世界で一番幸せな女の子
「そのさ、夏奈ちゃん、勘違いしてるんだよ」
「勘違いって?」
2分くらい黙って2人で歩いてると、その沈黙を彼が破った。
私の声、震えてたかもなぁ。
もう、こんな重たい感じの空気になってる時点で薄々は私の気持ちにも彼は気付いてるはずなのに。
私はそれでも悟られまいと嘘をつこうとするけど。
どうしても、それが声に。
表情に出てしまって。
「ねぇ、笑わないでよ?」
もうさ、私のカッコ悪さを自分で認めてもいいかなぁなんて。
「私、正人のことね」
好きなの、そう言おうとしたけど。
「待って。ちょっとだけ、話を聞いてよ」
彼がそう遮る。
なんだか、彼の顔も切羽詰まってるってことに今更気づいて。
どうか、こんな会話続けてるうちに彼の中にいる私が存在感を増すようにって祈ってしまう。
「……うん、でもさ。どうせ、分かってるんでしょう、私が言おうとしてること」
彼が止めたってことは、それなりのりゆうがあるってことだろうから。
私はあえて核心となる言葉だけは言わず、そう呟いた。
下に落ちてる小さな石がコツンと私の靴に当たる。
「あのさ」
彼がいきなり私の目の前に回り込んできた。
なんで?なんで、そんな切羽詰まってる顔をするの。
「誤解なんだよ」
私はもう彼の一言一言の合間に、言葉を言わずに。
彼が発するその声が意味するものだけを慎重に頭に留めるように。
そっと彼の長めの前髪から覗く瞳だけを見た。
「絶対に、笑うなよ?」
彼はそう前置く。
「夏奈ちゃんのことさ」
好きだよ
彼はこんな暗い中でもはっきりわかるくらい、顔を真っ赤にしてそう呟くように、でも私にははっきりと伝わる声でそういった。
彼も自分の顔が赤くなってるのが分かってるのか、その細い腕で顔を覆うようにして。
「こういうの、慣れてないんだよ。わかるだろう」
でもさ、女の子に言わせるって最低だって。
それくらいは思ったからさ。
そう捲し立てると、彼は下を向いてしまった。
ねぇ、なんで美味しいとこ持ってちゃうのよ。
「だから、共作のやつは終わっちゃうけど。
夏奈ちゃんとは、この後もさ……」
そこまで聞くと、私は彼の首にぐるぐると腕を巻きつけて抱きついた。
もう、自分が泣きたいのか笑いたいのかもわからないけど。
陳腐な言葉だけど、私は世界で一番幸せな女の子だ。
きっと、今は凄く酷い顔をしてるだろうけど。
「馬鹿、信じられない。酷いよ、誤解させてさ」
今は、彼に理不尽な怒りを思いっきりぶつけられる気がする。
「そんなつもりなかったんだけど、夏奈ちゃんが勝手に勘違いしたんだよ」
私のせいにしないでよ。
そんな言葉が喉のとこまで出かかったけど。
その言葉は飲み込んで。
「私も好きだよ、付き合ってよ」
代わりに彼が最後に言わなかった一言を付け足して、返事をする。
「絶対に、絶対に私のこと離さないでよ?」
離さないよ。
彼は私の耳元で小さく、恥ずかしそうにそう呟いた。
私は世界で一番幸せな女の子だ。




