置き手紙
「ただいまー」
家に帰ると。
正人はいなくって。
「え、どういうこと。え、え、」
靴を脱いで早々、いつもは声を返してくれる彼の声がないことに気づく。
いつも、温かく私を包んでくれるような心地よい声が。
そして、ひょっこりと見える彼の笑顔が。
どうして。
その時、ちらりとテーブルの上に白い紙が、まるで存在感を示すかのように私の視界に入った。
一回、くしゃくしゃっとしたのか皺が寄った、よれよれの白い紙。
どうしても、嫌な予感しかしない。
小説なんかで、幸せがガラガラと崩れる音がしたって表現があるように。
私はそれがもしかしたら今なのかもしれないと、神様からのお達しがあったみたいに。
電流が身体を走ったみたいに。
その紙を開けるのが、怖くて怖くてしょうがない。
今まで現実逃避ばっかり続けていたツケが帰ってきたのかな。
別れの日は近づいてた?
マジックでメッセージを書いたみたいで、折り畳まれた紙の上からうっすらと彼の字が見える。
心臓が止まっちゃったみたいで。
” ごめん、何日か帰らないから 正人 ”
それだけ。
それだけだった。
どういうことよ。
なんで相談とかしてくれないの、教えてくれないの。
あなたがいないとやってけないの。
紙を見てしまった瞬間に脳の機能が全て止まってしまえばいいのに。
そう思った。
何も考えなくて済むように。
私のこと嫌いになった?
なんで、なんで。
こんな置き手紙一枚で納得なんかしないよ。
これで終わりなの?正人。




