第24話:夕暮れの東海道新幹線と、誇り高き帰還
美濃ダンジョン一般開放二日目、月曜日の夕暮れ。
岐阜羽島駅から鹿児島中央駅へと直通する九州新幹線「み〇ほ」の最前列・グリーン車の一角には、心地よい車輪の走行音と静寂が満ちていた。
指定席のシートに並んで腰掛けているのは、私とサキ。
サキの膝の上には、ホテルで預かっていた手荷物と、私がアイテムボックスから小分けにして渡した『銀斑鈴蘭』のアロマ試作品。
そして私の膝の上には、最新型のタブレット端末が広げられていた。
「ねえあかね、見て見て! スレの更新速度、昨日よりさらに加速してるんだけど!」
「わ、本当だ……! 二層の情報だけじゃなくて、一層の周回報告もいっぱい上がってる……!」
通路を挟んだ隣のシートでは、私服姿の橘一尉が書類に目を通しつつ温かい眼差しをこちらへ向け、熊倉二曹は早くも缶ビールを片手にリクライニングを深く倒してくつろいでいた。
車内Wi-Fiを通じて読み込まれた画面には、美濃ダンジョンを駆け抜けた数万人の探索者たちの熱気と、今日私たちが遭遇した「あの出来事」についての生々しい書き込みが溢れかえっていた。
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【美濃2日目】第1層周回&第2層大河到達報告スレ Part.35【救助神対応】
1 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:35:10.22 ID:MinoDay2Net
美濃ダンジョン一般開放二日目、お疲れ様でした!
第1層での採取・狩り報告、第2層(草原〜大河エリア)の攻略情報、そして本日現地で起きた出来事について語り合う総合スレッドです。
■本日の主なトピック
・第1層:スライム狩り&野菜・ベリー採取が完全に定着。初心者の安全な稼ぎ場として機能中。
・第2層:美濃大河手前まで一般探索者が進出。アシッドスライムや水棲コボルトの出現を確認。
・【超重要】第2層中州にて遭難しかけた新人パーティー、笹貫あかね特務小隊により無事救助される!
・あかねちゃん、新種の水生霊草『紫水仙草』や超高熱源『美濃黒泥炭』をまたしても発見。
前スレ:【美濃2日目】第1層周回&第2層大河到達報告スレ Part.34
[http://to〇ho.net/mino/34/](https://www.g〇gle.com/search?q=http://to〇ho.net/mino/34/)
11 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:37:05.45 ID:KusaTsumiMan
スレ立て乙!
今日も第1層で白蕪とルビーベリー収穫してきたぜ!
昨日あかねちゃんがベリー食って「甘ぁぁい!」って悶絶してた場所、探索者が殺到してちょっとした観光地になっててワロタ。
でも乱獲されないようにみんなで「一人三房までな!」って自主ルール作ってて民度高かったわ。
23 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:39:18.89 ID:SlimePro
第1層はマジで平和そのものだな。
スライムから落ちる砂糖と塩、普通にスーパーで売ってるやつより明らかに純度高くて料理が化ける。
うちのオカンが「明日もスライム狩って砂糖持ってきなさい!」ってパート感覚で送り出してきたぞ。
37 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:41:40.12 ID:RiverWatcher
そんな牧歌的な第1層と違って、第2層はやっぱり空気違ったわ……。
水路が増えて足元取られるし、アシッドスライムの酸で靴溶かされかけた奴が何人もいた。
JDAの安全講習で言われてた「属性対策の重要性」を痛感したわ。
49 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:43:55.67 ID:TasukattaLeader
……あの、スレの流れぶった切って申し訳ない。
今日、第2層の中州でリバーコボルトの群れに囲まれて死にかけてたパーティーのリーダーです。
いま岐阜市内の病院で検査終わってホテルに戻ったところなんだけど、どうしても書き込ませてほしい。
61 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:45:12.34 ID:DanOta01
> > 49
> > うおっ、本物!?
> > Totterで噂になってた、あかねちゃん小隊に助けられたっていうパーティーか!?
>
>
75 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:47:00.89 ID:TasukattaLeader
> > 61
> > 本物です。
> > 俺たち、第1層で調子に乗って「水辺なら珍しい薬草があるかも」って軽い気持ちで第2層の葦原に入り込んじまった。
> > そしたら水棲コボルト十頭以上に完全包囲されて、銛で右肩を深く刺された。
> > 盾役の友達も盾をボコボコにされて、ポーションも底をついて、本当に「あ、ここで死ぬんだ」って目の前が真っ暗になった。
>
>
88 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:49:22.01 ID:GachiShield
ヒエッ……。
やっぱりコボルトは知能あるから囲い込み仕掛けてくるのか。
初心者が一番やっちゃいけないやつだ。
102 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:51:45.34 ID:TasukattaLeader
もうダメだと思った瞬間、頭の上にいきなり八角形の巨大な光のドーム(結界)が降ってきた。
コボルトの銛がガキィィンッ!って火花散らして弾き返されて。
次の瞬間、空から熊倉二曹が降ってきて「オラァッ!!」ってシールドアタックで五頭まとめて吹き飛ばした。
続いて橘一尉が神がかった精密射撃で一瞬でコボルトの武器と足を撃ち抜いて無力化。
本当に、一瞬の出来事だった。
118 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:54:10.56 ID:MikoGami99
> > 102
> > うおおおおお!!
> > やっぱりあかねちゃんチームだったのか!!
> > そのあとどうなったんだ!?
>
>
132 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:56:33.89 ID:TasukattaLeader
あかねちゃんが走ってきて、俺の傷口を見るなり「大丈夫です」って微笑んでくれて。
胸元から取り出したエメラルドグリーンのポーションを一滴、肩に垂らしてくれたんだ。
そしたら傷口から緑の光が溢れて、パックリ割れてた肉と皮膚が一瞬で、本当に数秒で塞がった。
痛みも消えて、失血で朦朧としてた頭がスッキリして……病院の医者に見せたら「傷跡すらない、どんな奇跡だ」って絶句してた。
145 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 17:58:50.12 ID:PotionNerd
数秒で肉が塞がるポーション……!?
それ、協会の買取リストにも載ってない特級品だろ!
あかねちゃんのお兄さん(錬金術師)が自宅で手作りしたって噂のやつか!?
160 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:01:15.67 ID:TasukattaLeader
帰り道用の地図に安全ルートを赤ペンで書いてくれて、予備のポーションとルビーベリーまで持たせてくれた。
熊倉二曹には「引き返す勇気を持て、それがプロの第一歩だぞ!」って背中叩かれて、涙が止まらなかった。
俺たち、本当に愚かだった。
あかねちゃんの開会式での「命を大事にしてください」って言葉の重みを、身をもって知ったよ。
あかねちゃん、橘さん、熊倉さん、本当に命を救ってくれてありがとうございました。
一生かけて、恩返しできる立派な探索者になります。
178 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:03:40.45 ID:NamidaMe
いい話すぎるだろ……。
生きて帰れて本当によかったな。
そしてあかねちゃんたち、マジで聖者かよ。
192 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:06:05.12 ID:KuroDeitan
その人命救助の合間に、新素材をゴッソリ持ち帰ってるのがあかねちゃんの真骨頂なんだよなぁ。
JDAの公式速報見たら、またとんでもない素材が追加されてたぞ。
【速報:美濃第2層採取成果】
・紫水仙草:清流に自生する水生霊草。高純度解熱・火傷治癒薬の原料。
・美濃黒泥炭:泥炭層から採掘。無煙で石炭の五倍の熱量を放つ超高熱源燃料。
・緑風の魔銅鉱:風魔素を宿した超軽量高伝導銅鉱石。
石炭の五倍の熱量って何事だよwww
鉄鋼業界とガラス業界の社長たちが協会本部に土下座して買い付けに走ってるらしいぞ。
208 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:08:33.89 ID:LogiKing
しかも美濃大河の河原まで到達して、水質調査と安全マップの作成まで終えてるからな。
最短ルートの石橋の耐久度チェックも完了したらしい。
明日から第2層に挑む探索者たち、あかねちゃんが敷いてくれた安全マージンのおかげで事故率激減するぞこれ。
225 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:11:00.34 ID:TachibanaOshi
救助の手際の良さ、自衛隊のプロフェッショナルとしての誇りを感じるわ。
橘一尉の精密射撃で部位破壊して無力化、熊倉二曹のシールドでヘイト集約、あかねちゃんの結界とチートポーション。
誰一人欠けてもあの救出劇は成り立ってない。
241 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:13:22.01 ID:SakiCraftLove
てか、あかねちゃんが身につけてた足首のアンクレットと胸元のブローチ!
ホテルの目撃情報によると、あかねちゃんの専属細工師の友達が現地ホテルの部屋で徹夜で作ったらしいぞ。
泥に沈まないアンクレットと、アシッドスライムの酸を中和するブローチ。
あの友達の子、マジで現代の伝説の鍛冶屋枠だろ。
258 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:15:55.67 ID:KagoshimaKaeri
あかねちゃん小隊、もう岐阜羽島から新幹線乗って鹿児島に帰還中らしいな。
三日間の公欠のうち、二日間で美濃の開拓と救助を完璧にこなして颯爽と去っていくの、マジでヒーローすぎる。
272 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:18:10.45 ID:KiriNext
美濃のピクニックが終わったってことは……。
いよいよ次は、【霧島第一ダンジョン・第6層】の探索再開か……!?
285 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:20:35.12 ID:GachiKirishima
美濃でほのぼのした後に、国内最難関の地獄へ舞い戻るあかねちゃん……!
第5層の白熊公を倒したあとの階段、地鳴りと機械音みたいな不気味な音が響いてたよな。
第6層は一体どんな環境なんだ?
洞窟、樹海、溶岩、草原、氷雪ときて、次は……?
300 :名無しさん@探索二日目:203X/03/16(月) 18:23:00.00 ID:MinoDay2Net
美濃の探索者一同、あかねちゃんたちに心からの感謝を!
鹿児島に無事に帰って、ゆっくり休んでほしいね。
霧島の第6層アタックも、全裸正座待機で応援するぞ!!
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「……ふふ、よかったね、あかね。」
隣でタブレットを覗き込んでいたサキが、目を細めて優しく微笑みかけてくれた。
画面の中では、助けられたパーティーの青年が何度も感謝の言葉を綴り、スレッド全体が温かいエールで満ちていた。
「うん……。本当に、間に合ってよかった。」
私は膝の上でぎゅっと手を握りしめた。
あの時、迷わず走り出して結界を張ったこと。兄ちゃんのポーションを信じて託したこと。
すべてが、一つの尊い命を地上へ繋ぎ止める力になった。
「アンタの耳と尻尾、伊達じゃないわね。ちゃんと誰かのSOSを聞き取って、救い出すための神様の耳よ。」
サキが私の左耳の巫女リボンを指先でちょんと突いた。
「サキのブローチとアンクレットがあったからだよ。あれがなかったら、酸を警戒して足が止まってたかもしれないもん。」
「へへっ、でしょ! 私たち、最強のコンビなんだから!」
誇らしげに笑うサキ。
けれど、その声はどこか微かに掠れ、まぶたが重たそうに落ちかけていた。
考えてみれば、サキは美濃に来てから、私の巫女装束を仕上げ、昨夜は徹夜でアクセサリーを削り出し、今日はずっとホテルで素材の調合実験を続けていたのだ。
私だって、第2層の湿原を何十キロも歩き回り、泥炭を掘り、モンスターと戦ってきた。
新幹線の心地よい揺れ。
空調の効いた車内に漂う、サキの作った銀斑鈴蘭の微かなリラックスアロマ。
夕暮れの茜色の光が車窓を赤く染め、遠くの街並みが流れるように過ぎ去っていく。
「……ふわぁ……」
サキが小さくあくびを噛み殺した。
「あかねぇ……ちょっとだけ、肩貸して……」
「うん……お疲れ様、サキ……」
サキの頭が、コテンと私の左肩へと預けられた。
規則正しく、静かな寝息が聞こえ始める。
その温もりを感じながら、私もまた、抗いがたい強烈な睡魔に襲われていた。
頭の上の狐耳がふにゃりと脱力して前へ垂れ、腰の後ろの黄金の尻尾が、シートの隙間で丸まるように小さく丸まった。
タブレットの画面がスリープモードに入り、暗転する。
視界の端で、窓の外の夕日が沈み、群青色の夜の帳が降りていくのを見つめながら、私の意識は温かい微睡みの海へと溶けていった。
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「……寝ちまったな。」
通路を挟んだ席で、熊倉二曹がビールの空き缶をホルダーに置き、フッと口元を緩めた。
橘一尉も読んでいた防衛省の報告書を膝の上に伏せ、眼鏡を外して静かに二人の寝顔を見つめた。
あかねの頭はサキの頭と寄り添うように傾き、二人はまるで幼い姉妹のように、安らかな寝息を立てていた。
あかねの白無垢の巫女羽織が、車内の微風に揺れてサラサラと擦れ合っている。
「まだ十六の、普通の女子高生ですからね。」
橘一尉が、誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。
「世界中から注目され、大人たちの期待と欲望を背負わされながら……それでも彼女は、道端の草花に目を輝かせ、見知らぬ誰かの命のために迷わず前へ走る。……本当に、得難い少女です。」
「まったくだ。」
熊倉二曹が分厚い腕を組み、満足そうに鼻を鳴らした。
「俺たちの役目は、あいつのあの無垢な笑顔を守り抜くことだ。美濃の連中はあいつを『聖者』だの『女神』だの拝んでるが……あいつはただの、冒険が大好きな心優しいお嬢さんなんだからよ。」
熊倉二曹は座席の上の棚から、自衛隊支給の厚手のウール毛布を静かに引き下ろした。
足音を忍ばせて歩み寄り、身を寄せ合って眠るあかねとサキの肩へ、ふわりと優しく毛布を掛けてやる。
あかねの狐耳が、毛布の感触に心地よさそうにピクンと一度だけ跳ね、それから一層深く沈み込むように丸くなった。
「……ありがとう、熊倉二曹。」
「へっ、これくらいしかできねえからな。」
熊倉二曹は自分の席に戻ると、窓の外の漆黒の闇を見つめた。
列車は時速二百キロを超える猛烈なスピードで、西へ、九州・鹿児島へと夜のレールを滑り続けている。
「……なあ橘。」
「何ですか?」
「美濃の平和な草原も悪くなかったが……やっぱり、俺たちの本拠地はあそこだな。」
熊倉二曹の視線が、手元のスマートフォンに表示された、霧島前線ベースキャンプのライブカメラ映像へと向けられた。
夜霧に煙る霧島連山。
その麓、サーチライトに照らされた青白いダンジョンゲート。
「ええ。」
橘一尉の瞳に、再び研ぎ澄まされた軍人としての静かな闘志が宿った。
「美濃で得た新たな素材――紫水仙草による超高純度治癒薬、そして美濃黒泥炭がもたらす耐熱装備の技術革新。それらは全て、霧島の深層を切り拓くための強力な力となります。」
赤城燈主任から届いていた最新の解析メッセージ。
『第五層の白熊公の先、第六層の観測データ……地脈の波形が異常よ。機械的なパルス信号と、未知の重金属反応を検知。あかねちゃんが戻り次第、即座に第六層アタックのブリーフィングを開始するわ!』
未踏の領域。
国内最難関、地下100層を目指す過酷なる迷宮。
氷雪を越えた先に待つ、未知なる『第六層』。
だが、どんな困難が待ち受けていようと、恐れはなかった。
最強の盾があり、無二の銃があり、地上で支える仲間がいて、そして何より――大地を愛し、生命を慈しむ、誇り高き霊狐の少女がいる。
「しっかり寝かせといてやろうぜ。明日からはまた、大忙しだ。」
「そうですね。」
静寂に包まれた新幹線の車内。
温かい毛布に包まれたあかねの口元には、かすかな、幸せそうな微笑みが浮かんでいた。
新時代の光を灯した少女を乗せて、列車は夜の闇を切り裂きながら、遥かなる故郷――霧島の地へとひた走っていった。




