安達豪毅 13
京都駅で多目的トイレに入り、鏡に向かう。
ナップザックから道具一式を取り出して、写真を鏡に立てかけた。緊張で指が震える。明かりも足りないような気がする。大丈夫だ、自信を持とう。最高の仕上がりにならないかもしれないけど、最悪も起きないはずだ。
俺は、自分に言い聞かせながら作業を続けた。時間がかかりすぎるのではないかと気になり、焦ってしまう。
時計を見る。十分に時間はあった。
「佐藤さん」と俺は扉の内側から声をかけた「近くに人はいますか」
「いや、いないよ、ずいぶん時間かかっているけど、どうしたんだい」と心配そうな声が聞こえた。
「今、出ます、驚くだろうけどあまり驚かないでくださいよ」と声をかけて「開」ボタンを押した。
親父さんは俺の姿を見ると、目を丸くして「あ」と声を出したきり、絶句した。
俺は周りに聞こえないように小声で「行きますよ」と言って改札に向かった。姉ちゃんに特訓してもらったけれど、気が急いて早足になると大股になりそうで怖い。
しばらく多目的トイレの扉の前で固まっていた親父さんが慌てて俺に追いつくと、もう一度俺の顔を観察してから「まさか、これが会わせるってことじゃないだろうね」と困惑した表情で言った。
呆れた俺は、親父さんを睨みつけた。
「あたりまえです この後の計画を説明するから、必ず明日香に会ってくださいよ」
新幹線ホームに上ると、新幹線が停止するまで車内から見えないように自動販売機の陰で待機した。ドアが開くと、乗り込む客に紛れて車内に入り、親父さんを席に座らせて俺はナップザックを開いて帽子とパーカーを手にし、ナップザックを棚に載せた。
ここでお別れだ。声を出すわけにはいかないので、手で「それでは」と合図をした。
親父さんが優しく笑ってくれて、手を差し出した。それを軽く握り返し、急いで車内を移動した。邦雄と明日香がいる車両との間のトイレの近くで待機し、連絡を待った。緊張で汗が出てメイクが崩れないか気が気でない。
新幹線が京都駅を出発すると、間もなく邦雄から「今車室を出た」というメッセージが届いた。同時に、自動扉が開閉する静かな音が聞こえた。
俺はトイレに近づくと、「明日香、俺だ。豪毅だ、声を出すなよ」と通路の陰から小声で呼びかけた。
明日香が「安達くん?」と答えながら現れた。




