牧之条明日香 8
時間を見ると十一時になるところだった。
「十二時までやっている銭湯が歩いて十分くらいのところにあるよ」
スマホをいじりながらパパが呟いた。私はパパを追い立てて急いで家を出て、途中のコンビニで必要なものを買い込んで二人でお風呂屋さんに行った。
お風呂屋さんに行くのは初めてだったが、広くてサウナもあって快適だった。ゆっくりリラックスしてメイクを落とし、髪もきちんと乾かしてスッキリすると、猛烈な眠気が襲ってきた。なんとかパパの家まではたどり着いたところまでは覚えているけれど、次に気がついた時には翌日の朝になっていた。
パパは、今日会社は休みにしたから一日付き合えるそうだ。
「時間は結構融通がきくんだよ。家からテレワークもできるし。今から遅い朝食を食べに行って、そこで話をして、それから買い物に行こう」
地下鉄乗るのと歩くのとどちらがいいか、と聞かれたので歩いて行くことにした。鴨川に沿って随分歩いたけれど、きっとランニングを続けた効果なのだろう、疲れることはなかった。
パパは「背が伸びたな」とか、「だいぶ大人びたな」とかニコニコしながら私の隣でつぶやいていたが、それでも時折口をつぐんで考え事をしているようだった。そしてそんな時、目元を押さえていた。
ファミリーレストランに入ってモーニングセットにドリングバーをつけて、飲み物を何度かおかわりをしながら私たちはたっぷり三時間、話をした。
パパが家を追い出された理由、ママがパパに会おうとしなかった理由、そして急にママがパパに会おうとした理由もわかった。
「ご開帳までは二年あるけれど、虫干しか何かのきっかけで中を改めた時に偽物、というか全然違う物だったことがわかったんだろうね。義兄さんと義弟の話から、二人が初めから協力してパパを罠にかけたことが、ママにはわかったんじゃないかな」
ママが急にパパに会わなければと言い出した日は、確かにおじさまが二人とも家にいた。小叔父様が家に来ているなんて珍しいと思っていたが、そういうことだったのか。
「本物の巻物はあるところに保管してある、何しろここは京都だからね。そういう古文書をきちんと保管する場所には事欠かないんだ」
巻物の場所だけでない、パパの居場所も、まだ牧之条家には伝わっていない。それに私が今ここにいることもまだ知られていない。でも、私が転校すれば居場所はわかってしまう。
その意味することをパパと話をしながらずっと考えていた。
「明日香はこれからどうする? 京都に移ってパパと暮らすかい。それともパパと一緒に東京に帰って向こうで暮らすかい」
パパは私と一緒に暮らすことを前提にしているようだけれど、私は少し違うことを考えていた。
「一緒に暮らすと、巻物はどうなるの?」




