無期刑囚死刑執行制度
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翌朝。いつもの習慣で起床時間の数分前に目が覚める。布団を畳み、顔を洗い、身だしなみを整え、部屋を軽く掃除してから開房点検を迎える。その後食堂で朝食を摂り、一度房に帰ってきた。八時からの刑務作業に向け、準備する時間だ。
房で歯を磨いた後、コーヌを迎えに行き、一階へ降りる。他の囚人たちも、房から出て、出入口の向こう側に消えていく。
アタシたちも一般房棟を出ると、
「無期刑囚は集まれ。作業場には行くな」
メガホンを口に当て、指示を飛ばす男看守がいた。音が大きくてうるさい。すでに何人か見知った顔の無期刑囚が、不満そうに看守を見たり、なにがあんの? などと質問したりしていた。
「なんだろう?」
無期刑囚のみ集合させられることなど、これまで一度もなかった。濃い青の入れ墨が十人ほど集まっている光景を見て、アタシは不安を覚える。
「楽しいことだったらいいねっ!」
しかし隣のコーヌは無邪気な笑顔でそう言う。アタシと真逆の反応に、思わず笑ってしまう。
「そうだね、じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい!」
可愛く手を振られる。
全員集まると、看守が歩き出した。後ろをついてしばらく進むと、見知らぬ部屋の前で立ち止まった。入れ、と言われ、アタシたちは部屋に足を踏み入れる。
会議室、と言う言葉が似合う部屋だった。スチール製の長机と折り畳み式の椅子が狭い間隔で並び、前方にはホワイトボードがある。
そこに、署長がいた。浅黒い肌の男。六十近いと言われているが、老いを感じさせない佇まいだ。看守帽を深くかぶっていて、つばの下から鋭い眼光を飛ばしてくる。
看守の指示に従い着席し、前後の扉を閉めた途端、署長が話し始めた。
「結論から言う。貴様ら無期刑囚には、これまで看守が行っていた業務、『死刑執行』を代わりに担当してもらうことになった」
死刑、執行? 十人ほどの無期刑囚たちがざわつく。アタシもいきなりの話に、頭が追い付かない。え、看守の代わりに死刑執行……?
「概要ならびに背景などは資料に書いてある。気になる奴は読めばいい。五分やる」
説明はしない、自分で理解しろ、ということだろうか。アタシは当惑しながらも、机の上に置いてあった資料を読んでみることにした。
〇無期刑囚死刑執行制度について
・無期刑囚の中から死刑執行人を選出し、死刑を行う
・従来の電流椅子による方法ではなく、直接的な痛みを与え、虐げて処刑する方法を用いる
※様々なリスクを考慮して、男ではなく女の囚人のみに適用する
アタシは、『死刑執行人』や、『直接的な痛みを与え』、『虐げて処刑する』という文字に、不吉な予感を覚える。さらに読み進めると、国の問題点や、制度ができた経緯、期待される効果などが書かれていた。
〇我が国の問題点
・貧困地域が多く、殺人率が他の国と比べて高い
・安全な他国へ移住する者が増え、人口が減少している
〇現行の対処法
・殺人犯を死刑又は無期刑にする
・警察組織の増強、取り締まり強化
〇監獄内の問題点
・死刑執行が停滞したことで、死刑囚が増え続けている このままだと房の数が足りなくなる (死刑執行の停滞は、数年前、過酷な労働環境や死刑執行による精神的疲労を訴えていた看守が自殺したことが原因 政府は看守に死刑執行させる制度を問題視した)
・看守の数が減り、監視の目が行き届いていない
〇現行の対処法
・日々の業務の見直し・改善
・監獄法の施行(獄中殺人、脱獄未遂、脱獄のいずれかの禁を犯した者は死刑囚になる)
〇解決案
・無期刑囚死刑執行制度 看守ではなく、無期刑囚に死刑執行をさせる たとえ死刑による悪影響が認められても、永久に社会復帰の可能性がない無期刑囚ならば問題ない 問題があれば監獄で処理することも可能
〇期待できる効果
・看守の労働環境改善・増員
・国の殺人率の減少(殺人を犯したら残虐な死刑が待っているという恐怖心を国民に植え付けることにより、殺人以外の方法で解決するようになる)
〇死刑の内容を世間へ浸透させる方法
・新聞又はテレビ(時期は未定 ※発案者であるウェスタン監獄でまず実験をし、問題がなければ他の監獄にも導入する その後世間へ情報を流す予定)
〇報奨金
・特殊な刑務作業扱いとなるため、通常作業の倍
〇死刑執行人の選定方法
・署長が無期刑囚の中からランダムに決める
・拒否した場合、死刑に処す
・志願する者がいる場合、その者に仕事を任せる
〇無期刑囚死刑執行制度による監獄法の変更点
・従来……獄中殺人、脱獄未遂、脱獄のいずれかの禁を犯した者は死刑囚になる
・変更点……獄中殺人、脱獄未遂、脱獄のいずれかの禁を犯した者は死刑囚になり、即時処刑される
すべてに目を通したアタシは、逃げ出したい衝動に駆られていた。長々と書かれていたけど、つまりは、これからこの十人で死刑執行を回していくってことでしょ⁉ アタシは手を挙げ、署長の目を見た。だが、
「ここに書かれていることがすべてだ。発言は許可しない」
文句や抗議の声が上がることは見透かされていたようで、先に口を封じられる。
「五分経った。全員、顔を上げろ」
署長に従い、他の無期刑囚たちも顔を上げる。みんな、信じられない、嫌だ、という顔をしていた。
「これから男子棟の地下に行く。ちょうど昨日、男子棟の囚人が脱獄未遂で死刑囚になった。移動だ」
金色の腕時計をちらりと見た署長は、機敏な動きで廊下に出て行ってしまう。
は、マジ意味わかんないんだけど。なにこれ、冗談でしょ。口々に怒りを漏らし始める無期刑囚たち。アタシも同意だった。アタシたちには、人権がないのか。
そうした怒りはしかし、看守に「廊下に整列しろ」と命令されると収めざるを得ない。アタシたちは嫌々ながらも部屋を出た。逆らったりしたら懲罰房にぶち込まれるからだ。
手錠を一人一人嵌められ、アタシたち無期刑囚を挟んで先頭が署長、最後尾に看守という形で歩き始めた。




