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翼  作者: ゆくえ知らず
柳沢邦雄

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28/62

柳沢邦雄 13

「四人の中で、今となってはお前が一番の運動不足だぞ。駅伝大会はどうするんだよ。やだぜ、友人が走っている途中に心臓発作なんかになったら」


「棄権するから関係ないよ」と僕は言った。走ったためなのか、自分の声の響きがおかしい。

「牧之条さんが逃げきれたら、駅伝大会は人数不足になるから棄権する。そして僕たちは、必ずこの作戦を成功させるんだ。だから、関係ない」

 そう続けた言葉が妙に遠くで響いた。自分で話しているのではないような声だった。


「そうかなあ」と豪毅が納得したようなしていないような返事をした。そして「あした明日香、学校来るかなあ。それに、久美子も落ち込むだろうなあ」、そう言って明るくなりつつある空を眺めた。


 

 翌日の月曜日、牧之条さんは学校に来た。


 来るには来たが、青い顔をして、ときおり震えてさえいた。早川さんは、赤く泣きはらした目を隠すこともせず、そしてときおり何か言いたそうに、僕と豪毅に視線を向けた。

 放課後、クイズ研究会の教室にやってくると、早川さんは泣き始めた。その隣で牧之条さんは背筋を伸ばしたまま、ぼんやりと中空に視線を漂わせていた。きっと眠れなかったのだろう、白い顔が一層白くなり、目の下に隈ができている。


「明日香、どうなっちゃうの? これからもずっと檻の中で過ごさなければいけなの?」

 早川さんが詰まりながら言った言葉に、牧之条さんが電気を受けたように肩を動かした。

 豪毅が、非難するような目で僕を見た。わかってる。ちゃんと次のプランについて話すつもりだ。


 でも僕よりも先に豪毅が口を開いた。

「久美子はよ、面倒見いいから責任を感じちゃうんだよな」

 相変わらず言葉は悪いが、優しい言い方だった。

「でも、心配すんな。チャンスはまだあるからよ」


 早川さんが顔を上げた。

 牧之条さんが僕に視線を向けた。

「柳沢君」

 牧之条さんが口を開いた。静かな響き、資料室で聞いたあの優しい響きだった。


「パパのところに逃がしてくれるのよね」


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