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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第三章 恋と死刑の代償
37/49

アタシがやる

      8


 いつの間にか朝になっていた。一睡もできなかった。気づいたら作業場にいた。右にはヤウリィがいるが、左は空席だった。

「コーヌ……」

 いきなり泣きそうになる。肩に手を置かれる。ヤウリィが腕を回し、肩をくっつけてきた。ヤウリィのいい匂いと温もり。感情が決壊した。

「コーヌっ……。コーヌっ……!」

 歪んだ床に、ポタポタと涙が落ちていく。コーヌの笑顔が目の前に浮かぶ。なんで、なんでだよ……。

 殺したら、ダメだろうが、バカ……。


 ——気づけば、昼休憩になっていた。滲んだ視界を、囚人たちが通り過ぎていく。みんなこれから食堂に向かうのだ。

「お昼になった。立てる?」

 ヤウリィがアタシの手を握って、優しく聞いてきた。横を向くと、ヤウリィの目も赤かった。うん、と言ってアタシは立ち上がった。前にヤリ看が立っていて、こちらを見ていた。不思議に思う。被服室の担当はミストだったはずだ。

 鼻をすすり、アタシはヤウリィと一緒に被服室を出た。振り返ると、ヤリ看が急かすこともなくついてくる。さすがに泣いている女には厳しくしないらしい。

 いや違う。アタシはすぐに気づいた。ヤリ看にアタシを厳しく監視しろ、と命令していたロッドが死んだからだ。


 食堂に入り、トレーを持って席に着く。

 パンをかじりながら、アタシは食堂内のいつもとは違う空気を感じ取った。レズ軍団、ボス猿連合残党、そして一時的にロッドに雇われていた屈強なデカブツたちが、互いを牽制しているような感じがした。つぎのボスを決める戦いが始まるのかもしれない。ボス猿の手下たちがロッドを殺されてアタシやヤウリィにつっかかってこなかったのも、そのせいか。

 でも、そんなことはどうでもよかった。今は、コーヌのことだ。コーヌだけが、心配だ。もう、心配しても意味がないかもしれないけど。

 食べ終わってトレーを返すと、入り口から現れた看守長がアタシたちを手招きした。

 近づくと、いつもの冷たい視線がアタシとヤウリィを捉えた後、気弱そうな目になって視線を下げた。

「なんとかできないの?」

 アタシは半ば無理だと分かっていながら、そう言わざるを得ない。だが、回答は決まっている。

「すまない……」

 看守長が申し訳なさそうに頭を下げる。それから、アタシの目をちらと見て、重そうな口を開いた。

「死刑は午後一番で行う。一応聞くが、どうする?」

 死刑。今までその単語を聞くとワクワクしていたというのが、信じられない。アタシの心はズキズキと痛む。死刑。コーヌが死刑になるのだ。拘束されたコーヌを脳が勝手に想像する。嫌だ、そんなの。でも、

「アタシがやる」

 もう死刑することが決まっているなら、せめて。看守長は「え」と瞠目するが、隣のヤウリィは何も言わなかった。アタシの考えがすこし理解できるからだろう。

「別に、ネネ様がやる必要は……」

 看守長はアタシの前だけで見せる口調と表情で、心配そうに見てくる。

「アタシは、コーヌを他の誰にも処刑されたくない。コーヌはアタシを守ってくれた。知らない奴にいたぶられて処刑されるなんて、そんな終わり方は嫌だ。アタシが一発で楽に終わらせる」

 コーヌは、大切な友達だ。最後にちゃんと話もしたい。

 唇を巻き込み、アタシの話を真剣に聞いていた看守長は、数回頷いた後、言った。

「わかりました」

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