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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第四章 恋と死刑の嗜虐囚
46/49

逝く

      3


「抵抗するなよ」

 そう言われて立たされたアタシは、ミストに乱暴に背を押されて死刑場まで歩いた。独房を出るときに背中で「ネネ!」とチェロピの心配そうな声を聞いた。それで、ああ、これで本当に終わりなんだ、と怖くなった。

 死刑場の扉の前で首にチクっとした痛みが走り、横目で注射器が見え、何かが体内に無理やり入れられる痛みを感じ、視界がぼやけ……


 目を開けても視界は真っ暗だった。まぶたの裏で動く眼球の感触。遅れて、両手を横に伸ばされた状態で全身が固定されていることに気づく。死刑場の十字架にいるんだ、アタシ。

 正面でかすかに物音がする。そこには凶器が置いてあるはず。誰かがアタシを処刑する凶器を物色しているのだろう。そう考えると、恐怖で肌が粟立つ。心拍数が上がる。

 最後の晩餐も無く、突然呼ばれて死刑場に連れて行かれ、気づけば固定されている。しかも面会だとか嘘をつかれてここまで歩かせた人もいたわけだから、なおさらたちが悪い。いや、死刑囚に最後に手紙を書かせたり、煙草を吸わせたり、希望する美味しい料理を与えたりする方が、おかしいのかもしれない。

 でも、死ぬその直前まで『死刑』という単語一つすら聞かされないのは、さすがに残酷だ、と思う。しかも。アタシは死刑執行人であるアタシが目の前にいると想像してみる。どこから切断しようか考えて、嬉しそうな声色で話しかけてくるイカれた女。そんな奴に腕や脚を斧で切断され、脳天を割られる最期なんて、ヤバすぎる。胸糞悪すぎる。

 でも、死刑囚側になって初めて、じゃあアタシは死刑執行人に適役だったんだ、とわかってしまった。だって電流椅子や首吊りで死ぬほうが百倍マシだもん。

 どちらにせよこの想像と思考は鳥肌が立ってしょうがないので、頭の隅に追いやる。ちょうど立ち上がった気配がした。

「起きてたか。——ああ、死刑執行人はいないぞ。俺がお前をこの手で直接殺すからな」

「え、ミスト……?」

 間違いなく、ミストの声だった。どす黒い怒りのこもった声だったが。

 ミストがアタシをいたぶって殺すのか。復讐ってことだ。アタシはぶるりと震え、一瞬にして想像してしまう。

 斧を持ったミストが、婚約者を殺された恨みと怒り、そして復讐心を満たせる喜びを顔面に張り付けて、アタシの太ももに思いっきり斧の刃を叩きつけるんだ。

「アアアアアアア——ッ!」

 アタシは味わったことのない激痛に絶叫し、涙を流している。

「やめて! ミスト、お願い!」

「どの口がほざいてる……! ふんんっ!」

 バットで膝を割られ、斧で前腕を切断され、腹をナイフで貫かれ、腸をほじくり返される。アタシは狂ったように泣き叫んでいる。

「簡単に逝けると思うなよ、このクソ女が」

「イヤアアアアア!」

「こんなもんで済むか。もっといたぶってから殺してやる!」

「ぅ……ぅ……」

 終盤、アタシの意識はほとんどないだろう。最期にミストが斧を振りかぶり、

「逝け」

 憎悪が濃縮されたその一撃が、アタシの脳天をかち割るんだ。


「ひひっ、でもミストになら、されてもいいかも」

ひひひひ、ふふふふ、と口から漏れる。

「なに笑ってる、この異常者がっ!」

 驚いたようにそう叫ぶミストへ、アタシは笑顔を向けた。

「ほら、早く殺りなよミスト、どこから切られるのかな、腕かな? 脚かな? それともいきなり脳天かなぁ~?」

「なに言ってるんだ、お前……」

 怯んだのか、声が若干震えたのをアタシは聞き逃さない。立場はまるで逆なのに、今はアタシがミストを言葉でいたぶっているのだ。

「怖いんだぁ、殺すの。……ああ、でも、署長も満足に殺せてなかったもんねぇミストっ! キャハハハハハハッ!」

「ふ、ふざけたこと言うな、署長は確実に殺した! お前だって今ここでちゃんと殺す……!」

「自信のない声だねミスト、ほら早く、早く、早く、早くぅ!」

 アタシは首をリズミカルに左右に動かし、挑発する。

「凶器はなに? やっぱり斧? それともナイフ? なんか楽しくなってきたなぁ! ミストに殺されるなんて、これ以上ない終わり方だもん! 早く痛みをちょうだいミスト! 焦らさないでっ!」

「……っ、気色悪い女が——!」

「お?」

 ミストが覚悟を決めたような気配に変わり、空気がピリつくのを肌で感じた。急に心臓がドクドク鳴りだす。

「ゔぉぁああああああああああ——!」

 地の底から響いてくるような、本能的な危機感を煽るミストの唸り声。鳥肌が立ち、アタシの全細胞がそこから逃げろ! と叫んでいた。本当にヤバい。気づけば逃げようと体を必死によじっていた。だが、

「死ねえぇええええええ——!」

 あ、アタシ、逝くんだ。

 獰猛な叫びが瞬時に近寄り、その手に握られている斧がアタシの脳天向かって振り下ろされ——、

 グチャ、という嫌な感触を最後に、アタシの意識はそこで終わる、

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