柳沢邦雄 16
11月21日の日曜日、その日が第2の実行日だった。日の出がさらに遅くなり、まだ夜が明けてもいない住宅街に、牧之条さんが現れた。なかなかランニング姿がサマになっている。牧之条さんの姿を認めると豪毅のお姉さんが車のエンジンをかけ、豪毅がスライドドアを静かに開いて顔を見せた。牧之条さんはペースを変えずに近づいてきて、車の脇を通り抜ける際にスライドドアから、座席を一番後ろに下げて大きくスペースをあけたところに文字通り転がり込んだ。豪毅がスライドドアを閉じるとすぐに車は出発し、しばらくしてからライトをつけた。
細い道を使って最短距離で東京駅を目指す。僕は助手席側から見えるように調整したドアミラーで後ろを見ていたが、車が追ってくる気配はなかった。ノーマークなはずはない、かえって不安が高まる。
「今日も何も言われませんでした」
息が整うと牧之条さんが言った。
「でもどこかで誰かが見てるって考えた方がいいだろ」
後ろの座席で豪毅が言う。
車は国道17号線に出た。朝早いとはいえ車の数は増えてきて、追跡する車があっても見つけることはできそうになかった。
「追跡されてるかどうかわからないです」と僕がいうと、豪毅のお姉さんが黙ってドアミラーを調整した。
追っ手がいるかいないかわからないのは不安だった。
ミニバンは、東京駅八重洲口の車寄せに止まった。豪毅が急いで窓のカーテンを閉め、運転席と後部の仕切りを閉じて車を降り、入れ替わりに豪毅のお姉さんがスライドドアから乗り込んだ。僕と豪毅は車の外で周りを見回したが、やはり追跡しているような人を見つけることはできなかった。
時計を見ると5時半だった。牧之条さんの着替えに使える時間はたっぷりあったが、10分もしないうちに出てきた。
「メイクまでしていただいてありがとうございます」と言って牧之条さんが豪毅のお姉さんに頭を下げた。豪毅のお姉さんは微笑むと、「記念に写真撮らせてね」と牧之条さんにスマホを向けた。そして、「しっかりやりなさいよ」と僕に言って、豪毅とともに車に戻った。
僕は、あらかじめ買っておいた切符を手にして牧之条さんとともに東海道新幹線のホームに向かった。
ホームに上がるとすでに乗車が始まっていた。豪毅からメッセージがとどいた。僕たちを尾行しているような人の姿は見えなかった、とのことだった。
座席は6号車だったが、僕は4号車の乗車口に向かった。乗車するときに周りを見てみたが、怪しい人は見当たらなかった。4号車の車内を通過してデッキに出ると、車室ドアのガラス越しに後ろを確認する。誰も追ってきていなかった。5号車でも同じことをしたが、やはり僕たちの後ろをついてくる人はいなかった。
考えすぎなのだろうか、本当にノーマークのところを出し抜いたということだろうか。




