表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ゆくえ知らず
安達豪毅
PR
52/62

安達豪毅 15

 監視役はそのまま通り過ぎた。

 

 俺は、大きな溜息が漏れそうになるのを抑えてゆっくりと呼吸をした。あとは無事に名古屋を過ぎてくれればいい。

 名古屋駅が近づくと手に汗をかいてきた。横目で伺うと邦雄も緊張した表情をしている。名古屋駅に着いても監視役が席を立つ様子はなかった。乗客が多数乗り込んできて、ドアが閉まり、ゆっくりと新幹線は滑り出した。

 周りで缶ビールを開ける音や弁当の包みを開く音がする。邦雄が立ち上がって網棚から本を取り出し、座席に座ると親指を立てた。


「ビールを飲んでいる」

 邦雄がそう小声で伝えるのを聞いて、ようやく緊張が解けた。笑おうとしたが顔が強張ってしまっている。親指を立てて邦雄に見せた。


 浜松を通過した、そろそろ退場するタイミングだ。拳を邦雄に向けると、邦雄は少し驚いて拳を合わせ、それから少し笑った。


 しかしそれはとても寂しい笑顔だった。


 監視役が不審に思わないようにゆっくりと車室を出ると、ちょうどトイレを使おうとする女性がいた。願ってもない幸運だった。俺はその人に順番を譲ってそのまま通過すると大急ぎで二つ先の車両に行き、俺が京都まで、そのあとは名古屋まで本当の明日香が座っていた座席まで移動した。


 そして網棚からナップザックを下ろして手に持ち、空いている多目的トイレに入った。急いで着替えてウィグを外し、メイクを落とす。

 最悪でも口紅だけ落として帽子をかぶっておけば大丈夫だと姉ちゃんには言われたが、ほぼ落とすことができた。ブーツだけはかさばるので替えがないが、上着とズボンで全く雰囲気が違うだろう。帽子もなくても大丈夫そうだった。


 名古屋まで明日香が座っていた席に戻って眠ったふりをする。やがてバタバタと忙しない足音が近づき、去って行った。しばらくするとまた足音が戻ってきた。しかし今度は少しよろけながらだった。急ぎながらも弱々しい足音が近づき、そして去って行った。

 監視役は俺の顔は知らないから大丈夫だとは思うが、念のため新横浜駅では手荷物の大きい客の近くを移動して目立たないように新幹線を降りた。


 階段を降りていると、頭の上で「お客様、車両のドアが閉まります、車内におもどりください」というアナウンスが二度、聞こえた。

 電車を乗り換えて自宅に戻る車内で、時間を見計らって邦雄にメッセージを送った。 



 いつまで待っても返事は来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ