は一切聞かされておらず村でもそれを教えてくれる人は誰もいなかった事などをたどたどしく説明した。

 トットナムという名前や、他のギルドメンバーに関する話、アスリーデ戦役に父親が関わっていた事なども全て村を出てから偶然知った事など、オレも時々補足してやりながらなんとか説明し終えた。

 

「信じられない話だわ。ああ、ごめんなさい。決してあなたたちが嘘を言っているという意味ではなくて」

「私だって未だに信じられないわよ。なんならすぐにでも村に戻ってお父さんを問い詰めたい気分よ」

「そんなすごい人からジュリアが生まれたなんて意外よね」

「ちょっとピンピン、それどういう意味!?」

「ほら、そういう所よジュリア」

「だから何? 全然意味わかんないんだけど」

「まぁまぁ2人共、その辺でやめとけって」


 半分本気でムカついているジュリアをこれ以上刺激するのは得策ではない。

 ピンピンもわかっているだろうに、つい言っちゃうんだろうなぁ。

 気持ちはわかるけど、ここは大人のオレが仲裁するのが一番。


「それじゃジュリアはアスリーデ戦役でのトットナムの活躍を何も知らないの?」

「アスリーデ戦役はつい最近の事だから学舎でもそんなに取り上げなかったし……」

「ジュリア。学舎で学ぶ歴史は過去の事であって、今現在起きている事は自分で情報を集めないとダメよ」

「う、うん……。でもリズはどうやってそういう情報を手に入れてるの?」

「私にはマリュウがいるから……」


 あ、急に声のトーンが落ちやがった。

 そこは横着して人任せなんだな、この貴族のお嬢様は。

 偉そうに自分で情報を集めろとかどの口が言うんだw


「リズ、せっかくだからアスリーデ戦役とトットナムについて教えてよ」

「オレも聞きたい」

「私もお願いします、リズさん」

「しょうがないわね。でも詳しく話すと相当長くなるから簡単にでいい?」


 全員が同意し、リズの説明が始まった。

 

 アスリーデ戦役はアスリーデ王国の王位継承問題に周辺三カ国が干渉して勃発した国際紛争だった。

 

 ウルズスラでもセレナが簡単に説明してくれたが、国王病死に伴い発生した王位継承問題に、サバス帝国・ウォルテリア王国・サンブルク統一政府の3国が干渉して来たのだった。具体的にはサバス帝国が現国王派を支持し、ウォルテリア王国が反対派に回って対立。そこへサンブルク統一政府が隣接する南方地域の領有権を主張して軍を侵攻させたのだった。

 

 一旦現国王派が優勢になり王国軍を指揮してサンブルク統一政府の軍隊を押し返す勢いを見せたのだが、反対派がサンブルク統一政府と手を組んで再度盛り返し、国内を二分する激戦へと発展。

 王国軍&サバス帝国軍VS反対派&サンブルク統一政府軍の趨勢を決める決戦となった王都バローム防衛戦で突如援軍として現れた軍勢にトットナムが加わっており、反対派勢力を一掃して絶体絶命だった戦局をひっくり返した。

 これがバロームの奇跡として今なお伝説的に語り継がれている史実だ。

 

 この一件だけでトットナムは英雄として称えられ、当時も今も変わらぬ人気と支持を得ている。但し、時の経過と共に噂が誇張されてだいぶ話が盛られてしまい、トットナムに関する話題は今ではほとんど非現実的な絵空事になってしまっているらしい。


「それで、お父さんについてはどんな事になっているの?」


 ジュリアがほとんど怖いもの見たさでリズに尋ねる。


「雷神ガラドは雷魔法を極めた魔法騎士で、自在に雷を操り100万の敵を一瞬で壊滅させる力を持つ……」

「え……」


 ジュリアが思わず絶句。

 オレも目玉ぽーん、だよ。

 幾ら何でも100万はねーわ。

 雷を自在に操るも、だいぶ眉唾ものだ。

 そんな事が本当に出来るなら、キュベラスの時もっとオレたちラク出来たはずだし。

 

「すごいなジュリア。自慢出来るぞ」

「やめてよアスカ。そんなわけないじゃない。バカバカしい……」

「でもガラドが強力な雷魔法を使ったというのは事実よ。私の剣術の師匠が実際にガラドの戦いぶりを見たらしいけど、剣先から雷を出して一度に大勢の敵を倒したというのは本当よ」


 リズにそう言われてもまだ半信半疑のジュリア。

 

「そう言えばリズも剣と雷魔法を使ってたよね。ドルクを倒した時」


 昨日の物凄い光景を思い出したのでリズに尋ねる。

 

「そうよ。ガラドの剣を見て研究した師匠から教わったの。だから間接的に雷神ガラドは私の師匠でもあるわけ」

「えっ!? そうなの?」


 途端にジュリアの目が生き生きとし出した。

 ああ、またこれは例のヤツが出るな、と思ったら案の定。


「私にも教えて、リズ!」

「それは昨日も言ったけれど、すぐには無理よ。私だって何年稽古をしたと思っているの」

「それは……そうだけど……でも、お父さんの技なんでしょ」


 諦めきれないジュリア。

 お手上げポーズのリズ。


「そもそもジュリアは雷魔法、出来ないじゃない。まずはそれを何とかしたら?」


 イエス、ピンピン! 的確かつ残酷なアドバイスどうもありがとう。

 ジュリアもその言葉で諦めモードへ傾き始めたようだ。


「ジュリアは風魔法が得意なんだから、そっちで別な技を習得した方がいいと思う」

「アスカまでそんな……でも確かに言う通りね。それじゃ、その技の練習に付き合ってよね」

「え……ああ、うん」


 しまった! 藪蛇になってしまった。

 オレ、ピンピンにも魔法を教えないといけないのにこれ以上負担が増えたら自分の稽古する時間がなくなりかねん。


「師匠、私の魔法の方が先ですからね」

「もちろん、覚えてるよピンピン」


 やはりピンピンにも突っ込まれてしまった。


「あなたたち、そうやっていつもアスカに頼っているから今日みたいな事になるんでしょ。もっと自立しないとダメよ」


 思わぬ形でリズのアシストが入った。

 いや、でも今日のは完全にオレが勝手に暴走しただけで他の人に責任はないんだけどなぁ。


「それは……そうかもしれないけど」

「すみません、師匠」


 なぜか真に受けて落ち込む2人。

 

「いや、今日のはオレが勝手に自滅しただけだから」

「アスカもよ。あなたが倒れたらみんなに負担がかかるんだから、もっと自覚を持ってもらわないと」

「へ? あ、ごめん」


 叱られたー。

 3人とも叱られたー。

 リズに叱られたー。


 リズ自身、言い過ぎたと思ったのか少し気まずそうな顔をして俯いてしまった。

 ここでマリュウがいてくれたら少しはリズを諌めてくれたかもしれないのに……。


 気まずい沈黙が流れた後、リズが話題を変えよう(戻そう?)としてボソリと呟いた。


「それにしてもトット村でトットナムの事が話題にならないのはどうしてなのかしら」

「それなのよ! 私もそれが納得いかないの」


 思わぬ所でジュリアとリズの意気投合。


「そう言えばオットも全然そんな話してくれなかったしなぁ」

「ちょっと待ってアスカ。オットってもしかしてオット・バーミーのこと?」

「え、ああ、うんそうだけど」

「鋼のオットと知り合いなの?」

「鋼の……ああ、セレナさんも確かそう言ってたっけ。オレがトット村にいた時、オットの家に居候させてもらってたんだ」

「あなたたち揃いも揃ってなんなの? そんな英雄クラスの人達の身近にいながら全く気付かないなんて……」

「……ごめん」

「まさか、神足のアキラも知り合いとか言わないわよね?」

「それはない。アキラ・ウルフォードでしょ? もう村にはいないみたいだよ、なぁジュリア」

「そうなの。ウルフォードおじさんは私が小さい時、戦争で亡くなったから」

「ちょっと待って。色々とありえない情報ばかりで混乱してきたわ」


 そう言ってリズは自慢の金髪をわしゃわしゃと掻き回した。


「まず、アキラ・ウルフォードが戦争で死んだなんて情報は公式にはどこにも発表されていないはずよ。それ本当なの?」

「セレナさんもそんな事言ってたけど、実際私が小さい頃に御葬式に出た記憶があるからウソじゃないと思う」

「あとアスカも言ってたそのセレナさんって誰?」

「あ、それはウルズスラ冒険者組合の職員の人で、オレたちが滞在中色々世話になったんだよ」

「そうそう、とっても優秀で美人で優しい人よ」

「その情報はどうでもいいわ。で、ウルフォードおじさんってどういう意味なのジュリア」

「ウルフォードおじさんはウルフォードおじさんよ。サウラおばさんの旦那さんだもの」

「おい、ジュリア。全然事情知らない人にその説明じゃ何も伝わらないだろ」

「そうよ! 今度はジュリアがいちから詳しく説明なさい!」


 リズの勢いに押されて3英雄との関係を根掘り葉掘り追及されるジュリア。

 

 アスリーデ王国生まれのリズからすると、いや恐らくトット村出身者以外の全ての人にとっては、ジュリアの置かれた環境――英雄と称される人物が常に身近に複数存在していて、それとは知らずに一緒に生活してきた事――は到底信じられない、想像を超えたものであり、ある意味羨望の対象となる貴重な経験なのだろう。

 

 しかしいくらジュリアに聞いても、ジュリアが話せるのは父親としてのガラドであり、その友人である普通のおじさんオットであり、幼い頃死んだと聞かされているアキラの事でしかなかった。

 

 英雄としての村での暮らしぶりや、本人の貴重な体験談、周囲の人の称賛ぶりや待遇など、世の中の人々が知りたいであろう内容はなにひとつ得る事が出来ないと理解したリズは心底落胆し、大きく溜息をついて頭をわしゃわしゃと掻き回した。


「なんてこと……」


 どこにぶつけていいのかわからない憤懣の籠ったリズの呟き。


「なぁリズ。どうしてそんなトットナムにこだわるの?」

「それは……祖国を救ってくれた英雄だもの。知りたいと思うのは当然でしょう」

「ふぅん。でもオレやジュリアにとっては英雄って言われてもピンとこないだけなんだよなぁ」

「それはあなたたちが知らなすぎるからでしょ」

「知らなすぎるっていうか、トット村の中が外の世界と違い過ぎてる気がしてきたよ」

「それどういうこと?」

「アスリーデ戦役とかトットナムとか、村の中では本当に一度も耳にした事がなかったから。なんか意図的にそうしてるのかなって勘繰りたくもなるよ」

「そうね。私も村を出てこの話を聞いてから不思議でしょうがなかったもの」

「それなら村へ行って直接聞いてみればいいじゃない」

「え!?」

「それが出来れば苦労はしないわ……」


 ジュリアが自嘲的に答えるが、リズには何の事やら。

 ピンピンには一応この辺の事情も軽く話してあるから、おとなしく聞いている。


「どういうこと?」

「私たち、村を追放されて冒険者をやってるのよ。だから村には当分戻れないの」

「追放ですって!? ジュリアと……アスカも? 一体何をしたのあなたたたち」

「キュベラスを倒しただけなんだけどなぁ」

「アスカ、今なんて?」


 リズが血相を変えて立ち上がった。

 え、なんか問題でもあった?


「キュベラスを倒しただけって……」

「キュベラスを倒したですって!? アスカとジュリアが? 2人で?」

「違う違う。他にお父さんもいたし、警護団のみんなやサッカリアの人達もいたから……」

「それにしてもよ! そもそもキュベラスなんて伝説級の魔物、どこに現れたっていうの!」

「トット村の近くの森に……」

「ありえないわ!」

「ロビィも確かそんな事言ってたよな。キュベラスは普通にこの世界に存在する魔物ではないから、誰かが召喚した可能性が高いって」

「そう言えばそうね。でも召喚ってまさか……」


 ジュリアが考えた事……オレも自分で口に出してみて初めてそれに気が付いた。


「ちょっとあなたたち、私たちが朝から相手にしていた相手は何だったかしら」

「死霊種……召喚された」


 リズの冷静な質問にジュリアが答える。


「でもあれは死霊種だろ。キュベラスとは別なんじゃないの?」

「もちろん別だけれど、魔物を召喚するという意味では同じ行為よ」

「そんな……でも西の森にシャイア教の人がいたなんていう話は……あっ!」


 急に何かを思い出したかのようにジュリアが固まる。


「ジュリア! どうしたの?」

「そう言えば、アスカが村に来る少し前、シャイア教の人が何人か村に立ち寄ったって話を誰かがしてた気がする……」

「なんだって?」


 おい、そんな話初耳だぞジュリア。


「確か、旅の途中で物資の補給のために立ち寄ったっていう話だったような……。あの恰好だから目立つし、滅多に村にシャイア教の人なんか来ないから珍しかったみたいで……そうよ! 警護隊の宿舎でみんなで集まっていた時にティックが言ったのよ!」


 ティックって、確か調査団を探しに行った時にいたような。

 ジュリアと同級生だったんだっけ?

 顔は……思い出せない。


「念のため村を出た後も様子を見ていたら、西の森へ入って行ったって言ってた気がするわ」

「まさか! それじゃキュベラスもシャイア教徒が召喚したのか?」

「充分あり得るわ。いえ、今の話からじゃそれ以外の可能性を考える方が難しいわね」


 オレもリズに全く同意見だ。


「するとシャイア教はここだけじゃなく、ゴルテリアでも召喚実験をしてた事になるな」

「でも、一体何のために?」

「それはわからないけれど、どうせロクな目的じゃないでしょうね」


 またしてもリズに全く同意見だ。

 

 それにしても今ここにロビィがいないのが本当に惜しまれる。

 今の話は絶対にロビィも興味があるはずだ。

 リグナスに知らせる情報として必要不可欠なんじゃないだろうか。

 

 だって、西の森に火を放ったのはリグナス達だったわけだから、当然あそこで何が行われていたのか調査していたはず。

 この情報が加わる事でまた新たな発見や方向性が見えてくるかもしれないのに……。

 

 いや待てよ。

 既にロビィはその可能性に気付いていたのかもしれない。

 西の森とカカ山で行われていた事の共通点に。

 むしろロビィが死霊たちと実際に戦った上でそれに気付かないはずがない。

 なるほど、それなら別に構わない。

 ロビィを、森の民を、信じよう。

 信じて待とう。

 

 でも、自分たちで調べられるものは自分たちでやらないとね。

 ロビィと再会した時、こちらからも新しい情報を提供できないとなんか悔しいし。


「ちょっとどうしたのアスカ?」

「あ、ううん、なんでもない。ちょっと考え事」


 ジュリアに顔を覗きこまれ、慌てて我に返った。

 

 ダメだなぁ、オレは実年齢の割に本当にまだまだ未熟だ。


 すると、そこへちょうどマリュウが到着した。

 何故かシンを連れて……え!?

 

「只今戻りました。シャイア教の方ですが、早速組合の査察が入ったようなのでこれ以上おかしな動きは出来ないかと」

「そう。お疲れ様、マリュウ」


 リズもこれまでの話があまりに刺激が強すぎたらしく、マリュウの登場でほっとしたような表情を見せた。


「あの、すみません。本当にボクもいいんでしょうか。御邪魔ならすぐ帰りますので」

「何言ってるのよシン。いいに決まってるじゃない!」

「そうよ、早く座りなさい。あ、師匠の隣はダメよ」


 あれ、ピンピンの声聞いたの久しぶりな気がするw

 オレたち勝手に盛り上がってたからなぁ。

 置いてきぼりにしてごめん、ピンピン。


「マリュウさん、シャイア教施設にもう査察が入ったって本当?」

「ええ、この目で確認しました」


 意外と仕事早いんだなダモネフ組合長。

 ちょっと見直したぞ。

 

 そうこうしている内に席次が以下のような感じに落ち着いた。

 

――――――――――――――衝立

  オレ ジュリア シン

 +―――――――――――+

 |   テーブル    |

 +―――――――――――+

 ピンピン リズ マリュウ

――――――――――――――衝立


「マリュウ、シンとはどこで?」

「はい、リズ様。シャイア教の施設から戻る途中、冒険者組合の前でバッタリと」

「そうなんです。組合長のダモネフさんに捕まってなかなか帰してもらえなくて……」

「え!? あれからずっと組合の中にいたの?」


 さすがにびっくりして聞いてしまった。

 オレたちが出てから軽く2時間以上は経ってるぞ。

 

 まさかダモネフ組合長、そっち系の趣味の人でシンに対して……いやいや、ヘンな想像してる場合じゃなかった。


「はい、そうなんですよアスカさん。出来ればボクも一緒に連れて行ってほしかったです」

「いや、それはちょっと……」

「そうよ、何言ってるのよずうずうしい」

「シンは師匠へ近づくの禁止で」


 オレが絡むとジュリアとピンピンのシンへの当たりがきつくなるようだから自重しよう。

 まぁ森の中でシンがヘンな事口走ったのが元凶だから自業自得ではあるが。

 

「それでシン、あなたの家の事について少し聞きたいのだけれど」


 リズがまた質問責めを開始しそうな気配。


「はい。なんですかエリザベス様」


 ぷっ。

 思わず噴き出す所だったじゃないか。

 まだその呼び方なのかよ、シン。

 

「お願いだからその呼び方はやめて。マリュウ、あなたのせいよ」

「しかしリズ様、あまり気易く渾名で呼ばせるのはいかがなものかと」

「あら、リズの何がダメなのよマリュウ。言ってみなさいよ」


 出た、ジュリアのフェイク酔っぱらいモード。

 都合のいい時にいつでも発動できる便利機能。

 

「ジュリアさん、もう酔っているのですか」

「ジュリア、あなたさっきまで普通に話してたじゃない。どうしたの急に」


 おいリズ! 種明かしやめれ。

 そこは大人の対応でそっとしておくのが礼儀ってもんだろう。


 ほら、もうマリュウが色々と察しちゃったじゃないか。


「あの~、それでボクは結局何てお呼びすればいいのでしょう?」


 おそるおそるシンが尋ねる。


「リズでいいわよ」

「エリサベス様のままに決まっています」


 リズとマリュウが2人同時に返事をしたが、セリフの長さと勢いとで圧倒的にマリュウが優っていたので、仕方なくシンはそのままエリザベス様呼びに決定した。


 続いてリズがシンにさっきの質問を改めて聞き、シンが答え始める。

 

 要約すると、シンの家はラインガルド剣術三流派に数えられる名門のひとつ、ミツルギ流の家元でシンはその当主ソウジ・ミツルギの三男。長男次男と共にミツルギ流師範代の地位にあるが、道場は長兄2人に任せ自分は見聞を広める&武者修行という名目の下、気侭に冒険者をさせてもらっているのだそうだ。

 

 また、ミツルギ家は資産家としても有数で、グルドのみならずラインガルド全土で有力者との交友関係が広く、経済的にも政治的にも一目置かれる存在なのだと言う。

 

 このひょろっとしたシンがそんな名家のボンボンだったなんて……。

 みな驚いていたものの、だからといって今更シンをもてはやしたり特別扱いするような事が出来るはずもなく、相変わらずシンはシンとして扱われるのだった。

 

「しかし、確かミツルギ家というのはポポロ領にあるのではなかったでしたか」


 マリュウが思い出したようにシンに聞く。


「ええ、そうです。父の家も道場もポポロ領のクラリスという町にあります。ボクは3歳まで母の実家があるリト村で生まれ育ったので、そっちが生まれ故郷なんです」


 なるほど。

 でも生まれてから3年間も母方実家にいたって、何か事情でもあったのかな。


「なんだかあなたも訳ありな雰囲気ね。もうそんな話はお腹一杯よ。今夜はもっと別な、気楽で楽しい話がしたいわ」


 リズがいかにもうんざりな様子で言うので、当のシンはややしょげている感じだったが別にシンは悪くないからね。


「それじゃ、明日もらう予定の今回の依頼の報酬について!」

「それがどうかしたの、ジュリア」


 ピンピンが素で聞く。


「誰が一番多くもらうか、賭けるってのはどう?」

「つまらないわ。そんなの師匠に決まってるじゃない」

「わからないわよ。5等級も手当の対象になるんだし、意外とリズたちも善戦するかも」

「善戦とは聞き捨てならないわね」

「リズ様、たかが賭け事です。そうムキにならなくとも」

「ムキになんかなってないわ。ただ、面白そうじゃない」

「それじゃ、リズものるのね。じゃあ当てた人に銀貨1枚ずつね」


 ジュリアが勝手にルールを決め始めた所へ、横からシンが申し訳なさそうに口を挟む。


「あの~すみません。ひとつ質問なんですけど、その報酬ってボクももらえるんでしょうか?」

「何言ってるのよシン! あなた助けられた方でしょ」

「そうなんですけどピンピンさん。ボクも結構死霊をやっつけたと思うんですよ」

「確かに。っていうかオレたちシンがいなかったらやられてた可能性大だよな」

「アスカさん! ありがとうございますッ!」


 シンが思いっきり頭を下げてゴツンとテーブルに額をぶつける。

 うわ~、見てるこっちまで痛いよ。


「そんな事言っても依頼に登録してないんだから手当なんてもらえるわけないでしょ」

「そんなぁ~、ジュリアさん。何とかしてくださいよ~」

「私が決める事じゃないし。ダモネフと2時間も2人っきりだったんだから自分で頼めば良かったでしょ」

「ああ~ッ! そうだった! くっそ~」


 このシンってヤツもどっか抜けてるんだよなぁ。

 金持ちの三男坊ってこんな感じのヤツ、多いのかな。


 そしてジュリア提案の賭けだが、オレとリズに完全に2分されてしまったため、つまらないという事でチャラになった。


 その後は不穏な空気になる事もなく、主にシンを肴にしてみんなで飲み食いして楽しく過ごした。

 

 ここの主人の料理は創作料理系だったが超一流の味で、どの料理も一口食べる度に唸らされる出来栄えだった。

 ただ、おかげで時間が経つにつれて御代の方が心配になってきましたよ。

 

 こうして夜もだいぶ更けてきた頃、やはりこの人からお開きムードへ移行していった。


「リズ様、そろそろ時間も時間ですので」

「ええ、そうね。悪いけどそろそろ私たちは失礼させてもらうわ」


 リズとマリュウは少し頬が赤くなっている。

 顔に出やすい体質なのか、本当に酔ってきているのかはわからない。

 だが、この辺りで切りあげるというマリュウの判断は非常に正しい。

 

 しかし、リズたちが席を立とうとする所へ、ジュリアが待ったをかけた。


「あ、リズ! 例の話はどうするの?」

「ああ、その話ね。マリュウ、どう?」

「はい、リズ様。私の方は特に」


 いつの間にか2人の間では何らかの話し合いがもたれていたのだろうか?

 全然そんな会話、聞こえてこなかった気がするけど。

 トイレ行ってる時とかか?

 いやいや、連れションは行ってなかった気がする。


 リズがジュリアに答えを言った。


「条件付きでいいなら、喜んで合流するわ」

「条件……って何!?」


 一応はOKという返事のようだが、条件とは何だろう?

 ジュリアも怪訝そうな表情をして首を傾げている。


「私たち、ある目的のために旅をしているの。だから、今後もしそれに関する有力な情報が得られた場合、私たち2人は別行動を取らせて欲しいの」

「別行動? ある目的って……」


 まだよく呑み込めないジュリアが助けを求めるようにこっちを見る。

 いや、オレもよくわからないのは一緒だぞ。


「私とリズ様はかつてアスリーデ王国におられたビスマルク卿の行方を追っているのです」

「ビスマルク卿って誰?」

「かつてアスリーデ王国の重鎮と呼ばれたエーリッヒ・ビスマルク公爵よ」

「リズ、そのビスマルク公爵をどうして探しているの?」


 ジュリアの質問はもっともだ。


「9年前に失脚してから行方がわからなくなったの。私の恩人でもあるから心配で」

「リズ様はビスマスク卿の身を案じ、何とか手を差し伸べたいと考え探しておられるのです」

「って事はリズの家も有名な貴族だったりするの?」


 今の話の流れだとそうなるよな、と思いつつ聞いてみる。

 

「いいえ。うちはただの地方のいち貴族よ。でもビスマルク卿はそんな私たちとも親しくしてくださって、本当に恩義があるのよ」


 うんまぁあまりその辺の家庭の事情までは深く聞こうとは思わないから大丈夫。

 必要ならまた聞く機会があるだろうし。


「それじゃ、リズさんとマリュウさんはその人を探すために、冒険者として旅をしているんですか?」

「はい、そうなります」


 ピンピンが2人の目的を端的にまとめた所でジュリアが裁定を下す。


「いいわ。その条件、呑むわよ」

「ありがとう、ジュリア」

「ありがとうごございます」


 リズとマリュウが立ち上がって一礼する。

 つくづく絵になる2人だ。


「礼なんかいらないわよ。これからは仲間なんだから。よろしくね、リズ! マリュウ!」

「ええ。こちらこそよろしくジュリア。アスカとピンピンも」

「よろしくお願いします。ジュリアさん、アスカさん、ピンピンさん」

「よろしくリズ、マリュウさんも」

「よろしくお願いします。リズさん、マリュウさん」


 こうしてリズとマリュウもギルドに加わる事になった。


「えっ、なんですか? どうなってるんですか? みんな一緒のギルドに入ったんですか? ピンピンさんも?」


 シンだけが事情がわからずにオロオロしている。


「あの、それじゃ改めてボクも森のジュリアスに入れてくださいッ!」


 慌てて立ち上がり、元気良く大きな声で深々と頭を下げたシンだったが――。


 シーン。

 

 静寂の後、ジュリアが軽い調子で言い放った。


「ごめんねシン。男はパス」

「そんなぁ~~~ッ、どうしてボクだけぇ~~ッ!!」


 プラトゥーンのポーズで嘆いたってダメだぞシン。

読んでいただき、ありがとうございます。

ギルドメンバーが5人の所帯になった所で、心機一転となるか。

この先はなるべくテンポよくサクサクと進めたいですね……出来るかな。

引き続き応援よろしくお願いします

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