広場の願掛け場
広場の中央に佇む光明神の像は、この街の人々にとって願いを託す神聖な場所である。
異世界に迷い込んだ佐藤雄一は、二王女ケイアナと共に祈りを捧げ、穏やかな時間を過ごす。
王女との邂逅、街の温もり、そして心に宿る決意——新たな日々がここから始まる。
ケイアナはケリアとしばらく談笑していたが、ふと我に返り、傍らに立つ佐藤雄一の方を振り返って素早く近づいた。
「雄一、こっちに来て。」
彼女は光明神の大理石像の方へ手を招き、佐藤雄一を引いて像の真正面まで連れてきた。
そして持ち歩いていた小さな袋から、柔らかな光を帯びた願掛けコインを取り出し、彼の前に差し出した。
「ほら、この願掛けコインを持って。
光明神様の像に向かって願いを込めれば、心が誠実ならきっと叶うわ。」
佐藤雄一は温かな願掛けコインを受け取り、指でそっと握りしめる。
像の前に進み出ると、コインを像中央の願い池へそっと投げ入れた。
池の底には既に無数の願掛けコインが積もっており、淡い光を浴びて細やかに煌めいていた。
彼は目を閉じ、心の中で願いを囁き続け、しばらくしてゆっくりと瞳を開いた。
この異世界の習わしでは、願いを口に出すと叶わなくなる。
ケイアナは深く問いただすこともなく、優しい笑みを浮かべて彼を見つめていた。
「願いは終わった? じゃあ次の場所に行こう!」
ケイアナは嬉しそうに拳を握り、彼の腕を引いて進もうとした。
二歩ほど歩いてから、傍らのケリアを振り返り、首を傾げて問いかけた。
「お姉ちゃん、城外にとても有名なパン屋さんがあるの。
ジャムパンが絶品なの、一緒に行かない?」
ケリアは淡く首を横に振り、冷ややかな視線で広場を見渡し、穏やかな口調で言った。
「二人で行きなさい。
私はここの景色を十分に眺めた、先に宮殿へ戻る。」
そう言うと、彼女は侍女と騎士を従え、そのまま中央広場を立ち去った。
姉が去ったのを見て、ケイアナはためらうことなく、嬉しそうに佐藤雄一を引き、王城の街筋へと歩いていった。
曲がりくねった路地を抜けると、濃厚な麦の香り漂うパン屋が姿を現した。
店構えは豪華ではないが、客でにぎわい、香ばしい香りが街全体に満ちている。
ケイアナはカウンターまで進み、店主に手を振った。
「店主さん、焼きたてのジャムパンを二つ、一番早く作ってくださいな!」
店主は顔を上げると、慌てて手を休め、恭しく身をかがめた。
「二王女殿下、お待ちしておりました。
すぐに焼きたてを用意いたします!」
間もなく、熱気立つ分厚いジャムをまとったパンが二つ運ばれてきた。
甘く香ばしい香りが鼻を抜ける。
ケイアナは一つ手に取り、慎重に佐藤雄一に差し出した。
「食べてみて。
ここのパン、私が食べた中で一番美味しいのよ!」
佐藤雄一は両手で受け取り、そっと一口食べた。
ふっくらと焼かれたパンに、甘酸っぱく濃厚なジャムが絡み、食感は絶品。
日本で食べたどの菓子よりもはるかに美味しく、彼は目を輝かせ、思わず絶賛した。
「すごく美味しい! この味は最高だ!」
「でしょ! 絶対美味しいって言った通り!」
ケイアナは彼の驚いた表情を見て嬉しそうに笑み、腰に手を当てて得意げに言った。
「嘘じゃないわ、ここのジャムパンは天下一品なのよ!」
パンを食べ終えると、ケイアナはますます興奮し、佐藤雄一を引いて王城の街を散策し始めた。
街角の屋台から菓子屋まで、彼女は王城の名物料理を彼に堪能させ、大小さまざまなお菓子の袋を手に、終始笑い合いながら歩いた。
もともと内気で遠慮がちだった佐藤雄一も、彼女の熱意に打ち解け、久しぶりに穏やかな笑みを浮かべるようになった。
夕日が西に沈み、黄金の残光が王城を照らし、空は優しい茜色に染まった。
ケイアナは佐藤雄一を南東にある洋館の住まいまで送り届け、足を止めて手を振った。
「ここまでね。
今日はとても楽しかったわ、またね!」
佐藤雄一は軽く頷き、柔らかく礼を述べた。
「今日は二王女殿下、お世話になりました。お疲れ様です。」
ケイアナは笑って手を振ると、振り返りもせず王宮の方へ駆け出し、その姿はすぐに街路の彼方に消えた。
佐藤雄一は彼女が去った方をしばらく見つめ、黙って洋館の中へ入った。
まず風呂に入り、ゆっくりと湯船に浸かって一日の疲れを癒やす。
それからベランダに出て、手すりにもたれて遠くを眺めた。
異世界の夕暮れは格別に美しい。
遠くの城郭、街の灯り、空の夕焼けが、日本とはまるで異なる幻想的な絵巻を描き出している。
目の前の景色を眺めながら、彼は心に固く決意を刻んだ。
平凡な高校生だった自分が、魔物や魔王の存在するこの異世界に突然迷い込んだ。
誰からも見下される土の勇者であっても、嘲笑され軽んじられても、決して諦めて堕落してはならない。
必ず力をつけ、いつか自分を軽んじた者たちを、見返してみせる。
ベランダに長く佇んだ後、部屋に戻ろうとした時、玄関から澄んだノックの音が響いた。
「トントントン――」
「どなたですか?」
扉の外から柔らかく恭しい女性の声が響いた。
「勇者様。二王女殿下の命を受け、お仕えする侍女でございます。
夜のデザートをお持ちいたしました。」
佐藤雄一は断った。
「もうお腹いっぱいですので、結構です。お気遣いありがとう。」
侍女はそれ以上勧めることもなく、静かに返事をし、デザートを玄関の棚に置いた。
「では、勇者様のお休みを邪魔いたしません。
デザートを外に置いておきますので、お腹が空いたらお召し上がりください。
失礼いたします。」
やがて足音は遠ざかり、完全に聞こえなくなった。
佐藤雄一はそっとため息をつき、扉を開けて、包装の綺麗なデザートを部屋の中へ運び入れた。
(3)
広場で願いを込めた雄一は、街の温もりに触れ、自らの強さを求める決意を新たにした。




