柳沢邦雄 7
左手の薬指にするのは結婚指輪だ。結婚指輪は変わらない。変わるのは、相手が変わる時だ。
僕は考え込んだ。この写真がいつ撮影されたかわからないと、牧之条さんをお父さんとの待ち合わせ場所に連れて行くことができない。何年の写真なのかを確認するには、指輪の相手がいつ変わったのか聞くのが一番早い。しかし、その質問はあまりにも失礼だった。
僕は、まだ涙で頬を濡らしている牧之条さんに「ちょっと」と声をかけて部屋の奥に連れて行き、指輪の件を説明した。
「指輪が違うことに気がついたのはさすがとは思うけれど」
牧之条さんは呆れた表情をしてため息をついた。「柳沢君も安達君も、凄く博識なのにこういう方面は全くなのね」
何を言っているのだと僕は思った。こういう方面、ってなんなんだ。
牧之条さんは僕の手から写真を取り、「先生」と言いながら高橋先生に近寄ると、「この写真に写っている先生は、エンゲージリングをしていますね。これはダイヤモンドですか」と聞いた。
高橋先生は、驚いて写真を見直し「よくわかるわね。言われてみればそう、これは婚約指輪をしていた時ね」と言った。
牧之条さんはまだ赤く腫れた目をキラキラさせて頷いた。その表情を見て高橋先生は少し照れた表情をし、それから昔を思い出すように少し視線を上げて、「旦那が凄いロマンチストでね」と続けた。
「七夕の夜にプロポーズされて、翌年の6月に結婚したのよ」
「素敵、プロポーズされたのは何年のことなのですか?」
「平成四年ね」
「1992年ですね」と僕が変換した。またもや首をかしげていた牧之条さんは「あ」と言って卒業アルバムの表紙を見た。そこには1992年度とあった。
「この写真、三年生の文化祭の時の写真なのね」と牧之条さんが切れ端を手にとってつぶやいた。「大事な写真なんだ、きっと」
僕もそう思う。そしてそれほど大事な写真なのであれば、残りの四分の三に何が写っているのかは自明だろう。
そうだ、と思い当たった。「せ!」も、確かにこの写真が一九九二年に撮影されたことを証明していた。1992年が「1」なのだ。
「柳沢君」
もう素性がバレてしまっているので、牧之条さんが僕にいつものように話しかけてきた。高橋先生の表情に少し微笑みが浮かんでいる。急に恥ずかしくなってきた。
「でも番号はなんなの」




