安達豪毅 11
「もちろん、そんなことは起こらなかった。
数日後に呼び出されると、そこには義兄と義母、そして義弟と花香がいた。義弟はうなだれ、義兄は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
義兄は、僕と義弟に向かって『お前たちの考えることなどお見通しだ。警察に告発されたくなかったら、家を出ていけ』と言った。花香は怒った。
僕が彼女に相談しなかったことに、よりによって弟と結託して家に被害を及ぼそうとしたことに。少なくともあの時点では花香も東野流の人間だった。
僕は、花香と二人になる時間を作って説明をしようとしたが、彼女は聞く耳を持っていなかった。
唯一手元に残っていた写真の一部を切って、それをメッセージとして花香に渡した。時間がなかったから、それが精一杯だった。僕はそれから毎年、それぞれの場所で待っていたよ。まさか君のような人が現れるとは思わなかった」
「誤解というのは?」と俺は聞いた。
「それは、義兄と義弟が実は通じていた、ということだ。
僕は念のために保険をかけておいたんだ。
義弟に渡した巻物は偽物、ただの古文書だ。
義弟は巻物の中身をきちんと見たことがないから、僕が渡した時に疑いもせずに受け取った。もしも義兄と義弟が本当に対立していたのだったら、義兄は義弟から『取り返した』時に中身をちゃんと確認するはずだ、義弟が本物を隠し持っていたらまずいからね。
しかし呼び出された時に義兄は巻物については何も言わず、義弟から受け取ったまま中身を確認していないことがわかった。それで二人が実は最初から通じていて、罠にかけられたのは僕の方だったことを確信した。
彼らは巻物をそのまましまったのだろう。そうすると保険が利いてくる。
五年に一度のご開帳の前には宝物庫から出して虫干しをするから、長くても五年経てば全て明らかになるはず、花香の誤解も解けるはずだと思っていたんだ。それを支えに過ごしてきた」
そこまで話して言葉を切ると、親父さんは「すまん」と言って目元を指でしばらく抑えて、「花香が亡くなったのは、本当に残念だ」とつぶやいた。
「不安じゃなかったですか」と聞いた。
「もしかしたら本当に二度と会えなくなるかもしれないし、実際奥さんは亡くなってしまったわけですし」




