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  作者: ゆくえ知らず
柳沢邦雄

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17/21

柳沢邦雄 10

「メイク、濃くないですか?」と、いつもと違う牧之条さんが問いかけた。目の光がいつもより強い感じがした、それがメイクのせいなのかどうなのかわからなかった。

 豪毅ならなんというのだろう。あいつはこういう時に使う、気の利いた言葉を知っていそうだった。

「そうかな、よく分からない」と言う言葉を、僕は選んだ。

 牧之条さんは「そうですか」と言って、窓の外を見た。そしてしばらくすると、「柳沢君」とまた僕のことを呼んだ。返事をすると、「このメイクも必要なこと。そういうことなんですね」

 それは、その通りだった。

「うん、そうだね」とすんなりと答えが出た。牧之条さんはため息をついた。

「メイク、濃くないですか?」と窓の外に顔を向けたまま、牧之条さんがまたたずねた。

 なんで同じことをまた聞くんだろう。

「そうかな、よく分からないよ」と僕は答えた。


 出雲市駅でバスに乗り換えて揺られること三十分ほどで、出雲大社のバスターミナルに着いた。

 一時間半後のバスで帰路に着かねば東京に戻れないので、それまでに可能性があるところを隈なく探さなければならない。それよりも何よりも、今年の場所が間違っていないかどうか、不安で仕方がなかった。何度も頭の中で計算したものの、いざ実際にここまでやってきて間違っていたら全てが水の泡だ、祈るような気持ちで歩みを進める。

 銅の鳥居に着いた。牧之条さんの両親が、修学旅行の時に写真を撮った場所だ。今でも周りではたくさんの観光客が入れ替わりに鳥居を背景に写真を撮っている。周りを見渡すが、牧之条さんを探すお父さんらしき人は見えなかった。もっとも僕には彼の風貌がわからないのだが。僕たちを監視しているような人も見えなかった。

 僕は、スマホで牧之条さんの両親の修学旅行の写真を表示して牧之条さんに見せた。「ちょうどこの場所だね、写真を撮ったのは」

 牧之条さんは写真と実物を熱心に見比べて、「パパとママがここにいたのね」と言った。そして「柳沢君、こんな時に変なお願いなのですが」と顔を上げて、「同じ場所で写真を撮ってもらってもいいですか?」と言った。

「同じようになるかしら」

 彼女の言葉に、僕は立ち位置やスマホのカメラレンズの倍率を動かして、なんとか同じような背景が映り込むように調整した。牧之条さんは何度もお母さんのポーズを確認して、同じような姿勢で写真に収まった。

 しかし、と写真を撮った後で気がついた。牧之条さんはスマホを持っていないのだ。

「この写真どうするの」

 牧之条さんはちょっと考えて、「とりあえず持っていてくれますか」と言うと、すぐに真剣な眼差しになって周囲をもう一度探し始めた。

 やがて不安げに「いないわ」とつぶやいた。

 僕は、「拝殿と本殿の周りも見てみよう」と言って歩き出した。少し遅れて牧之条さんが歩き出し、「場所が違っているの?」と聞いた。「メッセージの通りだったら、本来の場所は本殿前、さらに言えば字豆柱跡なんだ。ただ、修学旅行の写真を撮った場所の可能性もあるから一応確認したんだけどね」と、それらしい説明をした。

 鳥居の奥には拝殿が見える。あまり時間に余裕はないがここまで来てお参りをしないわけにはいかないのだろう、牧之条さんに促されて二人で並んでお参りをした。しかし、出雲大社は縁結びの神様だ。高校生二人のこの姿を一体どう見られているのかと思うと居心地はあまり良くなかった。

 拝殿の裏へまわり、本殿の前に出る。牧之条さんの両親が修学旅行で来た時にはまだ発掘されていなかった宇豆柱跡が、地面に記されている。牧之条さんと一緒に宇豆柱跡に立って周囲を見渡す。牧之条さんはお父さんを探し、僕はこちらを監視している人を探した。向こうからはこちらが絶対に見えるはずだが、それらしい視線を送ってくる人を見つけることは結局できなかった。

 牧之条さんの表情が徐々に暗くなっていく。

 僕は深く息を吸い込んで、言いにくいことを一気に言った。

「残念だけど時間だ、帰らないと」

 牧之条さんが僕を見上げた。

「会えないということ?」

「ごめん」

 牧之条さんの表情が硬くなった。

「絶対に会わせてくれるって言ったじゃない」

 牧之条さんの声は涙まじりだった。それでも今は「ごめん」としか答えられなかった。

 牧之条さんはうつむいていた。僕はどうしたらいいかわからず、彼女の前に木偶の坊のように立っていた。牧之条さんはそのままゆっくりと体を前に倒し、額を僕の肩に当てた。

「信じていたのに」

 そう小さく呟くと牧之条さんは僕の肩から頭を離し、僕と目を合わさないまま歩き出した。

 そしてそれきり牧之条さんは口を開かなかった。


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