早川久美子 11
言われてみればそうだ。明日香のお母さんが写真を探していたとは聞いたけれど、どういう目的だったのだろう。明日香を見るとうつむいたままで、膝の上でハンカチを握った手が震えている。
「明日香」と声をかけると、明日香はハンカチを握り直して顔を上げ、「謎を解いて、私をパパのところに逃がしてほしいの」と、はっきりした声で言った。
私は、驚いて明日香の横顔を見た。決意を示すような強い目の光だった。
「逃げるって」
柳沢君と豪毅が驚いて目を合わせた。
「穏やかじゃないよね、それに」と柳沢君が言ったのに、「いきなり結論なんて」と豪毅が続けた。
「いやそうじゃなくて、理由だよ。お母さんが亡くなったことと関係があるの? お父さんは家にいないの?」
柳沢君が質問を変えた。
明日香が頷き、お父さんが中学一年の時に失踪したこと、それ以来お父さんに会いたくもないと言っていたお母さんが、最近急にお父さんに会わなければと言い出したこと、事故で亡くなる時に、写真を見てと言い残したことをぽつぽつと話した。
「信頼できる人に見せて、とママが言ったの。だから久美子に相談した」と明日香は言葉を結んだ。
明日香の言葉に、豪毅と柳沢君が私を見た。
「それで、あなたたち二人に相談したのよ」と、平静を装って言ったけれど頬が熱くなった。それを隠すために「お願い、助けて」と頭を下げた。
「この写真について知っていることはある?」
豪毅と一緒に写真を覗き込みながら、柳沢君が明日香に聞いた。
「何も。ママが探していたことしか知りません」
二人が難しい顔をして覗き込んでいる写真を、私も改めて見た。
写真は、一枚の写真の右端の四分の一くらいを切り取った、その四分の一の部分だった。
学校の教室を後ろの方から撮影したものらしく、切れ端には黒板の右端が写り込んでいて、画面には日付が書かれた端の部分と、黒板に横書きで描かれた文章の最後の部分なのだろう、飾り文字風にチョークで縁取られた「せ!」の文字が切れ端の左端に見える。
黒板の前には、机の一つが横向きに置かれていて、そこに左を向いて座った女性が小さく写っている。彼女は髪をかきあげていて、その耳元が光っている。写真の左端下の方、切り口の部分には三角形の白い紙か光のようなものが映り込んでいる。
奇妙なのは日付の部分だった。黒板の日付は10月17日と記されていたが、10の上のスペースに写真の上からボールペンでバツ印が書き込まれていた。そして、「日直」とある部分には名前はなく、その空白に名前の代わりにやはり写真の上から数字の「1」が書き込まれている。
「これ、触ってもいい?」と柳沢君が尋ね、明日香が頷いた。
「ハサミじゃなくて手で切ってるな」と言いながら豪毅が写真を裏返した。
「やっぱり、フィルム写真を現像したものだね。相当古いよ、写真自体は」と柳沢君が写真の裏に印刷された文字を指差して豪毅に言った。
「だな。写真自体は相当古い。でもボールペンの文字はそれほどではない。古い写真にボールペンで書き込みをして、手で切った、ということだな。手元にはさみがなくて準備する時間もなかった、ということか」
「何かを伝えるために急いでいた、という可能性はあるね」




