第22話:美濃の夜宴と、ホテルの一室の秘密工房
美濃ダンジョンが一般に開放された記念すべき三月十五日の夜。
岐阜県美濃市内のホテルや旅館は、全国から詰めかけた数万人規模の探索者たちと報道関係者、そしてダンジョン特需に沸く観光客で完全に埋め尽くされていた。
市内の老舗シティホテルの最上階、防衛省と探索者協会によって厳重にセキュリティが敷かれたスイートルームの一室。
そこでは、ベッドの上にクッションを抱えて腹ばいになった私と、すぐ隣の丸テーブルを即席の作業台に改造してメガネを光らせているサキの姿があった。
「あーかーねぇ! ちょっとこれ見てよ! トレンドの一位から十位まで、全部アンタと美濃ダンジョンで埋まってるんだけど!!」
「わ、わっ……ちょっとサキ、揺らさないで! タブレット落としちゃうから!」
サキの手には、今日私が第1層の岩山から持ち帰ったばかりの『緑風の魔銅鉱』と、精密彫刻刀。
テーブルの上には、超音波研磨機や万力、そして兄・晃から持たされた特殊な触媒液の小瓶がズラリと並んでいる。
サキは戦闘職ではないためダンジョン内には同行しない。けれど、私が持ち帰ったばかりの新鮮な素材を現地で即座に加工・調合し、次の階層へ向けた専用装備を仕立て上げる――そのための『専属特務クラフター』として、防衛省の特例公務出張の枠で一緒に美濃へ同行していたのだ。
ちなみに、明日月曜日からの三日間、私たち二人は学校を『国家特務公務に伴う特別公欠』として堂々と休む許可をもらっていた。担任の先生も校長先生も、「世界のためだ、行ってこい! 追試は後でな!」と笑顔で送り出してくれたのだ。
「ふふ、公認で学校サボってホテルで素材いじりとか、マジで人生最高潮だわ……! ほらあかね、スレ更新されたよ!」
二人の視線の先、タブレットの画面には、秒速数十レスのペースで加速し続ける掲示板の光景が広がっていた。
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』【祝・美濃解禁】一般探索者たちの初日戦果報告スレ Part.18【あかねちゃん巫女尊い】』
1 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:02:14.33 ID:MinoStart01
203X年3月15日、美濃ダンジョン一般開放初日お疲れ様でした!
初日の戦果、ドロップ報告、初心者の感想、そして式典のあかねちゃんの可愛さについて語り合うスレです。
■本日の重要トピック
・美濃ダンジョン第1層、怪我人ほぼゼロで初日無事終了!
・スライムから「食卓塩」「純白砂糖」のドロップ確認多数。
・野生の「ルビーベリー」「大地の白蕪」の自生を確認(味は極上)。
・式典の笹貫あかねちゃんの霊狐巫女装束が全世界でトレンド1位。
・あかねちゃん一行、第1層をのんびり散策しながら素材を乱獲していた模様。
前スレ:【祝・美濃解禁】一般探索者たちの初日戦果報告スレ Part.17
[http://to〇ho.net/mino/17/](https://www.g〇gle.com/search?q=http://to〇ho.net/mino/17/)
8 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:03:45.12 ID:SlimeHunter
スレ立て乙!
いやー、生きて帰ってきたぞ! めちゃくちゃ楽しかった!!
スライム三匹狩って、食卓塩の小袋二つと極小魔石ゲットしたわ。
今日の晩飯、その塩で塩むすび作ったんだけど、マジで米の甘みが引き立って失神するかと思った。
19 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:05:02.89 ID:KusaTsumiGirl
女子大生三人パーティーで薬草摘み行ってきた!
最初はビクビクしてたけど、第1層は視界が広くて風が気持ちよくて、ピクニック気分だったよ〜。
普通のヒールハーブでも協会で1束3000円で買い取ってもらえた!
バイトするより全然稼げるし、何より空気が美味しい!
32 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:07:22.45 ID:GachiKenshi
> > 19
> > 初日は大成功だったな。
> > 広さが東京23区丸ごと分あるから、何千人入っても全然混雑しなかったのが最高。
> > トラブルも起きないし、モンスターの湧きも適度。
> > 初心者の育成環境としては世界一なんじゃねえかな美濃は。
>
>
45 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:09:11.78 ID:MikoLove99
そんなことより式典のあかねちゃんだろ!!!!
おい見たかあの白無垢巫女服!?!?
純白の羽織に深紅のキュロット、左耳の鈴付きリボン、そして揺れる金の尻尾!!
マイク両手で握って「無理をしないでください!」って言われた瞬間、会場にいた全探索者が「命大事にする!!」って心に誓ったぞ。
58 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:11:34.01 ID:Kameraman07
> > 45
> > わかる。
> > 海外のニュースでも「Japanese Fox Shrine Maiden Opens the Dungeon」ってトップニュースで流れてたわ。
> > 美濃の青空にあの巫女姿は完全に反則。
> > 撮った写真が全部奇跡のグラビアになってて選べない。
>
>
72 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:13:55.23 ID:CraftFanSaki
あの巫女服、あかねちゃんの友達の専属細工師(高校生)が手作りした特注品らしいぞ。
霧島第1層の鋼線蜘蛛の糸を織り込んでて、至近距離からの散弾銃すら弾くAランク防具なんだとか。
デザインセンスも性能もチートすぎて草生える。
85 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:15:40.89 ID:MinoMokugeki01
てか、今日第1層であかねちゃん一行を目撃したやつおる?
俺、ゲートから二キロくらいの草原でスライム追いかけてたら、普通に横をあかねちゃんと自衛隊の二人が歩いてって心臓止まりかけたんだが。
98 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:17:12.34 ID:MinoMokugeki02
> > 85
> > いたいた!
> > 俺も見た! あかねちゃん、道端のなんの変哲もない草むらに急ブレーキかけて、
> > 「わぁぁっ! 宝物です!!」って叫んで園芸用スコップでなんか掘り出してたぞww
> > 後ろの熊倉二曹が片足上げたまま「えっ!? 敵!?」ってフリーズしててクッソワロタ。
>
>
112 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:19:45.67 ID:Herbalist
> > 98
> > それ、さっき協会の速報掲示板に出てたぞ!
> > 【速報:笹貫あかね特務探索員により、第1層ゲート付近にて新種高機能薬草『銀斑鈴蘭』が発見・採取されました】って。
> > 通常の薬草に擬態してる希少種で、自衛隊の先行部隊が全員見落として踏み荒らしてたやつらしい。
> > あかねちゃんがスコップ一差しで掘り起こした一株が、協会の暫定査定でB+ランク数十万円コース。
> > あの子の鑑定眼、マジでどうなってんだよ。
>
>
125 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:22:01.45 ID:TabeteMofu
そのあと小川の近くの木の実(野良ルビーベリー)をもぎ取って、
「んん〜〜っ! 甘ぁぁいっ!!」って両手で頬っぺた押さえて耳パタパタさせてたのを目撃したワイ、無事尊死。
自衛隊の屈強な熊倉二曹と橘一尉も一緒になってベリー食って蕩けた顔してたの平和すぎて涙出たわ。
140 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:24:33.89 ID:GachiDungeon
霧島ダンジョンではマグマの上を走り、巨大白熊を狐火で焼き払ってた部隊が、
美濃に来た途端に完全に「週末の山菜採りツアー」になってて草。
でも奥のコボルトの群れと遭遇した時は、一瞬で殲滅してたらしいな。
156 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:27:10.12 ID:MinoMokugeki03
> > 140
> > 丘の上からそれ見てたけど、マジで異次元だったぞ。
> > コボルト三頭が挟み撃ち仕掛けた瞬間、あかねちゃんが地面に手かざして足元を泥濘化。
> > 動けなくなったところを橘一尉が0.5秒で二発撃ち抜いて、熊倉二曹が盾で突進して終了。
> > 戦闘開始からドロップ回収まで十秒。
> > プロの動きを見せつけられて、俺たち一般探索者は「あ、無理に奥行くのやめよう」って素直に引き返したわ。
>
>
170 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:29:45.67 ID:OreOreMiner
さらにその奥の岩山で、熊倉二曹のシールドアタックで岩ぶっ壊してなんか綺麗な緑色の鉱石掘り出してたぞ。
あれ何だったんだ?
美濃の第1層で鉱石なんて採れるのか?
185 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:32:20.34 ID:MetalNerd
> > 170
> > 「緑風の魔銅鉱」だな。
> > 草原の風魔素を吸って極稀に生成される特殊な銅鉱石。
> > 魔力伝導率が銀並みで超軽量だから、魔法武器やアクセサリーの金具として最高峰の素材。
> > 普通は第10層近くまで行かないと見つからないはずなんだが……地脈の波形を読めるあかねちゃんだからこそ見つけられたんだろうな。
>
>
201 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:35:05.78 ID:GakkouDoushitano
てかさ、あかねちゃんって明日から学校どうすんの?
まだ高一だろ?
鹿児島から岐阜まで来て、日曜日だけ探索して夜の新幹線で帰ったのか?
215 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:37:40.12 ID:KagoshimaNet
> > 201
> > 地元民だが、あかねちゃんと例の細工師の友達は、明日から三日間「国家特務公務に伴う特別公欠」だそうだ。
> > 学校側も全面バックアップ体制。
> > つまり、明日も明後日も美濃ダンジョンに潜る気満々だぞあの子たち。
>
>
230 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:40:15.45 ID:Kitakore99
公欠キタアアアアアアアア!!
ってことは明日も探索!?
第1層を踏破して、明日は”第2層”に行くってことか!?
245 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:42:50.89 ID:DungeonZuki
美濃の第2層……!
自衛隊の先行データだと、第2層も草原エリアだけど、第1層より少し起伏が激しくなって、河川や湿地帯が増えるらしいな。
モンスターもスライムの上位種や、巨大バッタ、ホーンブル(角牛)が出るらしい。
もちろん、薬草や新素材の質も一段階跳ね上がるはず。
260 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:45:33.21 ID:KusaDaisuki
第1層であれだけの新種薬草と鉱石を見つけ出したあかねちゃんだぞ?
第2層に行ったら一体どんなお宝を掘り当てちまうんだ……!
川があるなら水生の霊草とか、泥炭層の特殊粘土とかありそう。
278 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:48:10.56 ID:SakiFanClub
今頃、ホテルの部屋であかねちゃんが持ち帰った素材を友達の細工師ちゃんがウキウキで弄り倒してそうww
あの二人のコンビ、マジでド〇もんと〇〇太(有能)みたいで推せる。
明日の第2層探索に向けて、またなんかヤバい新装備作ってんじゃないか?
295 :名無しさん@探索初日:203X/03/15(日) 21:51:00.00 ID:MinoStart01
美濃の夜はまだまだ眠れそうにないな!
明日第1層に潜る初心者は、あかねちゃんの教え通り「命大事に」で安全第一でいこう!
そしてあかねちゃん一行の第2層アタックに期待!!
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「……ぶふっ! 誰がド〇もんよ、失礼しちゃうわね!」
タブレットの画面を見ながら、サキが作業台の上で頬を膨らませた。
だが、その手元は一切止まっていない。
超音波彫刻ペンの先端からチチチチ……と青い火花が散り、私が持ち帰った『緑風の魔銅鉱』が、信じられないほど精緻な金具へと削り出されていく。
「でもサキ、当たってるじゃん。『ヤバい新装備作ってんじゃないか』って。」
私はベッドから転がり降りて、サキの作業台を覗き込んだ。
皿の上に山盛りにされた『野良ルビーベリー』を一粒つまんで口に放り込む。
ジュワッと広がる濃厚な甘み。
サキの口元にも、すでに赤い果汁の染みが小さくついていた。
「これ、本当に美味しいよね。アイテムボックスに入れておいたから、採れたての鮮度そのまんまだし。」
「んぐ……本当、このベリーは犯罪的な美味しさよ。鹿児島の実家にも送ってあげたいわね。……で! 見なさいあかね、これがアンタの明日のための新装備よ!」
サキが誇らしげにピンセットで掲げたのは、手のひらに収まるほどの、二つの小さな装飾品だった。
削り出された緑風の魔銅鉱の金具に、今日採取した『銀斑鈴蘭』の乾燥花弁、そして第一層で倒したコボルトの最上質の革が組み合わされている。
「これ……ブローチ? それと、アンクレット?」
「そう! 名付けて――『緑風の鈴音アンクレット』と、『銀鈴の薬効ブローチ』よ!」
サキが胸を張って、メガネをキラリと光らせた。
私は目を凝らし、【万象識別】でその性能を読み取った。
『名称』:緑風の鈴音アンクレット(試作一号)
『品質』:名品(A−ランク)
『製作者』:サキ(見習い細工師)
『素材』:緑風の魔銅鉱、コボルトの熟成革、星光砂
『効果』:装着者の歩行・跳躍時の足音および魔素振動を30%カット。草原・湿地帯における移動速度+15%。
『名称』:銀斑鈴蘭の薬効ブローチ
『品質』:上質(B+ランク)
『製作者』:サキ(見習い細工師)
『素材』:銀斑鈴蘭(Aランク乾燥花)、緑風の魔銅鉱
『効果』:装着者の周囲半径五メートルの空気を常時清浄化。毒ガス・酸性霧・花粉トラップを無効化。微弱な精神安定アロマを持続放出。
「……すごすぎるよサキ!」
私は思わず叫んでいた。
「足音が消えて足が速くなるアンクレットに、毒や酸を防ぐブローチ!? これ、明日の第2層にドンピシャじゃない!」
「ふふん、当然でしょ! スレの情報をチェックしたら、第2層には酸を吐くスライム(アシッドスライム)が出るって書いてあったからね。あかねの綺麗な巫女服を酸で溶かされたらたまらないもの! それから、河川や湿地帯が増えるなら、足元が軽くなるアンクレットは必須よ!」
サキは満足そうに腰に手を当てて笑った。
私の命を心配し、私の探索を支えるために、夜を徹して知恵を絞ってくれる親友。
その想いが込められたアクセサリーは、どんな軍用装備よりも温かく、頼もしかった。
「ありがとう、サキ。大事に身につけるね。」
私が巫女装束の胸元にブローチを留め、足首にアンクレットを装着すると、足元からふわりと清涼なそよ風が立ち上るような軽快感が全身を包み込んだ。
コンコン、と控えめなノックの音が響いた。
ドアを開けると、私服姿の橘一尉が立っていた。手には、明日の第2層の地形図と、温かい緑茶のポットが載ったお盆。
「夜分に失礼します。あかねさん、サキさん。……調合と細工は順調のようですね。」
「橘さん! はい、サキが最高の装備を作ってくれました!」
「それは頼もしい。熊倉二曹は隣の部屋で、今日の干し肉をつまみに地酒を一杯やって、すでに高いびきで寝息を立てていますよ。」
橘一尉がクスリと笑い、テーブルの上に地図を広げた。
その瞳には、すでに明日の探索を見据えた鋭い光が宿っている。
「これが、明日私たちが挑む美濃ダンジョン『第2層』の概略です。第1層と同じく東京都23区規模の広大さを誇りますが、中央を巨大な清流――『美濃大河』が東西に分断しています。先行部隊は川を渡る最短の石橋を確保していますが、その両岸には広大な湿地帯と葦原が広がっています。」
橘一尉が指差した先。
地図のあちこちに「未踏」「植生未確認」「水生モンスター多数」の文字が並んでいる。
「第1層があれほどの恵みに満ちていたのです。この第2層の河川敷や湿地帯には、地上では絶滅した古代の水生薬草や、水霊の宿る泥炭鉱石が手つかずで眠っている可能性が極めて高い。」
「水辺の薬草……! 泥炭の鉱石……!」
私の狐耳がピクピクと跳ね上がり、尻尾がパタパタとベッドシーツを叩いた。
オタクとしての採取欲が、早くも限界突破寸前まで高まっていく。
「橘さん、最短ルートの橋を渡るだけじゃなくて、川べりの湿地帯も少し寄り道していいですか!?」
「もちろんですよ、あかねさん。そのための『特務調査』ですからね。一般の探索者たちが安全に採取を行えるよう、私たちが先陣を切って、未知の宝と安全航路を解き明かしましょう。」
橘一尉が力強く頷き、温かいお茶を注いでくれた。
湯気とともに立ち上る茶の香りに包まれながら、私たちは明日の探索ルートの打ち合わせを重ねていった。
ネットの海では、今この瞬間も何万人もの人々が明日の冒険を夢見て語り合っている。
そして、その最前線を歩む私たちの手には、絆から生まれた新しい装備と、尽きることのない探求心がある。
未知なる第2層、美濃の大河と緑の湿原。
まだ誰も見たことのない新素材を求めて――私たちの二日目の冒険は、すぐそこまで迫っていた。




