柳沢邦雄 13
「四人の中で、今となってはお前が一番の運動不足だぞ。駅伝大会はどうするんだよ。やだぜ、友人が走っている途中に心臓発作なんかになったら」
「棄権するから関係ないよ」と僕は言った。走ったためなのか、自分の声の響きがおかしい。
「牧之条さんが逃げきれたら、駅伝大会は人数不足になるから棄権する。そして僕たちは、必ずこの作戦を成功させるんだ。だから、関係ない」
そう続けた言葉が妙に遠くで響いた。自分で話しているのではないような声だった。
「そうかなあ」と豪毅が納得したようなしていないような返事をした。そして「あした明日香、学校来るかなあ。それに、久美子も落ち込むだろうなあ」、そう言って明るくなりつつある空を眺めた。
翌日の月曜日、牧之条さんは学校に来た。
来るには来たが、青い顔をして、ときおり震えてさえいた。早川さんは、赤く泣きはらした目を隠すこともせず、そしてときおり何か言いたそうに、僕と豪毅に視線を向けた。
放課後、クイズ研究会の教室にやってくると、早川さんは泣き始めた。その隣で牧之条さんは背筋を伸ばしたまま、ぼんやりと中空に視線を漂わせていた。きっと眠れなかったのだろう、白い顔が一層白くなり、目の下に隈ができている。
「明日香、どうなっちゃうの? これからもずっと檻の中で過ごさなければいけなの?」
早川さんが詰まりながら言った言葉に、牧之条さんが電気を受けたように肩を動かした。
豪毅が、非難するような目で僕を見た。わかってる。ちゃんと次のプランについて話すつもりだ。
でも僕よりも先に豪毅が口を開いた。
「久美子はよ、面倒見いいから責任を感じちゃうんだよな」
相変わらず言葉は悪いが、優しい言い方だった。
「でも、心配すんな。チャンスはまだあるからよ」
早川さんが顔を上げた。
牧之条さんが僕に視線を向けた。
「柳沢君」
牧之条さんが口を開いた。静かな響き、資料室で聞いたあの優しい響きだった。
「パパのところに逃がしてくれるのよね」




