表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: ゆくえ知らず
牧之条明日香

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/32

牧之条明日香 3

 彼は今どんな気持ちでいるんだろう、顔を見たい、顔を見て謝りたい。そう思うと泣きそうになる。でも、ここで彼の努力を無にするわけにいかなかった。振り返ってはいけないんだ、カゴの外に出るんだ。車室の出口が自動で開き、私の後ろで静かに閉まった。

 とにかく、今はパパに会って、逃げ切ることに集中しよう。トイレに向かえと言われた、この先にパパがいるんだ。


「明日香」と突然呼ばれて足を止めた、パパの声ではない。

「俺だ、豪毅だ。声を出すなよ」と、安達くんの声が通路の向こうから私を呼びかけた。

 どうして安達くんがここにいるんだろう、パパはどうしたんだろう。

 慎重に歩みを進める私の目の前に、私が突然現れた。

 悲鳴が口から出るのをすんでのところで押しとどめたが、息が詰まって、涙が出てきた。

「どういうことなの」と尋ねようとしても声が出なかった。そんな私にお構いなく、もう一人の私は、私に帽子とパーカー、それに座席番号のメモを押し付け、「急いで」と豪毅君の声で私の背中を押した。

 私は言われた通り、渡された帽子とパーカーを身につけて、メモで指定された座席に行った。

 そこにはパパがいた。三年ぶりに会うパパだった。全然変わってない。

 ところが、感動の再会のはずなのにパパは変な顔をしている。

「君か? それとも明日香か?」

 三年ぶりとはいえ、実の娘がすぐにわからないなんて、ちょっとどうかと思う。私は帽子を取って顔をしっかり見せた。それでもまだ怪訝な顔をしている。

「パパ」と囁くと、ようやく私だとわかったようでパパの目に涙が浮かんできた。

 安達くんの変装は本当に完璧だったんだ。

 私が隣に座ると、パパが「名古屋で降りるよ」と言った。

 私は帽子の中に髪の毛を収めて深くかぶり、パーカーの襟の中に顔を埋めた。もしも安達くんの変装が見破られたら「監視役」が車内を探すだろう。そうしたら、顔を出しているパパは気がつかれてしまうかもしれない。パパも緊張しているのか、名古屋駅に着くまで一言も喋らなかった。

 名古屋駅では乗車するお客さんがホームに長い列を作っていて、彼らに紛れて新幹線を降りることができた。

 急ぎ足で階段を降りて別のホームに登り、名古屋駅から京都駅に戻る新幹線に乗りこんだ。窓の外を闇が流れ、そこに柳沢君や久美子や、安達君の顔が浮かんでは消える。

 今日の大旅行に寄り添ってくれた柳沢君に、そしてみんなに今の私の姿を見せたい。みんなが教えてくれた、信じることの強さを、そして結果を勝ち取るにはそれなりに準備と努力と、忍耐が必要なことを。この二ヶ月弱の間にきっと私は変わった。パパに会えて自分の中で揺らいでいたものに芯が通った気がする。今の私の姿を見て、みんながどう感じるか聞いてみたい、みんなの顔を見たい。

 でも、これでもう終わり、皆とはもう会えない。

 暗い窓に映る私の頬を涙が流れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ