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  作者: ゆくえ知らず
安達豪毅
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43/62

安達豪毅 6

 だから邦雄が口を開く前に俺は久美子に声をかけてしまった。


結果的にはそれが良かったようで、明日香自身の言葉を引き出すことができた。

明日香が邦雄に声をかけた時、その表情と声は明日香の邦雄に対する感情を物語っていた。久美子はわかっているような表情で明日香を見ていた。


どうやら気がついていないのは邦雄だけだった。

いや、気がついていない、のではなくて、そのような感情を受け入れることをしないように、心に壁を作っているのかもしれなかった。


 今朝、アダチミートの車で東京駅に乗り付け、邦雄と明日香を降ろすと、俺と一恵姉は二人を見送りながら周りに目を配った。邦雄は「必ず監視が付いているはずだ」と言っていたが、結局それらしい人物は目につかなかった。

 

ここからは俺一人で別行動だ。


 

秋が深まるのは、京都の方が東京よりも早いらしい。バスの窓から見える街路樹や寺の樹木が見事な色に染まっている。

邦雄と明日香が出雲大社に到着する頃、俺は京都駅に到着し、新幹線を降りてバスに揺られていた。

千本丸太町で降りると、同じバス停で降りる乗客が数人いた。念のためその場でスマホをいじる振りをしたが、俺に注意を払う人はいない。邦雄の言うように、俺の方はノーマークのようだった。

 

向かう先は内野公園、住宅に囲まれた小さな普通の公園だ。

だが、何もないというわけでははない。


バス通りから公園に入るとすぐ、右手に石碑が建っている。

「大極殿遺址」の文字を確認して、ブラブラと公園を一回りする。ブランコとその周辺で遊んでいる子供が数人、その付き添いらしい男女の大人が数人立っている。二つあるベンチの一つには老人が二人腰をかけて話し込んでいる。もう一つのベンチには中年のおじさんが座っていた。周りを見たが、その他には人はいない。


 石碑のある囲みには石段があり、俺はそこに腰をかけて様子を伺った。ベンチに腰をかけたおじさんは細身で、スポーツでもしているのか締まった体型に見える。何をするともなく時折伸びなどをしている。

 

俺は邦雄から送られた高校時代の明日香の親父さん、佐藤圭のふっくらとした顔写真を見た。

明日香は、名前がなかったら親父さんだとは分からなかった、と言っていた。だから写真と見比べても本人とは思えないという点では、ベンチのおじさんが佐藤圭である可能性はあった。

彼は、俺に気がついても最初は気に留めている様子もなかったが、俺が立ち上がって石碑を見てまた座るという動作をしたら、落ち着きがなくなった。彼でまちがいないだろう。あとはどうやって味方だと思ってもらうかだ。

 

しかし、どう声をかけたものかと考えて視線を落とした隙に、おじさんはベンチから立って足早に公園の反対の出口に向かってしまった。 

 あろうことか、追っ手と思われたらしい。ここで逃げられたらこれまでの努力が水の泡だ。俺は慌てて後を追った。おじさんは公園を出ると右に曲がって走り出した。俺が走って公園の出口を出て右を見ると、奥へ伸びる路地にすでに姿はなかった。


 俺は、走り出そうとして思いとどまり、「明日香さんのお父さんですよね、僕、明日香さんの同級生です」と無人の路地に向かって呼びかけた。

 何の反応もなかった。もしかしたら本当に走って逃げられてしまったかと不安になり路地の奥へ一歩、進むと、後ろから「君は誰だ」と声をかけられた。振り返ると少し離れたところにさっきのおじさんが立っていた。俺がホッとして一歩近寄ると、彼は体を半身にしたまま後ずさった。


「俺、いや僕は安達豪毅と言います。牧之条明日香さんの同級生で、彼女のお父さん、佐藤圭さんを探しています。逃げないで、お願いします」

 早口でそう言って頭を下げてから、俺は一歩彼に近づいた。今度は彼は動かなかった。

「佐藤圭さん、ですよね」と尋ねると、直接答えず「なぜそう思う」と逆に質問された。相当警戒しているようだ。

「僕が大極殿遺址をみたら、反応しましたから。やはり今年は京都御所が待ち合わせ場所だったんですね」

 俺がそう言うと、「なるほど、花香から聞いたのかな。花香や明日香はどうしてここにいないんだ」と親父さんは尋ねた。


「明日香は、友人と一緒に出雲大社に向かっています。カムフラージュのために」


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