早川久美子 6
豪毅は、言葉遣いが乱暴だけど優しい。見た目と名前と、喋り方と性格が、ちぐはぐだ。でも、いつも優しい。
「まあ、久美子は目立つのが嫌で、もともと人助けというかサポート役に徹するのが好きな性格だから、そういうカタチで自分を表現することがない奴らからは理解しがたいたかもな」
「どういうこと?」
豪毅は、少しの間考え込んだ。それからちょっと笑って、言った。
「つまりさ、もっと我が儘勝手に振る舞っているように見えるくらいが、他人から見たら安心する、ってことさ」
優しいな、豪毅は。涙がこみ上げてくる。もっと我が儘に振舞っていいのか。ここ数日の苦しさを全部消し去りたかった。
ゆっくりと豪毅の肩に顔を寄せた。
「ありがとう」
言葉とともに涙も溢れてきた。その涙がゆっくりと豪毅のシャツを濡らした。
夏休みも終盤となり、最後の学校開放日となった。調理担当の私たちは、それぞれのメニューの見込み製造量と、それらに必要な材料の最終的な確認と、注文先との打ち合わせの進捗状況を共有し、メニューの試作と調理にかかる時間を計算して工程の最終調整を行っていた。
キャスト担当の子たちも来ているはずだが、「絶対秘密」ということらしく、どういう衣装や格好をしているのかはわからなかった。
佐藤さんには、前回の開放日に「私はサポートをするのが好きだからクラス委員も引き受けるし、マネージャーをやっている。やりたいこと、やってもいいなと思うことは引き受けますが、キャストはやりたくないからやりません」と、はっきり言った。今日はその佐藤さんがスタッフ担当の輪の中に見えないのでどうしたのかと思ったら、キャストに移ったということだった。
「あの子、前からキャストをやってもいいな、って言っていたの」とあの時私に謝った子が言った。どうやら私の言葉が背中を押してしまったらしい。
打ち合わせをしている教室に、キャストの打ち合わせを終えた子たちが賑やかに入ってきた。なにやらおしゃべりをしていた子たちは、私たちスタッフを見ると口を閉じた。なにしろ「絶対秘密」なのだ。どのような衣装なのか興味はあったが、出来上がりを楽しみにしたい気持ちはあった。その集団に遅れて明日香が教室の入り口に現れ、私に目で合図を送った。手を止めて近づくと、帰りにお茶をして帰ろうと言われた。
明日香の様子が少しおかしかった。
「何かあったの?」
明日香から話があると言われたのに、ファミレスで席を取ると明日香は私への質問で会話を始めた。
「何か、って?」
「うん、少し悩みがあるような、でも充実しているような、ちょっと大人びた表情しているから」
少しすっきりしたの、と私は先日起こったことを説明した。
話を聞き終わると、明日香は考え込んで、それから真面目な顔をした。
「安達くんは、頭がとてもいいけどまだ子供なんじゃないかしら。安達君にとっては、クラスメイトは秘密基地を一緒に作っている仲間、久美子もきっとまだその一員。多分安達君は愛されすぎてるんだと思う、羨ましいわ」
そうか、明日香から見ても豪毅は羨ましいのか、そう思って黙っていると、明日香がまた少し考え、言い直した。
「久美子の事は少し違うかな。きっとそのうち気がつくよ、久美子のことに」
今度は私が話を聞く番だった。
「ママの様子がおかしいの」




