後輩
「飯田さんの彼氏ってぇ、どんな人なんですかぁ?」
寝坊をした次の日。
周りの人に適当に風邪をこじらせてと言い訳をしていると、後輩がそう聞いてきた。
髪の毛は明るめの茶髪で、首元には彼氏に貰ったのであろうハート形のネックレス。
手首には女性用の華奢な時計。
メイクはいつもバッチリ。
いつも、女性にも男性にも猫撫で声のような声で甘えたように話しかける彼女のことは正直苦手だった。
今日も、彼女は顔の横で両手を合わせてお願いでもするかのようなポーズをとってる。
「なんで?」
そんな彼女の容貌と、聞いてきた内容が詮索を入れられているようで、少しイラっときて。
つい冷たい口調で彼女に当たってしまった。
彼女はその世渡り上手な顔を一瞬だけハッとさせて。
だけど、次には元のあの猫を被った表情で。
「だってぇ。なんか噂でそう聞いたんですよぉ。気になるじゃないですかぁ」
彼女特有の伸ばし気味の口調がいちいち気になってしまってしょうがなかった。
「別に私が誰と付き合おうが、興味なんかないんでしょう。早く自分の仕事をしなさい」
なんで、私が後輩に彼氏とのことに詮索を入れられなくてはならないの。
それでもいつもは、はぁい、なんて間延びしたような適当な返事ですごすごと彼女は帰って行くのに。
今日は何故だか、彼女は引き下がらなかった。
「えー、教えてくださいよぉ。私ぃ、なんかぁ、彼氏に甘えてばっかでぇ。そういう、なんて言うんですかぁ、先輩みたいなしっかりした彼女になりたいんですよぉ」
まぁ、彼氏は甘えてる私のこともぉ、可愛いなんて言ってくれるんですけどぉ。
そう付け加えることを彼女は忘れなかった。
なんだ、と思った。
なんだ、自分の彼氏の自慢をしたかっただけか、と。
そう考えると、さっきまで少しだけ怒ってた自分が馬鹿馬鹿しくなってきてしまって。
私はスッと前髪を直すような仕草をして、
「別にあなたが彼氏の前でどうであろうと、私は全然気にしないわよ。次こそ、自分の仕事をしなさい」
今度は彼女に対して余裕を持って言えた気がした。
案の定彼女は、教えてくれてもいいのにぃ、と言って唇を少し尖らせて、頬を膨らませる仕草をしてから自分のデスクへと戻っていった。
でもね。
少しだけ彼女に嫉妬してしまったのも事実だった。
私は確かに家に帰ると甘えられる。
だけど、生活面とかそういう肝心な所で正人は何にも助けてはくれない。
ううん。
私のことを助けられるだけの何かを持っていない。
私は正人に自分の全てを捧げられるほど、彼のことを信頼してないんだって薄々気づいてて。
いつか、彼にどっぷりと寄りかかれるようになる日が来るのかな。
私は昨日の彼との青春をしているような甘い記憶に縋りながら、まだ少し痛い腰を持ち上げて自分の仕事を始めた。




