アイドルは仮マネージャーと話してみたい
ぼくは春原紗衣子。
最近のぼくの一番の願いは仮マネージャーの正行くんとお話をしたい。
それをマネージャーさんに連絡するとしっかりとアポを取ってくれて、話せることになった。
―――――――
「今日はぼくのために時間を取ってくれてありがとうございます」
「いえ、こっちこそ話せて嬉しいです」
正行くんはちょっと緊張しているのが少し話しただけで伝わって来る。普段の握手会の時も緊張しているけど、それとは比にならないぐらいかな。
ぼくとしてはただでお話がしたいだけ。
だからもっと緊張を解してもらいたいなぁ。
「そんなに緊張しないで。ぼくは正行くんとお話して、もっと仲良くなりたいだけだから」
本当にそれだけなのに、正行くんはやっぱり緊張している。
「ぼくは正行くんが初めて僕たちのライブに来てくれた日も握手会に来てくれた日も全部覚えているんだよ」
「え…」
「だって、ぼくにとって初めての男の子ファンだったし。あんなに良い顔で応援してくれたらもし正行くんが女の子だったとしても絶対に覚えてるよ」
「そうだったんだ」
「うん!特に握手会に来てくれた日は嬉しくて眠れなかったりもしたんだ」
「そ、そんなに…?」
「そんなにだよ。男の子と触れ合う機会なんてもちろん今までの人生でなかったし。それに男の子がぼくに笑顔で『応援している』って言ってくれる。ぼくの手に触れてくれる。それだけでもぼくにとってはすごいこと」
男の子なんて縁遠い人生だと思っていた。男の子で女性アイドルを見る人なんてほとんどいない。男の子にとっては女の子は恐れる対象でしかない。
それなのに正行くんはぼくたちのことを応援してくれて、握手会も来てくれる。こんな男の子がいるなんて、目の前にいる今でも信じられない気持ちはある。
「オレの方こそ紗衣子さんと出会えて嬉しい。今ではアムールというアイドルグループに出会えなかった自分なんて信じられないぐらい」
正行くんはぼくの目を射抜くように見ながら話を続ける。
「紗衣子さんもそうですけど、皆すごく魅力的な人です。絶対にこれからもっと有名になって売れていくと思うのでそのお手伝いをさせてもらいます」
「正行くんはもっと売れると思っているんだね」
「はい、絶対にもっと高みに行けます。アムールはダンスも歌もファンサービスも良いグループですから。もっと上に行ける可能性を秘めたグループだとオレは思っています」
そう話している時の正行くんは自信たっぷりだった。さっきまですごく緊張していたのにそんなことを感じさせない。
「だから…そのためにオレに出来ることだったらどんなことでも言ってください」
「…う、うん」
ちょっと勢いにぼくの方が押されちゃうぐらいの気迫。
まさかこんな風に、男の子に気迫で押される日が来るなんて。普通、女の子が積極的に男の子に接することはあっても、反対はあり得ないはずなんだけどな。
正行くんに関してはそういうところも普通の男の子とちょっと違うんだよね。
ここまで押されるとさすがに負けている感じがするから、逆に正行くんのことを押してみることにした。
「本当にどんなことでもいいの?」
「いいですよ。どんなことでも」
「ぼくがどんなお願いをするのか分からないのに、そんなこと言っちゃって本当にいいの?」
さすがに『どんなことでも』ってところを訂正するかなぁと思っていると、正行くんは笑顔で答える。
「いいです。それがアムールのためになることであれば、どんなことでも頑張りたいと思っているので」
「そ、そうなんだ…」
正行くんの笑顔…まじでカッコいいし、可愛い。それでぼくたちにも好意的に話しているくれる男の子。
こんな男の子が近くにいたら絶対に頑張れる。そんなことは分かっていたつもりだけど、今日改めて再確認できた。
やっぱり正行くんは絶対に必要だと。
仮マネージャーじゃなくてちゃんとしたマネージャーになってもらわないと。
「じゃあ、ぼくのお願いは正行くんが仮マネージャーじゃなくて本当のマネージャーになって欲しいよ」
「え…それは…」
「何でもって言ったでしょ」
「言いましたけど」
「じゃあ…ぼくの願いは叶えてよ」
さすがに正行くんは悩んでいた。
でも、悩んでくれてよかった。ここで絶対に仮マネージャーしかダメだって言われたら、さすがにちょっと望み薄だった.
だけど、悩んでくれているってことは少しでもマネージャーになる気はあるってこと。これはぼくたちの行動次第でマネージャーになってくれるかもしれない。
「ごめんね、さすがにいじわるしちゃったね。そんなお願いはしないよ」
だってそれは…
「正行くんが自分の意思でマネージャーになって欲しいから」
これだけは強制するものではないよね。
少なくとも、ぼくはそう思っているし、メンバーの四人もたぶん同じことを考えていると思う。
「ぼくたちは絶対にマネージャーになって欲しいってことだけは伝えておくね」
その後もぼくは正行くんとの時間を満喫した。




