柳沢邦雄 18
呼ばれたような気がして顔を向けると、牧之条さんとまともに目があった。
「メイク、濃くないですか?」と、いつもと違う牧之条さんが問いかけた。目の光がいつもより強い感じがした、それがメイクのせいなのかどうなのかわからなかった。
豪毅ならなんというのだろう。あいつはこういう時に使う、気の利いた言葉を知っていそうだった。
「そうかな、よく分からない」と言う言葉を、僕は選んだ。
牧之条さんは「そうですか」と言って、窓の外を見た。そしてしばらくすると、「柳沢君」とまた僕のことを呼んだ。返事をすると、「このメイクも必要なこと。そういうことなんですね」
それは、その通りだった。
「うん、そうだね」とすんなりと答えが出た。牧之条さんはため息をついた。
「メイク、濃くないですか?」と窓の外に顔を向けたまま、牧之条さんがまたたずねた。
なんで同じことをまた聞くんだろう。
「そうかな、よく分からないよ」と僕は答えた。
出雲市駅でバスに乗り換えて揺られること30分ほどで、出雲大社のバスターミナルに着いた。
一時間半後のバスで帰路に着かねば東京に戻れないので、それまでに可能性があるところを隈なく探さなければならない。それよりも何よりも、今年の場所が間違っていないかどうか、不安で仕方がなかった。何度も頭の中で計算したものの、いざ実際にここまでやってきて間違っていたら全てが水の泡だ、祈るような気持ちで歩みを進める。
銅の鳥居に着いた。牧之条さんの両親が、修学旅行の時に写真を撮った場所だ。今でも周りではたくさんの観光客が入れ替わりに鳥居を背景に写真を撮っている。周りを見渡すが、牧之条さんを探すお父さんらしき人は見えなかった。もっとも僕には彼の風貌がわからないのだが。僕たちを監視しているような人も見えなかった。
僕は、スマホで牧之条さんの両親の修学旅行の写真を表示して牧之条さんに見せた。「ちょうどこの場所だね、写真を撮ったのは」
牧之条さんは写真と実物を熱心に見比べて、「パパとママがここにいたのね」と言った。そして「柳沢君、こんな時に変なお願いなのですが」と顔を上げて、「同じ場所で写真を撮ってもらってもいいですか?」と言った。
「同じようになるかしら」
彼女の言葉に、僕は立ち位置やスマホのカメラレンズの倍率を動かして、なんとか同じような背景が映り込むように調整した。牧之条さんは何度もお母さんのポーズを確認して、同じような姿勢で写真に収まった。
しかし、と写真を撮った後で気がついた。牧之条さんはスマホを持っていないのだ。
「この写真どうするの」




