早川久美子 13
豪毅がそう言うと、明日香がまた不安を募らせたようだった。柳沢君がその表情を見て「とにかく、僕と豪毅で考えてみるよ。明日またここでミーティングをしよう」と声をかけた。
「安達くん、柳沢くん、それに明日香、ありがとう。宜しくお願いします」
明日香がそう言って、深くお辞儀をした。入学式の日、初めて会った時にも見た、綺麗なお辞儀だった。
「じゃあ私、部活に行くから、また明日」と三人に声をかけて席を立とうとすると、明日香が「終わるまで待っていていい?」と聞いてきた。
「え、でも結構遅くなっちゃうよ」
「監視が付いていて、怖いの」と明日香が言って、すがるような目で私を見た。そうだ、明日香は「監視が付いている」と言っていたのだ。
「監視? なんで?」と豪毅が聞いた。
「自分の家に監視されているの?」
柳沢君の顔がこわばっている。明日香が小さく頷いた。
「パパに会わなければ、とママが言いだした頃から二人で出かけると監視が付くようになったの。家に帰ってきた後しばらくすると、誰かがお祖母様や大叔父様に、私たちがどこで何をしていたか報告していました。ママが亡くなってからは、今度は私を監視しているみたいなの」
明日香は怯えていた。
「ひでえな。俺と邦雄で一緒に帰ってやろうか、ボディーガードみたいに。久美子はマネージャーの仕事で遅くなるだろ」
明日香の表情が明るくなったが、柳沢君が少し考えてから「やめておこう」と言った。
「報告している人は、牧之条さんの知っている人ではないんだよね?」
柳沢君の言葉に、明日香が少し考えてから「はい、見たことがない人です」と言った。
「お母さんが事故に遭った時も助けるまではしなかったから、身内ではなくて興信所に依頼をしているんだと思う。相手はプロだから、こちらとしては情報はできるだけ隠したい。写真のことを隠しておくのはもちろん、周りに味方がついていると思わせることも避けたい。不安かもしれないけれど、バラバラに帰ろう」
柳沢君の言葉に明日香の表情が曇った。豪毅が私と明日香の表情を交互に見て、明るい声で言った。
「まあ、監視ではなくて見守られていると思えば。気持ち悪いかもしれないけど、安全は安全だな。謎は俺たちが解くから、明日香と久美子は安心していいよ。明日香は、図書室に立ち寄って勉強していたことにすればいい」
明日香は、写真を二人に渡した。柳沢君の言うことはもっともだけど、それにしても少し冷たいのではないかと、私は思った。
翌日、私たちはめいめいにクイズ研究会に向かった。「情報はできるだけ隠したい」という柳沢君の言葉が気になってしまい、日中明日香と会話をするのもためらわれてしまった。息を潜めているというのは、こういうことを言うのかもしれない、とても息苦しい。
四人揃うと、柳沢君が「今のところ収穫なし。日付をたどって色々調べたけど、この日に起こった歴史的な事件はたくさんあって、それにバツ印をつけて排除することで何かを限定することなんてできそうになかったよ」と言って、疲れた表情で頭を下げた。「力になれてなくてごめん」
あれこれと二人で頭をしぼってくれたのだろう、豪毅の方も疲れた表情をしていた。
対照的に明日香は、心なしか明るい表情だった。今日は研究会に来る前に図書室に一旦寄ってからきたということだった。
「気分転換とカムフラージュよ」と明日香が微笑んだ。
「俺たちと違って、明日香は少し元気そうだよな」と豪毅が軽い調子で話しかけた。
「写真を渡して少し気持ちが軽くなったかな。それに三人がいてくれて心強いの」
明日香が表情を少し明るくして二人を見た。本当にため息が出るような美少女だ。柳沢君が一瞬だけど口元を緩めた。柳沢君が照れるなんて初めて見た。一方の豪毅は何の反応も示さなかった。美人の姉二人に可愛がられて育った豪毅にとってはこんなやりとり普通なのだろう。私は先が思いやられてため息をついた。
「久美子も疲れた感じだな。俺たちと一緒で背負い込んだからな」
何てことを言うんだ、と思って豪毅を睨んだ。隣に座っている明日香が急に肩を縮めた。
「ごめん、久美子。巻き込んじゃって」
「違う、明日香。私はあなたの力になれたら嬉しいし、全っ然負担でもないし、巻き込まれたなんてこれっぽっちも思っていないよ。何なのよ、豪毅は」




