早川久美子 10
「二人に。それにちょっと込み入った話なの」
私の言葉に柳沢君が少し眉を寄せた。観察されているようで居心地が悪い。
「助けてほしくて」
近くに人がいないことを確認して、私は小声で言った。
「助ける?なんか真面目な話?」と豪毅があっけらかんと聞いてきた。真面目な話に決まっているじゃないか、こういう時の豪毅の無神経さに呆れてしまう。
私の横で硬い表情で明日香が頷いたので、「どこまで話していい?」と尋ねたが、白い顔を一層白くして頷くだけだった。仕方ない、と私は声の届く範囲に人がいないことをもう一度確認して、「明日香のお母様が亡くなって」と切り出した。
さすがに二人の表情が一変した。
豪毅が慌てて「そ、それは。御愁傷様です」と明日香に向かって頭を下げた。みんなにわかってしまうじゃないか、豪毅のバカ、と言いたいのを我慢して、どう切り出そうかと考えていたら、柳沢君が「確かに、場所を変えた方が良さそうだね」と静かに言い、体を揺すって立ち上がった。
柳沢君と豪毅の後ろを、明日香を支えるようについていく。明日香は一度私の肩から頭を上げて周りを見た。そして、「学校の中だった」とつぶやくと安心したような表情をした。
柳沢君は、「クイズ研究会」と太い字で書いた紙をドアに貼っただけの教室の前で止まると、引き戸を開いた。使っていない教室を前後で仕切った後ろ半分がクイズ研究会に割り当てられたスペースのようだった。スペースの中央に四つの机が向き合っておかれ、教室前方との仕切りの前に余った机が寄せられている。
机を挟んでこちら側に私と明日香が座り、反対側に柳沢君と豪毅が座った。二人の肩越しに教室の後ろに設けられた生徒用の個人ロッカーのスペースが見えた。いまではその中にはシグナルのようなものや大きなボタンのついた、ガラクタとしか形容しようのない機械が無造作に置かれていた。
明日香は、席についても怯えたように俯いていたが、並べられた機械に気がつくと不思議そうに目をやった。
明日香と私を観察するように見ていた柳沢君は、その視線に気がつくと振り返って「ああ、あれはね」と言って立ち上がり、一つの機械を手に取り頭にかぶった。頭から伸びたコードの先にある箱を手に取ると電池を入れてこちらを向き、箱の真ん中にある大きなボタンを押した。
ピコンと大きな電子音がして、柳沢君の頭の上に赤く輝くシグナルが跳ね上がった。
「これ、クイズ選手権の練習用。昔使っていたらしいんだ」
柳沢君が真面目な顔で言うと、明日香がぽかんと口を開けた後で、微かな声を出して笑った。その様子に柳沢君が安心したように機械を戻し、席に着いた。しかし、それでも明日香は話すきっかけを探るように視線を左右にめぐらせていた。
その様子を観察するように見ていた柳沢君が、変な顔をして明日香から豪毅に視線を移した。そして少しだけ口元を緩めた。なんだか笑いをこらえているように見えた。
本当に柳沢君の考えていることはわからない。
柳沢君の視線に気づいた豪毅は、待っていることに耐えられなくなったのか、急に不機嫌な表情になり、「なあ、なんの用事なんだよ。明日香の母ちゃんが亡くなってそれでどうしたの」と言った。
バカバカ、何てことを言うのよ、と私は焦って豪毅を睨みつけた。柳沢君の深謀遠慮ぶりも曲者だが、豪毅のこのストレートな物言いは、本当に問題だ。
明日香が肩を震わせると、重ねた手の甲にパタパタと涙が落ちた。
「豪毅はさ、もうちょっと考えて喋ってよ」
私は、豪毅を睨みつけた。
すっかり弱ってしまってなかなか声を出すことができない明日香に変わって、私は思い切って話し始めた。
「明日香のお母さんが文化祭の前日に亡くなったの、交通事故だったって。その時に写真を託されたんですって。その意味を解読してほしいの」
「意味?解読?なにそれ」と言う豪毅の隣で、柳沢君がまた眉をひそめた。
私が明日香を促すと、明日香はハンカチを出して机に置き、そのハンカチを開いて写真を見せた。
「なんだ、これ」と豪毅が首を傾げた。
「この写真の謎を解くことには、どういう意味があるの?」と柳沢君。




