牧之条明日香 9
「それは」とパパは少し考え込んだ。
「花香の誤解を解く必要もなくなったし、明日香とも会えたし、もう巻物を隠し持つ必要はないな。明日香が京都に移るにせよ、パパと東京に帰るにせよ、牧之条家と縁を切ることになるから、返すことになるだろうね」
縁を切る、か。
家と縁を切る、家業を継がない、そのことを私はゆっくりと考えた。そういえば、安達くんも久美子もご両親が事業をやっている。二人はどう考えているのだろう。
根津高校で見た卒業アルバムの写真を思い出した。あの頃のママは本当に綺麗だった。きっとどこかで間違えたんだと思う、そう考えて、私は首を振った。違う。
ママは諦めてしまったんだ、自分であることに。
あの家では自分であることはきっととても大変なことなんだ。お祖母様は、自分で自分を騙しているのか、今の状況が彼女の求めるものなのかどちらかなのだろう。何れにしても、お祖母様は強い人だ。
顔を上げてパパの顔を見た。私の表情に何かを感じたのだろう、急に真面目な大人の顔になった。
「パパ、パパは私と一緒に暮らさなくても大丈夫?」
パパは少し驚き、それから微笑んで目を閉じ、「どういう考えだい」と言いながら目を開いた。優しい眼差しだった。
私は、自分の考えを語った。
今ならまだパパの居場所も巻物のありかも、私がどこにいるかもわかっていない。
私は、このまま東京に帰る、そしてお祖母様や叔父様たちと取引をする。
巻物は隠したまま、パパの居場所も隠したまま。そして牧之条家にある巻物が偽物であることを黙っている代わりに、私とパパには手を出させない。大学までは何としても出る。そしてその時までに自分がどうやって生きていくか考える。
将来私がどう思っているかはわからない。
東野流を継承するなら巻物をパパから受け取って家を継ぐ。継がないなら巻物を返して、家を出る。
そう告げると、パパは頷いて「わかった」と一言だけ言った。
カゴの鳥になっているのはもう嫌だ。これはカゴを壊す大きなチャンスだ、自分の場所は自分で見つける、結果が同じだったとしても諦めて受け入れるのと自分で見つけるのは違う。私はカゴを出て飛ぶのだ。そして、それを柳沢君に見せるんだ。私はちゃんと飛べる、今のあなたとは違うって。
見て欲しいんだ、私。
こんな気持ちになれたのも久美子たちのおかげだった。みんなに会いたい。
そして私は、すっかり忘れていた写真の謎のことを思い出した。柳沢君と安達君は、最後まで謎を明かしてくれなかった。
「神無月じゃない、神在月だ、神在月は出雲に神様が集まる月だからって言って出雲大社に柳沢君と行ったのに。どうしてパパは安達君と京都で会ったの?




