仮マネージャーと一緒に買い出しに出る
金山花衣、それがウチの名前。
ウチらに仮マネージャーが付いた。
仮マネージャーさんのことは昔からよく知っている。ウチらのファンで毎回よく声が枯れないなぁと思うぐらいに応援してたから。あそこまで熱心に応援している男の子は彼だけだ。
アイドルへの情熱は分かっているので、その辺りは全然心配していない。むしろとっても心強い。あれだけ熱意がある人が近くにいてくれるのは嬉しいし。
だけど、欲を言っていいのならウチだけのマネージャーになって欲しい。話を聞く限りはグループのマネージャーとして働く予定みたい。でも、ウチだけのマネージャーになってくれた方がいいんだけど。
他のメンバーじゃなくてウチのことだけ見ていて欲しい。
だから、ウチはその気持ちを一緒に買い出しに出るタイミングで言ってみることにした。本当はメンバーが買い出しに出ることはない。
そういうことはマネージャーさんやスタッフさんとかがしてくれること。でも今回は正行くんと二人きりになる口実が欲しかったので、一緒に買い出しに出た。彼は「オレ一人で大丈夫です」と言っていたけど、それを押し切る形で。
隣を歩く彼はさり気なく歩道を歩いてくれる。普通は女の子が男の子を護るためにすることなのに、彼はこういうことをしてくれる。もちろん、ウチがアイドルだからだと思う。
それでもこういうことを自然とやってくれるところがすごい。こんなことを出来る男の子がこの世界に一体どれだけいるか。
だけど、いつまでも見ているだけじゃなくてちょっと質問を投げかけて見た。
「正行はウチのマネージャーになりたい?」
「…それはどういう意味ですか?」
「ただ聞いてみただけ。ウチのマネージャーになりたいのかなって」
「それは個人のマネージャーということですか?」
「もちろん」
正行はしばらく足を止めて、考えてから「なりたいという問いだと答えるのは難しいですけど、まだオレのマネージャーとしての腕では無理です」と答えた。
「ウチは正行が専属マネージャーでも全然いいよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しい事だと理解しています。ですが、オレはまだ仮マネージャーです。少しずつ学んでいるところなので、金山さんの専属マネージャーは荷が重すぎます」
「ウチとしてはぴったりだと思う」
確かに経験値という意味で正行は明らかに劣っている。でもそれは仕方のないこと。どんな仕事だって最初は初心者。
そこから少しずつ慣れて行けばいい。最初から全て上手くできる人の方が少ないんだから。
「金山さんのことがオレのことを高く買ってくれているのは本当にありがたいです。なのでもう少し待ってくれませんか?」
「もう少し?」
「はい、もっとオレが経験を積んで、ちゃんとしたマネージャーになった時にもう一度お誘い頂けませんか?」
そう投げかけてきた時の彼の目は真剣そのものだった。だったらウチもその真剣な気持ちをしっかりと受け止めてあげるべきだ。
「わかった。その時はもう一度誘う」
「では、金山さんにお誘い頂けるように精一杯頑張ります」
「うん!頑張って!」
ここで無理にウチのマネージャーになってとは言えなかった。だって正行にはちゃんと覚悟があって、それを口に出して言った。
そんな相手に言えるわけがない。
ウチは正行がマネージャーに慣れて、一人前と思ったタイミングでもう一度誘う。その時にどんな答えが返って来るかは分からない。
もしかしたら普通に断られるかも。
たぶん、一人前と思われるぐらい一緒にいればメンバーの全員が彼のことを専属マネージャーにしたいと思う。今でさえ、ほとんどのメンバーが彼に対する好感度が高い。
だって元々、ウチたちのことを応援してくれている人だし。
好感度が高くて当たり前。
だからその時が来た時は、ウチじゃなくて他のメンバーの専属になる可能性もある。
それでも今は彼のことを見守ろう。




