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第3話 武器を置く者、置かぬ者

榊原宗右衛門は、土を見る癖がある。


城を築く者は、まず地面を見る。敵より先に、土に騙されてはならない。


異国の騎兵に見張られて三日目の朝、宗右衛門は川下の浅瀬から続く道を確かめた。対岸の丘から渡れる場所はそこだけらしい。昨日、水汲みを許された坂は野営地の川寄りにあり、今日はその坂と浅瀬の間の乾いた平地に、互いの代表を出すことになっていた。


昨夜のうちに、相手は平地の縁へ杭を打っている。杭の間隔は揃い、騎兵の待つ位置とこちらが近づいてよい線も分けられていた。


「じつによく働く」


宗右衛門が呟くと、隣で荷縄を直していた新六が言った。


「夜のうちに馬の糞まで片づけておりましたぞ。こちらの馬は腹を減らして、縄を噛み切りそうだというのに」


「飼葉は」


「草を刈ってやっております。これから冷えるなら、いつまでもそうはいかんでしょうな」


岸に渡ってきた斥候は、こちらを見張るだけでなく、後方へ馬を走らせていた。宗右衛門は昨日と違う外套の男が平地にいるのを見た。周りの騎兵はその者が動くまで待っている。馬から降りた男の横には、板を入れた袋を持つ別の男もいた。


斥候の報せを受け、上の指揮を執る者と記録を扱う者が来たのだろう。宗右衛門には、その上下の違いだけは分かった。


「参るぞ」


輝政が歩き出した。宗右衛門、弥七郎、勘定方一人、護衛二人が続く。岡部は本隊に残り、火縄銃の保管所と夜警を指揮する。相手方も前へ出たのは数人だけで、残りは浅瀬側と坂の上で待った。


中央の男が何か告げる。輝政は自分の胸を指した。


「てるまさ」


男が同じ音を試す。ひどく違う発音になり、弥七郎の口元が一瞬だけ緩んだ。男も胸を指し、名らしきものを返した。聞き取れたのは最初の数音だけだった。


次に男は輝政の刀を指した。宗右衛門の脇差へ指を移し、さらに遠くの鉄砲組を示す。地面を指す。


護衛が反射的に半歩出た。向こうの盾が一斉に上がる。


輝政は片手を上げた。護衛が止まる。向こうの男も腕を横に伸ばす。盾が下がった。


宗右衛門は、相手の顔を改めて見た。部下を止める声が届く男である。


「置けというのでしょうな」


「そうだろう」


輝政は帯から刀を鞘ごと外した。


宗右衛門の喉が詰まった。だが刀は地面には置かれず、背後の護衛の手に渡った。護衛は刀を両手で捧げたまま数歩退く。輝政はその位置を指し、それから自分の足元を示した。


本隊の方では、宗右衛門が前もって命じておいた鉄砲組がさらに後ろへ移った。二十四挺は木箱の周辺にまとめて置き、火薬は別の荷の下に封じた。面談の平地からは、誰も銃口を向けていない。


異国の男は刀を持つ護衛を見、それから輝政の手元を見た。輝政の脇差は残っている。


長い沈黙があった。


相手の一人が何か言いかけたが、中央の男は手で制した。やがて小さく顎を引き、記録係らしい男へ言葉を掛けた。


輝政も頷いた。宗右衛門は、預かった刀を持つ護衛の指が白くなるまで柄を握っているのを見た。


次は人数だった。


勘定方は小石を一つ拾い、自分たち十人を指してから、その石を地面へ置いた。石一つを十人の印とする。そう決めて、十個ずつを三組、残り二個――合わせて三十二個を並べた。


相手は最初、石そのものを三十二人と受け取ったらしい。記録係が首を傾げる。勘定方は十人をもう一度指し、石一つを示し、同じ動作を繰り返した。やがて相手も意味をつかみ、地面に「十」を示す印と三十二の印を分けて刻む。三十二個、それぞれ十人分。ようやく双方の指が同じ三百二十を示した。


指揮官がうなずき、馬を指す。荷車を指す。人の脚を抱える仕草をする。勘定方が竹札を替える間、宗右衛門は彼らの視線が負傷者のいる幕へ向いていることに気づいた。


記録係が、浅瀬から野営地までの幅を紐で測り始めた。車を移すための道を知りたいらしい。宗右衛門は自分の間縄を出した。向こうの紐にも節目がある。


宗右衛門が地面に二本の杭を打ち、間縄の一間を示すと、相手はその先へもう一本の杭を打った。宗右衛門は眉をひそめる。示したかったのは区切りの長さだが、相手はさらに先までの長さを求めたと思ったらしい。


「違う、ここだ」


日本語は通じない。宗右衛門は一度杭を抜き、自分の縄を二つの杭の間に張り直した。それから相手の紐を借り、同じ両端へ当ててみせた。


記録係が目を丸くし、ひとこと短く笑った。彼は自分の印へ石を置き、もう一度測り直した。今度は杭が動かない。


宗右衛門は、相手の手が思いのほか確かであることを知った。綱は真っ直ぐ張られ、泥の深いところを避けていた。


「宗右衛門」


輝政が呼んだ。


「荷の図を見せよ。ただし普請の割付だけだ」


紙を広げる。荷車の位置、木材の割当、門の出入りを記した簡単な縄張り図だった。男たちはまず文字を眺め、次に二つの門を指で辿った。曲がった線のところで指が止まる。


宗右衛門が木片を置いて門を示すと、相手はそれを別の位置に動かしてみせた。宗右衛門が首を振る。まだ分かり合えぬ。それでも男は紙を押し返さず、何度も図へ顔を寄せた。


記録係が小さな板を取り出した。表面には蝋が塗られ、尖った棒で刻み目をつける。人数の記号の隣に、荷車の輪を思わせる丸、傷を負った者を示すような印が加わっていく。指揮官は図の隅に手を置き、輝政を指したあと、遠くの道を示した。


輝政は相手の顔から目を離さなかった。


「宗右衛門。何と言うと思う」


「ここで決めぬ。上へ知らせる、かと」


輝政は小さく頷いた。


午後、向こうは新たに平地の端を示し、荷車をそこへ寄せるよう身振りで求めた。水汲みの坂にも見張りが残る。本隊の位置を変えることに岡部は渋い顔をしたが、輝政は自ら先頭の車について移した。見張る側からは全てが見える場所だった。


夕刻、少量の穀物と丸く固いパンが運ばれてきた。佐吉はかじって顔をしかめ、湯へ浸してから病人へ出す。隣の子どもは歯を立てて、もう一口食べた。


日本の米はまだ残っている。だが今夜の膳に、初めてこの土地のものが載った。


面談の翌日も、その翌日も、自由な移動は許されなかった。水汲みは決められた組だけ。騎兵が浅瀬を押さえ、荷車には時折、別の役目の者が印をつけに来る。宗右衛門はその間に傷んだ車軸を締め直し、新六は草を刈る者の交代を決めた。言葉を覚える暇はないが、向こうが荷を勝手に奪わず、数を確かめてから動かすことは分かった。


面談から三日目の夕方、例の記録係が新しい板を持って現れた。指揮官は川下の道を指し、荷車を引く真似をした。明朝、動くらしい。行き先がどこなのか、宗右衛門にも分からなかった。


「殿、次は何を見せます」


輝政は縄張り図を折り畳んだ。


「見せる前に、向こうが何を欲しがるかを見る」


川下の道から、さらに多くの兵の靴音が聞こえてきた。

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