早川久美子 14
急にまくし立てた私の慌てぶりを見て、明日香が小さな声で笑い始めた。
豪毅がそれを待っていたかのように「それでさ、明日香に聞きたいことがあるんだ、両親のこと」と、軽い調子で語りかけた。
和らいでいた明日香の表情が少し硬くなった。豪毅はそれには気付かないのか、軽い調子のまま「写真の日付と番号は、法則のあるものじゃなさそうなんだ。それで、明日香の両親しか知らないことがキーになってんじゃないか、って邦雄と二人で考えたんだよ。あんまり立ち入ったことを聞くのは悪いとは思うんだけどさ」と続けた。
考え込む明日香に、豪毅が「何でもいいから二人に共通する出来事とか趣味とかない? そこにヒントがあると睨んでんだけどよ」と続けた。
しばらく考えを巡らせていた明日香は、心を決めたように「はい」と答えると、「ママから聞いた話ばかりだけど」と話を始めた。
「ママとパパは、同じ高校の卒業生なの。でも高校の時には付き合っていなくて、大学に入ってからお母さんが入っていたサークルに学外からお父さんが参加して、それから付き合い始めたって言っていました」
「同じ高校って? 場所は東京?」
柳沢君の言葉に、少し躊躇してから明日香が答えた。
「根津高校」
都立の最難関で、その立地と進学率の高さから日本の最高峰の大学と渡り廊下でつながっていると噂すらされる高校だった。
「え」と豪毅が声をあげ、明日香が少し肩をすくめた。
私たちの巣鴨北高校だって悪くはないが、根津高校はその上をいく。
「パパは高校生の時からずーと、ママのことを好きだったに違いないって、ママは言っていました。高校生の時もクラスが一緒になったことがないのに、思い出してみると困った時はいつも近くにいたような気がするって。ママ自身もひょっとすると、とは思ったことがあるらしいけれど、パパはそんなことを一言も言わないし、態度もはっきりしないし。相談したりする時に頼りになる人だから、何となくそのまま流してしまっていたって。大学のサークルにわざわざ学外から参加してきたのを見て、あれ、もしかすると、と思ったって」
「へー」
間の抜けた豪毅の声に、私は頭を抱えた。
「安達くんって」と明日香が珍しく豪毅に話しかけた。「こういう話に興味がないのね」
「え、なんでわかるの」
豪毅がそう答えると、明日香がちらりと私に同情するような視線を送り、話を続けた。
「大学は京都です。もともと東野流が明治維新の東京遷都に合わせて分派した流派なので、京都で一度は学ぶことになっているの」
「じゃあ明日香も?」
私の言葉に頷いて、「そう言われてはいるけど、自分で決めたい」と寂しそうに答えた。高校一年の時からもうそんなことを言われているなんて、本当に「かごの鳥」だ。
「ママは茶道部と華道部の掛け持ちで、パパは、茶道部に参加していたそうです」
「京都か」と柳沢君が呟いた。
「その後のことはあまり聞いていません。パパは大学院に進んでその後に就職して、しばらくして結婚して牧之条家に入ったの。でも大変だったんだろうな、と今なら思います。ママが東野流を継ぎたくなくなったのはパパのせいだ、パパが外の変な空気を持ち込んだからだと、お祖母様や大叔父様たちから非難ばかりされていたって、そうママが言っていました。パパは辛そうにしている姿を私たちの前では見せなかったけど、きっと落ち着ける場所はなかったんだと思います。私は妹か弟が欲しくてママに何度も頼んだことがあるんだけど、『ごめんね』といつも言われていました。今ではわかります、後継ぎになるような子供を増やしたくなかったんじゃないかな」
柳沢君が顔を上げた。
「女性が当主を継ぐの?」
「はい。今はお祖母様が七代目で、お母さんが八代目になることになっていました」
「明治維新の時に分派してできた新しい流派なのに、もう七代目なんだね」
「空襲などで矢継ぎ早に当主が亡くなったそうです」
なんで柳沢君はそんなことに気がつくんだろうと、私は少し怖くなった。
「じゃ、次は明日香が家元、ってこと?」
無邪気に豪毅が聞いた。あ、そうか。
「継ぎたくない」




