早川久美子 3
夏休みがすぐそこまで迫っていた。
夏休みが終われば慌ただしく実力テストが実施され、結果に一喜一憂する間もなく、その翌週には文化祭が控えている。それが巣鴨北高校の年中行事だった。
文化祭の準備は夏休み前から始まっており、ロングホームルームでの集中討議での結果、私たちのクラスのだしものは「男女混合メイドカフェ」に決まった。調理その他を担当するスタッフと、カフェで接客をするキャストに役割を分担し、キャストになった男子は女装してメイド役に、キャストの女子は男装して執事役となることとなった。
そして「見た目で損をしている」目立ちたくない私と明日香は、恐れていた通りキャストに推薦されてしまった。
文化祭実行委員からも、「クラス委員なんだし」「背が高いから映える」「クラスのポイントに絶対貢献できる」などといろいろと理由を挙げて説得されたけれど、こればかりはどうしても受けられなかった。なんとか断って調理担当に回してもらったけど、クラスの中に元々女子が少ないので、皆をずいぶん落胆させてしまった。
ところが、引っ込み思案でこれまでどんな場にも出てこようとしなかった明日香が、キャストに推薦されると少し考え込んだのちに「やります」と受け入れた。司会をしていた文化祭実行委員が安堵の表情を浮かべて、クラスの女子が沸き立った。
ロングホームルームの後、部活に向かう前に明日香に声をかけた。「どういう心境の変化なの」
そう問いかけた私に、明日香は小さく笑いながら、秘密を打ち明けるように「ちょっと色々変えてみるのもいいかなと思って」と答えた。いつもの伏し目がちの表情ではなくて、私と目を合わせて笑った。
「カゴの鳥」は自分の居場所をカゴの外に探そうとしているのかもしれない、明日香の表情を見てそう思った。明日香の細い背中に美しい小さな羽が生え始めているようにも見えた。ゆっくりとだけれど明日香は前に進んでいるんだな、それが自分のことのように嬉しかった。




