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恋と死刑と無期刑囚  作者: 畑中雷造の墓場
第三章 恋と死刑の代償
32/49

まずは、全部脱いでもらおうか

      3


 レズたちの巣窟は一階フロアだった。幸い、房にシーツはかかっておらず、喘ぎ声も聞こえてこなかった。今日はもう終わったのか、それとも休みなのか。いつもセックスしているイメージがあった。

 房の手前で一度覚悟を決め、深呼吸する。入り口の前に立ち、檻をコンコンとノックしようとするが、その前に房の中の様子に動きが止まってしまう。

 レズたちの頭、青髪の女——アンシュはベッドの上で本を読んでいた。壁に背を預けて股を広げ、その間に桃色の髪の女を座らせている。まるで親が子に絵本を読み聞かせているような構図だが、実態は違った。本のページをめくった桃髪の女は後ろから両胸を揉まれていて、息をハアハア言わせて赤面している。アンシュは何食わぬ顔で文字を追っているようだった。うわぁ、と小声が漏れる。相変わらず異常だ。思わず顔をしかめてしまう。

 固めてきた覚悟が一瞬で砕かれたような気持ちになり、踵を返そうかと逡巡する。が、目的のために、アタシは勇気を絞り出した。檻をノックし、切り出した。

「話があるんだけど」

 こちらに気づいて顔を上げたアンシュが、意味ありげに口角を上げた。

「おいで」

 あごを動かし、目で入れと指示された。アタシは房に入り、ベッドの横に立った。

「頼みがあってさ」

 アンシュは女の胸をもんだまま眉で続きを促した。気持ちよさそうな女の息づかいを無理やり無視してアタシは話した。

「ボス猿たちを邪魔してほしいんだ」

 アタシは、被服室でボス猿たちがアタシの恋を邪魔してくることをアンシュに説明した。もちろん、ミストとの恋のことも隠さずに話した。アンシュもミストとアタシのことは薄々知っていたようで、疑問は差し挟まれなかった。

「だから、協力してほしい」

 すべて話し終えて頭を下げると、アンシュは胸を揉みしだく手を止め、言ってきた。

「いいぞ? ただし条件がある」

 やっぱり、そうきたか。アタシは頭を上げ、条件とやらを聞こうとする。アンシュは嬉しそうな笑みを浮かべて、アタシの手に触れてくる。首の後ろがゾワゾワした。

「アタシと寝ろ」

 え。

 一瞬、即座に首を横に振りそうになった。

 実際覚悟はしてきていた。でもやっぱり直接言われるのはきつかった。

 アタシは一度、己の中で天秤にかける。体を売ってミストとのイチャイチャをするか、体を売らずにミストとのイチャイチャを諦めるか。後者を選んだ場合、ミストとのセックスは遠ざかる。せっかくいい感じになってきているのに、ロッドの邪魔のせいで熱が冷めてしまう可能性はある。ぐぅ。心の内で答えは決まっていたのに、体が拒否してくる。

 でも……。アタシは決断を下した。

「わかった。好きにしていいよ」

 アンシュは喜び、舌なめずりをした。胸、腰、股、脚、と全身を舐るように眺められ、逃げ出したい気持ちに駆られる。

「シーツをかけな。二人で楽しみたい」

 桃髪の女が指示を受け取り、シーツをかけて出て行った。やがて二人きりになった。

「まずは、全部脱いでもらおうか」

 ああほんとに嫌だ。コーヌ以外の女に裸を見せるなんて。しかも、この女の言いなりにセックスしなきゃならないなんて。

 こめかみがぴくぴくするのを感じながら、アタシはなんとか笑顔を浮かべたまま服を脱ぎ始めた。ミストとヤるため、ミストとヤるため……!


 長い夜が明け、翌日。被服室での作業時間。

「指、怪我しちゃった」

 作業台を見て回るミストがそばに来たとき、アタシは針でわざと血を出した。なるべく痛そうに指を持ち、表情を作る。

「大丈夫? 見せてごらん」

 屈んだミストがアタシの手を自然にとる。手の感触だけでドキドキする。水で流そう、と立ち上がって流しに向かうとき、アタシの腰にそっと手を添えてくれた。うわ、いい。これだけのことでも、すごい嬉しい。

 傷口を洗い流しながら、ちらりとボス猿たちを見てみる。ロッドはアタシを恨めし気に睨みつけ、それから大人しく手元の針と糸を動かし始めた。作業台の向かいには、レズ軍団がそろっている。アンシュがウインクしてくる。思わず身震いする。できるものなら昨夜のことは記憶から消し去りたい。

 アンシュは、仲の良い女看守を通して作業場のトレードと席の指定までミストに取りつけさせたという。アタシの恋を邪魔したいボス猿は当然抗議したが、ミストにきっぱりと「決定事項なんだ」と言われ、不満げに呑み込んでいた。

 席を移動したアタシには、もうボス猿たちの邪魔は入らない。それどころか、ロッドがミストに声をかけようとすればレズたちが邪魔をする。へっ、ざまあみろ。アタシは自分を犠牲に勝利をつかみ取ったのだ。

「ネネ、お昼休憩になったら最後に部屋を出てほしいんだ。意味は分かるね?」

 耳元でそう囁かれた。アタシはコクコク頷いた。

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