柳沢邦雄 6
班ごとに分かれて行動したのだろう、五、六人ほどのグループ写真がページを埋めていた。その一つに、出雲大社の銅の鳥居の前で拝殿を背景にして、牧之条花香と佐藤圭が一緒に収まっている写真があった。
「パパとママ、一緒のグループだったんだ」
前後に男女で並んだ集合写真、女子はピースサインを出して体を寄せ合っているが、男子は女子の後ろで緊張しているようにまっすぐな姿勢で手首の先だけで控えめにピースサインをしている。
そして、佐藤圭の視線はひっそりと牧之条花香の背中に向けられていた。
「パパ、これじゃバレバレだよ。ママは鈍感すぎたのね」
写真を見ながらつぶやいた牧之条さんは、しばらく写真を見つめていたが、堪えきれなくなりしゃくりあげると、声を上げて泣き始めた。
高橋先生がゆっくりと歩み寄り、牧之条さんの震える肩に手を置いた。
「そう、ご両親の写真なのね」
ページのタイトルには、「修学旅行二日目 神話の国出雲へ 1991年6月11日」とあった。
「神話の国」、そのタイトルが目を引いた。先ほど見た写真で、佐藤圭は歴史研究会にいた。そしてあの写真の10月の上のバツ印。
思わず、声が出た。
「10月は、神無月だ。10月じゃない、じゃなくて神無月じゃない、だったんだ」
視界が一気に開けた。
「牧之条さん、お父さんに会えるかもしれない」
僕は、役回りも忘れて興奮して声をかけてしまった。牧之条さんは高橋先生の胸に顔を埋めて泣いており、その高橋先生は目を丸くしている。
その時、資料室のドアに何かが当たる音がした。その音で僕は我に返った。が、目の前の高橋先生の方が問題だった。今更ではあるが、何もなかったかのように「あ、いや、お嬢様。謎が解けました」と、言い直した。
高橋先生は、牧之条さんの頭を撫でながら口をポカンと開けていたが、やがて吹き出して笑い始めた。
「お友達? クラスメイト? それとも」
もう隠し通すのは無理だった。クラスメイトですと、うなだれて答えた。
高橋先生は、少し意外そうな表情で「そう」と言うと、自分の胸に顔を埋めている牧之条さんの背中に回している腕に少し力を入れてから、体を離した。
そして僕に向かって明るく笑い、「かわいいいたずらね。こういうの、嫌いじゃないわ」と言いながら、耳元に手を当ててメガネのつるを直した。
その動作を見たときに違和感の正体が分かった。全く、何で今まで気がつかなかったんだろう。
僕は、高橋先生から離れて写真を見直した。写真の中では高橋先生の左手の薬指は眩しい光を放っていた。しかし今高橋先生がしている指輪は、光っていないのだ。
指輪が違う。




