安達豪毅 1
安達豪毅
久美子が俺の肩で泣いていた。
「わたし、偽善者なのかな」
夏休みの学校開放日に起こったことを俺に伝えた後で、そう言って震えていた久美子は、慰めにかけた俺の言葉に安心したのか、穏やかな表情になって、それからゆっくりと静かに俺の肩に顔を寄せ、「ありがとう」と言って静かに泣き始めた。久美子の涙の温かさを、シャツをとおして肩に感じる。
この落ち着かない感じ、高校の合格発表の時にも感じたものだ。
中学三年生に進級して最初のテストのあと、久美子が俺に「巣鴨北高校に行きたいから勉強を教えて」と言ってきた。
同じ商店街に親が店を構える、幼馴染の気軽さで声をかけたのだろうが、その時まで久美子が勉強で悩んでいるとは知らなかった。今と同じように、そして俺の姉ちゃん二人と同じように、面倒見が良くてしっかりしていて、賢い。そんな久美子がなんで勉強の手助けが必要なのかと思ったが、相談を受けて試験結果や成績を見せてもらったら、確かに伸び悩んでいた。
そして伸び悩んでいる理由は、勉強を教えるために早川家を訪れた時にわかった。俺の家もそうだけれど両親が共に店で働いているので、久美子が母親代わりとなって三人の妹の面倒を見ているのだった。
俺が久美子の状況を把握して計画を立てようと打ち合わせをしている間にも、久美子は何度も部屋を出なければならなかった。久美子が家で勉強している様子を見ていると、いかにも集中できないという様子だったし、久美子自身もどうしていいかわからないようだった。時間が分断されるので意識の切り替えがうまくいかないのだ。
俺は、勉強時間が細切れになることを前提に計画を立てて勉強を教え、夏休みに集中して勉強時間を取りたいときには姉ちゃん達に久美子の妹たちの面倒見てもらった。
巣鴨北高校の合格発表の日に、久美子の受験番号を見つけた時にこれで肩の荷が下りた、と思った。久美子の方は本当に力が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「よかったな」と声をかけた俺を見る久美子の潤んだ瞳が美しい光を放っていた。そして二人で書類を受け取って帰る途中で久美子は足を止め、ゆっくりと体を寄せて俺を抱きしめた。
そして少しかがむと耳元で「ありがとう」と言って、そのまま静かに泣いたのだった。




