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魔王、勇者になる!?

僕の朝は、喧騒とともに始まる。


「ちょっと雪女! また洗濯物触ったでしょ!?」

「お、お手伝いしようとしたのですよ」

「いつも言ってるでしょうが、あんたが触ると凍るから止めてって!」

「そ、それを言ったら蛇女メデューサさんだって後ろの蛇シューシュー言わせるのやめてください!うるさいのですよ!」

「なんですって〜!」


部屋から寝間着のままノロノロと出て行けば、早速ケンカ中だ。

はぁと思わずため息が出る。

ああ、朝から幸せが逃げた。


「二人とも、朝からうるさい」

「「あ、陛下!」」


掴みあったまま、二人の顔がこっちを向いた。


「雪女は食糧の冷蔵担当、メデューサは(ヘビ)くくっとく、そう決めただろうが」

「えーくくると表皮が傷んじゃいますよー陛下ぁ」

「蛇のウロコにキューティクルは認めん!」

「むー、はぁい」


シュルシュルと蛇を一匹つかんで、クルクルと他の蛇の周りに巻く。

とんだポニーテールの出来上がりだ。


「あのさ、二人とも」

「な、何でしょう」

「何ですかぁ?」

「もう少し仲良くとか、出来ないのかよ?」

「無理です」

「無理ですねぇ」


即答だ。

一応、僕の前ということで二人は手を離したようだが、今にも第二ラウンドが始まりそうである。


パンと手を叩いて、はい、さっさと持ち場に行く、と言えば渋々と言ったように二人とも歩いて行った。

最後にお互いを睨みつけるのは忘れずに。


朝からまた面倒なことに関わってしまったものだ。雪女と蛇女メデューサの仲の悪さは筋金入りだ。聞くところによると、五十年は昔からあんな状態らしい。


やれやれと首を振って、朝食をとるために食堂に向かおうとすると、


「あ、陛下、今日は食堂使えないっすよ」


狼男ワーウルフに呼び止められる。


「あ、まず挨拶すべきだったっすね。おはようございます、陛下」

「おはよう。で、使えないっていうのは何でだ?」


それは、と今はまだ人間のものである顔が困ったようにゆがむ。


「昨日、水の妖精(ウンディーネ)の姐さんが酔っ払って水浸しにしちゃったんす」

「……マジか」

「マジっす」


水の妖精(ウンディーネ)はとんでもない酒乱で、だから禁酒を言い渡しておいたはずなんだが……。


「飲んじゃったのか」

「飲んじゃったっすねぇ」

「で、本人は?」

「あ、二日酔いっす」


……本当にどうしようもないな。


「え、じゃあ今日の朝ごはんはどこで食べるんだ? 前から僕、食事は全員でって言ってるだろ?」

「それなら大丈夫っすよ。吸血鬼ドラキュラ宰相閣下が、講堂で取れるようにしてくれたっすから」

「もう出来てる?」

「それは分かりかねるっす」


ふぅん、と呟いて、僕は額に手を当てる。

僕の能力の一つで、この城に住んでいる者となら誰とでも、念話ができるのだ。


吸血鬼ドラキュラ、食事は準備出来たか?』

『バッチリでございます、我が陛下』


俺の親代わりの一人にして最も過保護な男は、すぐさま返事を返してきた。


「バッチリだってさ」

「おお、流石っすね」






食事が終われば、城内が一気に慌ただしくなった。各々の仕事を始めるのだ。

かく言う僕も、学校に行かなければならない。

これでも真面目な優等生なのである。


「陛下、問題ありませんか。何かお忘れ物などは……」

「多分平気ー」

「た、多分では困るのです」


過保護その二、死霊バンシーがペタペタと僕の体を確かめる。

多分、魔除けの魔法かなんかもかけているんだろう。

魔物が魔除けしてどうするって感じなのだが。


「それじゃあ、行ってきまーす」


荷物を持って僕がそう言えば、玄関に並んだもの達が一斉に頭を下げた。


「「「「行ってらっしゃいませ、ザクリウス魔王陛下」」」」


弱冠七歳、黒髪黒目の僕ことザクリウス・レシダム。

これでも魔王なのである。








と言っても、学校は普通に人間と同じところに通っていた。

黒髪黒目は不吉ということなので、光の屈折を応用した変装魔法で隠している。


そして、学校に着いた僕はハッと気づく。


「あ、お弁当忘れた」


もともと少食だから無くてもなんとかなるが、鳥人ハーピーが腕を振るった美味しい料理を食べそこねるのは惜しい。すごく惜しい。


と、ふと後ろから声をかけられた。


「なんだよ、ザク。お前弁当忘れたのかよ」


振り向けば、クラスで一番仲のいいエルンだった。ザクというのは、僕の愛称である。


「あ、エルン。おはよう」

「はよ。弁当なしってやばくないか? どうすんだ、午後」

「午後?」


首を傾げれば、それはもう呆れた顔をされた。


「魔物の討伐実習だろ」

「あー……、そうだったね」


僕としては憂うつ極まりない授業だった。

いつからかは分からないほど、人間と魔物は仲が悪い。


この学校に通っているのも一種の敵情視察だが、吸血鬼ドラキュラ死霊バンシーに泣いて止められて、「彼を知り己を知れば云々」となだめたのはまだ記憶に新しい。


「今日は、黒の森に入るんだってよ」

「そうなんだ」


げっ。僕の城がある森じゃないか。

しょせん支城の一つだから、いざとなれば逃げるが勝ちだけど。


「楽しみだよな、何匹倒せるか、隣のクラスの奴と競争してんだよ」

「そう、なんだ」


低級のやつに関して言えば、魔力溜まりから生まれた意思なんかない物だ。

けど、中級以上は普通に意思もあるような生き物だというのに、結構ひどいことを言うなぁと思う。


こういうところ、人間って残酷だ。


それにしても、とふと思った。

実習地が黒の森なら、城の奴らや中級以上の魔物には外に出ないように言っておくべきだった。


念話を送るにも、人間の地では変な感知装置に引っかからないかヒヤヒヤするし。


とりあえず無事を祈っておこう、アーメン。

……あれ? 違った?









「なんか、全然魔物出てこねぇな」


エルンがポツリと呟く。

同じ班の他のメンツもうんうんと頷いた。


逆にザクはちょっと安心していた。

森に入った時に、さっと念話を送っておいたのだ。


意思を持たないはずの初級の魔物すら出てこないのは、死霊バンシーの魔除けが効いているのかもしれない。


「なぁもっと奥行かねぇ?」


誰かがふと言った。


「お、いいないいな」

「そーだな。何も出てこないし、大丈夫だろ」


あ、これ、まずい流れだ。

大抵こういうのって痛い目見るんだけど、残念ながら今、中級はいないし、もしかしたら城の方まで来られたら困る。

何とか止める言葉を探そうとした時、


『陛下〜!』


と声が聞こえた。いや、違う。これ、声じゃなくて念話だ。


『陛下、お、べ、ん、と、う、ですよ〜!』


よくよく聞いてみれば、吸血鬼ドラキュラの声である。

魔力で目を強化して遠くを見れば、バッサバッサとコウモリ羽をバタつかせてこっちに来る吸血鬼ドラキュラが見えた。


何で宰相自らお弁当届けに来てんだ、とか、さっき出て来るなって念話しただろうが、とか色々思うところはあるけど、とりあえず……。


『動くな!』

『はい?』


そのまま、どぉんと地響きがした。


いや、そりゃな、羽ばたいてる途中で羽止めたら落ちるよな。僕が言いたかったのはそういうことじゃなかったんだけど。


「な、何だ!?」

「すごい音したよな!?」


……こちらにも、気づかれてしまったようだし。

というか、マズイ。

吸血鬼ドラキュラはこんなだらしない雰囲気だけど強くて、魔王四天王の一人なのだ。


「い、たたた……」


土煙が晴れて、だんだんとその姿が露わになる。

灰色の髪、吸血鬼の象徴たる真っ赤な瞳と悪魔のような羽。


「お、おい」

「嘘だろ……」


エルンたちが唖然と呟く。

いけない流れだ。これ、まずい通り越していけない流れだ。


「ど、どうすんだよ、あれってよく人相書きで流れてる吸血鬼ドラキュラじゃ……」

「しらねぇよ!」

「誰だよ、森の奥に行こうなんて言ったやつ……!」


僕の記憶が正しければ、お前だよ。


「ザク、お前なんでそんな落ち着いてんだよ」

「何か、策でもあるんだろ? そうなんだろ!?」


ああやばい。僕にまで火種が飛んできた。

しかも誰かがどんと前に突き飛ばして来たものだから、思わずヨロヨロと転んでしまった。


いや、こんなことしたらさ、僕は大丈夫だけど……。


「あ? 何やってるんです、貴方達」

「「「ひぃぃいい!」」」


吸血鬼ドラキュラさんマジギレです。

慌てて額に手を当てた。


吸血鬼ドラキュラ! 落ち着け落ち着け!』

「……陛下?」


今陛下って言ったぞとざわつかれて、慌てて続けて念話を飛ばす、


『声に出てるし、こっち向くな!』

『は、はい』


僕はチラッと後ろを振り返った。

エルン達は腰が抜けてるみたいだし、仕方ないよな……?


『よく聞けよ。今から僕が、五割くらいの本気でお前に向かって魔法を打つ』

『え、えええ!?』


だから動揺を見せるなっての。

と内心で呟いて、続きを送る。


『いいか、上手くよけろよ。で、怪我を負ったふりして去れ。そしたら僕はこいつら連れてすぐ森を出るから』

『分かりました……』


僕はさっと立ち上がり、手を正面にかざす。


「出たな、魔物! 僕の魔法で塵になれ!」


ちょっとセリフがクサすぎる気がするが、それは置いとくとして。


「焔よ、我が命に従いて猛火となれ。風よ、炎を伴いて巻上がれ、業火の竜巻(ファイヤー・ストーム)!」


ボゥと炎がまっすぐに吸血鬼ドラキュラに向かって行った。

あ、やばい、ちょっと力入れすぎたかも。


炎と風がおさまると、怪我したように苦しむ吸血鬼ドラキュラが現れる。

だ、大丈夫? 大丈夫だよね?


吸血鬼ドラキュラ、今から言う言葉を言えよ』


僕がそう言って続けた言葉を吸血鬼ドラキュラが繰り返す。


「くっ、人間ごときが、我らにたてつこうとは……! 待っていろ、今にも仲間を伴ってここに赴いてやる!」

『で、そのまま飛んでけ』

『はい』


バタバタ、と羽音を立てて吸血鬼ドラキュラが去って行く。


「おい、ザク、お前……」


エルンがもの言いたげにこちらを見て来た。

そんなことより、と僕はエルン達を引っ張った。


「あいつがまた戻って来るかもしれない! 早くここから去るぞ!」








とまぁ、僕はなんとか上手くやったと思ったのだが……。


「ザクリウス君、だったね」

「は、はい」


学校長に呼び出されてしまった……。

こういうのって、ドキドキするよね。


「そんな畏まらなくていいさ」


さ、腰掛けて、と椅子を差し出される。


「あの、僕はなぜ呼ばれたんでしょう?」

「いやね、君が魔王四天王を追い払ったと聞いて」

「はぁ」

「最近、王都から話があったんだ、学校ごとに魔力が強いものがいれば、と……」


なんだか回りくどい。


「要は、どういうことですか」

「そうだね、はっきり言おう。君に、勇者になって欲しい」

「ゆうしゃ?」


頭の中でぐるぐると回る。

勇者。ああ、そう言えば先代じぃちゃんからそんなこと聞いた気がする。


でも勇者って確か……。


「そうだ。勇者となって、魔王を倒して欲しいのだ」


ですよね。

勇者って魔王を倒すアレですよね。


でも俺が魔王を倒す?

俺が魔王なのに?


つまり、勇者ぼく魔王ぼくを倒すって……。


は?

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