ゾクゾク
2
「ネっちゃん」
「欲しがりだなぁ、変態コーヌめ」
ベッドの上に腰かけていると、隣のコーヌがくっついてきて、唇を突き出してキスをねだってきた。んー、と言って目をつぶっている可愛い子犬に愛おしさを感じ、アタシはちゅ、とキスしてあげる。
「もっと」
潤んだ大きい瞳で上目遣いされると、アタシの心はうずうずしてきて、もう一回キスをする。するといきなり頬を両手で掴まれ、唇がこじ開けられ、中でコーヌが暴れてくる。間近でとろんとした瞳に見つめられると、こっちも抑えが利かなくなってくる。押し倒し、服をめくり上げ、柔肌を我が物にする。甘い吐息と熱い体温が混ざり合い、やがて尖った嬌声を上げたコーヌが、びくんと体を跳ねさせ、とろけるような顔つきになる。アタシもその表情に満足し、荒く息をしながら笑いかけている。
——振りかぶった斧を、アタシは力いっぱい振り下ろした。
「あああああああああああああ!」
アタシは、灰色の脳天ではなく、肩に深く食い込んだ斧を力ずくで抜く。そして、再び斧を振り下ろす。
「ぎゃっ、ああああぁ——!」
血飛沫を浴びながら、コーヌの苦しむ顔を見る。目隠しがずり落ちて、片目の上半分が見えている。
「ネっぢゃん、な、んで……」
血まみれの灰髪と白い頬。肩に食い込んだ斧を引き抜く。温かい血液が斧の柄を伝ってアタシの手に触れる。アタシは笑い、再び斧を振りかぶった。
反対側の肩めがけて斧を振るう。絶叫。肩の骨を砕く音と感触がして、真っ赤な血が頬に跳ねてくる。垂れてくるコーヌの体液を舌で舐めとり、アタシはニヤける。斧を肉から抜き取り、今度は体をねじって、泣き叫ぶコーヌの脇腹めがけて全力で叩きこむ。ゴッ。絶叫。
「じゃあね、大好きだよコーヌ。——もう、逝っていいよ、キャハハハハハハ——ッ!」
真っ二つにする勢いで、頭蓋に斧を振り下ろした——
「はっ——」
目を開くと、そこは死刑場ではなく、ただの暗闇だった。頬骨が痛くて、右半身が酷く寒い。アタシは冷たい床の上で丸まって寝ていたのだ。
「コーヌ……」
そうだ、コーヌはもういないんだ。アタシの親友で、可愛くて、大好きだったアタシだけのコーヌ。
「アタシが、処刑したんだ」
死んだんだ。コーヌは、もういないんだ。ふいに寂しく感じ、アタシは自分で自分の体を抱く。
夢の余韻か床の冷たさか、アタシの全身はゾクゾクと震えていた。
ス、とかすかに音が聞こえ、意識が覚醒する。扉の方を見る。のろのろと近づくと、薄闇の中だが、はっきりとトレーと皿が見えた。薄い容器の中で液体が揺らいでいる。
「水……!」
奪うように手に取り、容器ごと飲み込む勢いで一気に飲み干した。全然足りないので容器の表面を舐める。カチカチだが小さなパンもあった。すぐさま手に取り、半分ほどかじりつく。久々の食物に体が喜ぶ。
「うまっ」
一気に残りも食べ終える。あ、これだけか……。
足りないなと思っていると、アタシの前のトレーが引かれ、半分になったパンと水が再び差し入れられた。
「え?」
一瞬疑問を感じるが、思い当たって隙間から向こうを覗くと、チェロピの垂れた目と、立てた親指があった。チェロピ、マジありがとう! チェロピの好意を受け取った看守が分けてくれたのだろう。ありがたく頂戴する。
「ありがと、チェロピ。助かったよ。本当に力尽きるところだったから」
看守がいなくなってから、アタシは隙間から礼を言った。
「いいよいいよ! お互い様だよ!」
チェロピはめちゃくちゃいい子だった。明るいし可愛いし、アタシと文通してくれるし。なんで死刑囚になんかなっちゃったんだろう。
「マジでこのまま死ぬかと思った。本当にありがとう」
アタシはチェロピに見えるように手を合わせた。でもその直後に、冗談交じりに言った『死ぬ』が、全然冗談じゃないと気づき、半笑いしてしまう。死ぬ。そうだ、アタシは死ぬんだ。死刑に、快感を覚えてしまったから。だから死ぬんだ、ねぇコーヌ。
わたしあの看守とちょっと仲良いんだ、だから手紙も昼食に混ぜて返せてるの、などと陽気に喋るチェロピ。もう会えなくなるんだよなぁ手紙意味なかったかもなぁ、と哀しくなる。
「やばい、誰か来た」
機嫌よく話していたチェロピが、顔を引っ込めた。たしかに足音が近づいてくる。アタシも扉から離れて聞き耳を立てる。
と、隙間の光が暗くなり、鍵束の音がして、扉が開かれた。看守服が一人、入ってくる。顔を上げると、口角の上がったミストが、アタシを見下ろしていた。




