柳沢邦雄 4
学校には毎年度分が保存されているのではないだろうか。しかし、どうやって切り出すか。
「父も、ここの卒業生なんです、母と同じ学年でした。それであの写真が父から母へのメッセージのはずなのです。どこかにヒントがあると思うんです」
目を潤ませて愛おしげに教室を眺める牧之条さんに、高橋先生が優しいまなざしを向けた。
「三年生の教室はずっとこの階を使っているから、この教室をあなたのご両親も使ったかもしれないわね。同じクラスだったの?」
「いいえ、同じクラスになったことはないと、母は言っていました」
牧之条さんは、「お母さん」とつぶやいた。
「ご両親は何組だったの?」
高橋先生の質問に牧之条さんは首を振って「知らないんです」と答え、「お母さんとお父さん、どんな学校生活を送ってたんだろう」
と言って教室を見回した。
高橋先生が「卒業アルバムを見たことはないの?」と聞いた。僕は心臓が口から飛び出すほど驚いた。
「ないです。家にはお父さんの場所もお母さんの場所もなかったし」
背後から(なんの話?)とささやき合う生徒たちの声が聞こえた。
「それに私の居場所も」と牧之条さんが続けた。
高橋先生は、ちらりと教室に残っていた生徒たちを見ると、その場を離れるように「ちょっといらっしゃい」と僕たちを促して廊下に出ると、そのまま無言で足早に歩き出した。
「あの」と僕は声をかけたが、高橋先生は振り返ることなく階段を降りていき、職員室の前で僕たちを待たせると、「資料室」という札のついた鍵を持って出てきた。
手に汗が出てきた。思いも寄らない展開だった。
「本当は部外者には閲覧させないのだけれど」
『資料室』と表示されたドアを解錠しながらようやく口を開いた高橋先生は、中に入ると「ご両親は何年度の卒業生?」と聞いた。
牧之条さんが「えーっと」と指を折った。
「あれ、平成、昭和?」と言いながら首をひねるので、「1992年度、平成四年度の卒業生だよ」と僕は横から助け船を出した。牧之条さんの頬が赤くなった。
「あ、ありがとう」
高橋先生は、くるりと背を向けると、「1992年度、と」と言いながら並んだ資料の背表紙をなぞり一冊の卒業アルバムを取り出した。窓際の机の上に置き、椅子を引きながら「でもあなたは部外者じゃないから、どうぞ」と牧之条さんを促し、卒業アルバムに視線を落とすと耳元の髪の毛をかきあげた。
その時、何かがおかしいと気がついた。どこかで見た光景だけど何か違う。




