牧之条明日香 7
地下鉄を降りたところは大通りだったが、一本入ると静かな住宅街だった。アパートか何かに暮らしているかと思っていたが、路地に面した家の前面が格子戸で覆われた日本家屋の一つに住んでいた。
「花香と明日香が来た時に暮らせるように準備をしていたんだよ」とパパは寂しそうに言った。
聞きたいことがたくさんあった。どうして家を出て行ったのか、写真はなんだったのか。どうしてママはパパに会おうとしなかったのか。そしてどうしてママが急にパパに会おうとしたのか。
何から聞こうかと迷っていると、パパが「あの、安達君というのは、どういう子なんだ。明日香そっくりに変装したので驚いたけれど」と尋ねた。そして「彼は、明日香はカムフラージュで出雲大社に行っていたというけど、一緒に行っていたのは、どんな子なんだい」と続けざまに聞いてきた。
高校生の娘を心配する親バカの父そのままの言葉に、呆れてしまった。そして柳沢君との旅行と会話がよみがえってきた。柳沢君は、私のメイクに何の感想も言ってくれなかった。柳沢君の心は本当にわからない、彼はどういう気持ちで私の隣にいてくれたのだろうか。
「よく分からないよ」
柳沢君の言葉を思い出すと何だか腹が立ってきた。そしてパパの相変わらずの親バカっぷりも何だかカンにさわった。
「メイクを落としたい」と私は言った。「メイク落としある?」
「メイク落とし?」
「クレンジングオイルとか」
「んー、ないな、多分。男性は使わないものだろう?」
嫌な予感がした。
「着替えとか、タオルとかそういう身の周りのものは」
「ないよ。歯ブラシすらない」
準備していたって言ったのはハコだけだったのか。
仕方がない、コンビニエンスストアで必要なものを買ってこよう、そう思ったところでもしやと思った。
「念のため聞くけれど」と布団を運んでくれているパパに声をかけた。
「ドライヤーはある?」
「ないよ。タオルで拭けば乾くんじゃないかい」とパパは呑気な声を出した。今は十一月だ、そんなことをしたら乾ききらなくて風邪をひいてしまう。
「このあたりにお風呂屋さんはない?」




