夜8時
私が呼び出されたのはマクドナルドだった。
彼は既に2人がけの席に座って、100円のホットコーヒーを飲んでた。
もう、夜8時で。
知ってるんだよ、正人がコーヒーを飲むのは何かを考えてる時だって。
だけど、そういう癖を彼女でもないのに覚えちゃってる私にまた嫌気がさす。
「ごめん、待たせちゃったね。まだ修正終わってないよ?」
私は、あなたに振られたからって気にしてない。平気だからって強気なフリをしてそう声を掛ける。
凄く、凄く、イタイなぁ。
自分で私は大丈夫って慰めてる自分を見つけて、笑いたくなる。
「いや、さっき来たばっかだし。修正は締め切り間に合えばいいよ」
彼の目の前にはもう一つホットコーヒーが置かれてて。
それがきっと私の分なんだって思うと。
その優しさが今日の癒えてない私の心に深く深く入ってきて。
ジンジンする。
「いや、あのさ、えっと」
彼は私が席に着くやいなや、そう切り出した。
「なんか、悪いことしたなって」
悪いことしたな?
その言葉で、私が傷つくって分からないかなぁ。
「何が?」
つい喧嘩ごしになってしまう。
「え、や。えっと、なんかさ怒ってるっぽかったから」
夏奈ちゃんに嫌われるのは嫌だから……。
彼はそう続けた。
夏奈ちゃん、なんて言わないでよ。
「正人は何にもわかってないよ。わかんなくていいんだけどさ」
自分で気づいてない感情が、今になって爆発しそうだった。
そうなんだよ、私は正人のことが好きなんだよ。
知ってるよ、そんなこと。
でも、振られたんじゃない。
正人は全然気づいてなかったじゃん。
こんなどうしようもない、感情を吐き出してしまったら。
正人に面倒臭い女だって思われて、友達でもいられなくなっちゃうって分かってるから。
堪えてるんだよ。
小説、書けるんならさ。
そういうのも気づいてよ。
「そのさ、夏奈ちゃん、誤解してるよ」
彼は飲んでたホットコーヒーのカップをコトンと静かに置くと、下を向いたまんまそう呟いた。
彼はその時は前髪を引っ張らなかった。
その仕草に彼が何かを決めてるんだって悟っちゃったから。
私も彼が買ってくれてた、安い100円のホットコーヒーを飲む。
もう、温くなってて。
彼が、私が来るすごく前からここにいるんだって考えると。
その、不器用でどうしようもない優しさに切なくなってしまった。
「外に出ようよ」
彼は、私が黙ってホットコーヒーを飲み干すのを認めると、そう言った。
その時の彼はやっぱりどうしようもないくらい、私にはカッコよく見えてしまって。
外に出た時のひんやりとした夜風でも、私の身体は冷えなかった。
あぁ。
今、私が彼の恋人だったなら。
彼のその細い、でもちゃんと筋肉がついてる腕にね。
彼が私の好きな男の子だって。
友達じゃなくって恋人になりたいっていう、欲が詰まった私の感情をぶつけるみたいに。




