安達豪毅 5
明日香を親父さんに会わせた後でも明日香がいる世界について、邦雄は考えないようにしているかのようだった。
それはあまりにも寂しいじゃないか、と俺は思った。少し離れたところで話を聞いている一恵姉の目もそう言っていた。
俺は、俺の肩に顔を埋めた久美子の暖かさを、合格発表の日に俺を抱き締めた体の柔らかさを思い出していた。邦雄が店に来て話をした日から久美子のことを考えることがなぜか増えている。そして今、邦雄と話しながら、久美子に対して、尊敬とは違う感情が湧きあがってくるのを感じていた。俺は、もしかしたらずいぶん愛に囲まれて生きているんじゃないか、と思った。
明るさを増していく透明な秋の空が、あまりにも美しかった。そしてとても脆そうに見えた。
俺は、きっと久美子と離れたくないのだ。
高校受験の時も、担任からは根津高校だって不可能じゃないと言われていたが、「豪毅と一緒の巣鴨北高校に行きたい」と言っていた久美子と離れることを想像すらしなかった。
そして今は、この四人で一緒にいたい。その世界が壊れることが、そのことに邦雄が直面しなければならないことが、とても恐ろしく感じられてきた。邦雄は耐えられるのだろうか。そして俺は、きちんと久美子に気持ちを伝えることができるんだろうか。
明日香のピックアップに失敗した翌月曜日、邦雄の予言通り確かに明日香は学校に来た。来るにはきたが、明日香の表情は胸を締め付けられるほど辛そうだった。
よくこの状態で学校に来たと思う。
邦雄が言っていた、「本気」というのはよくわかった。
わかったが、ここまで突き放して明日香の気持ちに委ねなくても、もっと手を差し伸べてあげてもいいのではないかと思った。そんなことを考えていたら、クイズ研究会の部屋で明日香のことが心配で泣いている久美子のことが急に愛おしく思えてきた。釣り合う背丈が欲しいとか、そういうことではなくて、今何かしてやりたくなった。




