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  作者: ゆくえ知らず
安達豪毅
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39/62

安達豪毅 2

 あの時感じた久美子の体温と匂い、それが今また俺の肩にあった。


 久美子は俺の肩に顔を埋めて泣いているが、俺の方が背が低い、肩を貸しているというよりは、のしかかられているような気がする。

 肩の湿った暖かさと久美子の匂いで頭が混乱する。久美子が体を動かしたようで吐息が首にかかり、重みでそのままだと倒れそうになる。

 手をついて体を支えて顔を背けていたが、しばらくすると、もう一度「ありがとう」と言って久美子が体を離した。

 

 背が高くなりたい、久美子と釣り合う身長になりたい。


 運動のしすぎが良くないのかもしれないと、中学の時に打ち込んだ陸上部は高校に入ったら一旦やめた。相変わらず食べる量は変わらないのだが、この細くて白い体に筋肉がつくことがあるのだろうかと、鏡を見るたびに思う。姉ちゃん達に着せ替え人形みたいにされたのも、久美子にぬいぐるみか抱き枕のように扱われるのも、この容貌のせいだ、きっと。


 久美子が明日香の手を引いて相談を持ちかけてきたあの日、邦雄が俺と明日香を見比べて口元を緩めた時も、きっと俺の容貌のことだろうと、嫌な気持ちになった。もっとも、あいつは俺と違って物事の先や裏を読む癖があるから、何か企んでいたのかもしれないけれども。


 そして、今もまた邦雄は何かを企んでいるようだ。今日は根津高校に明日香と一緒に訪問したはずだが、何かを発見したのか思いついたのか、さっき「折り入って話がある」とメッセージを送ってきた。今日は両親の店で手伝いをしているので、そっちに来てくれと返信した。



 俺はたまに両親の店で手伝わせてもらっている。商店街にある小さな肉屋ではあるのだが、親父は、俺や姉ちゃん達を店で働かせるということをしなかった。コストはかかるがバイトを雇って、頑なに子供達に手伝わせなかった。だから、店を手伝うときはこちらから頼んで手伝わせてもらう。それは事業というものへの疑問が湧いた時であったり、日々の学校生活から離れたり頭を整理したい時であったりした。

 家族経営の事業の利点は家族を低コストで雇用できることにあるし、それゆえに細々とでも長く続くことがあるのだ、と本で学んだが、親父の考えは何か少し違うらしく、姉ちゃんたちの言葉を借りると、俺たちに足かせをはめたくない、でも事業への興味が湧いた時にはいつでもアクセスできるようにしておきたい、ということらしかった。


 今日の俺は、事業への興味ではなくて頭の整理のために働いている。根津高校を訪問して写真についての手がかりを探る、と決めた時に、邦雄が「僕と明日香で」訪問すると思案顔で告げてから嫌な胸騒ぎがしてるのだ。手を動かし物を動かすのは、頭の中であれこれ考えるのと違って成果が見える手応えがある。俺は、夏休みが明けてから巻き込まれた、明日香の写真をめぐる複雑で時折不安になるようなやり取りを、一旦頭の外に追い出したかった。


 しかし、やってきた邦雄の表情を見て、もっと面倒なことになるのではないかと不安になった。こんなに感情を表に出した邦雄は見たことがなかった。


 邦雄は、謎が解けたと高揚感を抑えながら言い、情報が牧之条家に伝わってしまっている可能性を指摘し、「だから保険が必要だ、豪毅は顔を晒してないからやってもらいたいことがある」と付け加えた。


 邦雄が説明した、「やってもらいたいこと」を聞いて驚いた。


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