柳沢邦雄 15
牧之条さんの言葉に心臓を掴まれた、胸が苦しくなった。
「柳沢君、柳沢君は私と同じ苦しみを抱えているのだろうと思います。だからなのか、だけどなのか、わからないけれど、信じています」
母の面影を感じた。心の奥で何かが沸騰して涙腺にこみ上げてくるのを、必死にこらえた。
「だから、ありがとう。ここにいてくれて、ありがとう」
僕は笑おうとした。
「泳がせる」という豪毅の言葉は正しかったのかもしれない。牧之条さんの言葉を借りると、その後はランニングの際に止められることも気にされている様子もなくなったという。
とにかく、駅伝大会があることはいい名目にはなっているのだろう。牧之条さんと早川さんは、週何回かクイズ研究会の部屋に顔を出し、簡単に現状報告だけするとまた出て行った。僕と豪毅は、次に出場するクイズ大会に向けて、最近の時事問題の資料を集めたり、互いに問題を出し合っての練習などをしていた。
豪毅が、空いた時間を使ってまた走り出したと言った。もしかしたら陸上部に途中から入るかも、とも。
豪毅がそんな話をしたのは、たまたま四人が部屋に揃っていた時だった。
「柳沢君は走らないの? 駅伝大会に自分でエントリーしたのに」と、牧之条さんが聞いた。「私、最初は歩いていたけど、最近は随分走れるようになってきました。続けてもいいかな、と思っています」
またか。
何を言っているんだと思った。何のために走っているのか忘れたんじゃないかと不安になる。それももう直ぐ終わるというのに。
「何でそんな変な顔をするんですか」
牧之条さんの言葉に焦った。黙って目をそらした視線の先で早川さんが心配そうな顔をしている。
「私も、柳沢君は走ったほうがいいと思うんだけど」
本当に二人とも何を言っているのだ、と思った。
「俺もそう思う」と豪毅が言ったのには、本当に驚いた。思わず「は?」と声が出てしまった。
「単にお前の健康のためだよ」と豪毅は続けたが、何だか含みのある表情をしていた。




