死刑執行⑥
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「ただいまより、昨日獄中殺人を犯した女の死刑を執行する。繰り返す——」
署長のアナウンスが監獄全体に響く。
コーヌはさっき、優しく声をかけて起こした。最期の話し相手がアタシだとわかり、(こう言っていいのかわからないけど)安心していた様子だった。
「コーヌ。二十歳。女。父の命令により酒を店から窃盗し、一般囚となる。そして昨日、獄中殺人を犯し、死刑囚となる。——死刑、執行」
ブツ、と獄内全体へと向けたマイクが切られ、死刑場にのみ聞こえるアナウンスに切り替えられる。「十分だ。それ以上は待たない」と言われる。
大切な友達だから処刑前にちゃんと話したい、と署長に掛け合い、十分の会話時間をもらった。本当はもっと話したいけど、仕方ない。
「コーヌ、最期に十分だけ会話できるんだ。だからちゃんと話そう」
十字架に拘束されたコーヌ。アタシは近寄って、目隠しを取る。
「ありがとう、ネっちゃん。……まず、昨日のこと、説明するね」
コーヌの大きくて潤んだ黒い瞳が、悲し気に伏せられている。
「ちょっと前から、あいつに、ロッドに、『ネネを殺せ』ってナイフを渡されてたんだ」
「え……」
「殺れなかったり、ネっちゃんに気づかれたりしたらボクを事故死させるって言ってきた」
「そんな……。そう、だったんだ。……気づけなくて、ごめん」
アタシはコーヌを抱きしめて髪を撫でる。コーヌはアタシの胸の中で言った。
「だから……、何かされてないかってネっちゃんに聞かれたとき、嘘ついちゃった。ごめん」
ああ、あのときのことか。アタシは、「お友達にも気をつけとけよ」とロッドに脅されたときのことを思い出した。
「そう言うしかなかったんだから、仕方ないよ。嘘じゃないし、ごめんって思わなくていいよ。……ね?」
「……ゔんっ」
コーヌの吐息が熱い。目がさっきより濡れている。
「ネっちゃんが羽交い絞めにされたとき、ボク、すぐ後ろにいたんだ。ロッドがいて、ポケットにナイフが入ってるってわかって、そしたら、ベッドに隠してたナイフを取りに行ってた。あとは、もう、必死で……ごめん、ごめんね、ネネ……」
声を詰まらせ、乱れた息とともに感情を吐き出すコーヌを、アタシは優しく抱きしめる。
「コーヌが謝ることじゃない。むしろ、アタシを助けてくれたんだ。ありがと、コーヌ」
コーヌは、アタシの胸の中で首を振る。アタシは鼻をすすり、抱擁を解き、コーヌの頬を両手で挟み、泣きながら笑って言う。
「コーヌ、悲しいけど、最期だよ。何か話したいことある?」
「……うん。そうだね。楽しいこと、話そっか」
監獄の中での短い思い出を、アタシたちは笑顔と涙で語り合った。
そして、あっという間に、時間が過ぎた。
「あと一分だ」
署長の声がスピーカーから聞こえてくる。
「コーヌ……。毎日、コーヌのおかげで楽しかったよ。ありがとう」
声が震える。
「ボクもだよ。ネっちゃんに会えて、本当によかった。ボクにとって、ネっちゃんは一番の親友だよ。ヤっちゃんにも、ありがとう、楽しかったよって伝えといて」
「うん。……っ、わがったよ」
「ネっちゃん、大好きだよっ!」
「んっ……。アタシも。コーヌ、大好きっ」
「終わりだ。始めろ」
「一発で終わらせるから。目隠し、するよ」
「……うん」
目隠しをして、しっかりと視界を塞ぐ。
マジックミラーの下でしゃがみ、斧を手に取る。立ち上がり、ひとつ呼吸をする。
振り返り、目隠しされたコーヌの灰髪と、手元の斧を交互に見る。あそこに、これを……。
急激に心拍数が上昇してきて、もう一度深呼吸するが、吐く息が震える。気づけば、斧を持つ手も震えていた。息が荒くなる。
「コーヌ。……絶対動かないでね」
「うん。ネっちゃんを信じてるっ……」
聞き慣れた愛しい声に、ほんのすこしだけ脅えが混じっている。アタシは一歩、二歩、と距離を詰め、処刑しやすいように項垂れてくれている頭頂部を見下ろし、斧を頭上にゆっくりと持ち上げていく。
「コーヌ。大好き。……だい、すき……!」
「——ボグもっ! 大好きだよ! ネっちゃぁん!」
振りかぶった斧を、アタシは力いっぱい振り下ろした——。
シャワー後、マジックミラーの中の部屋で、カウンセリングを受けた。
「次のお前の死刑は、公開処刑になった。他の監獄から署長が来る。国の関係者も来る。お前の仕事ぶりを見せてやれ。そうすれば無期刑囚死刑執行制度が、正式に認められるだろう」




